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神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch4・いくつもの生命世界をこえて
117/142

4ー13・恋愛のお話から(最も賢い生物3)

 アズテア第六暦12年の15日。


 ミズガラクタ号において、エルミィが母メリシアとふたりだけになる機会は少ない。実はミーケたちと出会う前からそうだった。もちろん仲が悪いとかそういうわけではない。ただ単に、関心のあることが違いすぎるだけだ。唯一共通して興味あるのは恋愛に関することだろうが、そういう話をするのはちょっと恥ずかしくて、意図的に避けている。

 テレーゼはそんな事情は知らない。だから彼女は、あちこちランプと大きな花の植物が綺麗な共有部屋で、ちょうど彼女ら母子と一緒になった時に、以前から気になっていたことを、遠慮なく聞いてみた。

「恋に落ちる時って、なんとなく想像はできるんですけど、間違ってるでしょうか? そういう感情を抱けない人にはとても難しいでしょうか? それと、恋に落ちてしまったと気づくのは、いつの段階なのでしょう?」


 "世界樹"には恋愛感情を知らない者もけっこういる。特に出身コミュニティ内において相対的に若い世代の者には多い。テレーゼもそうだ。


「間違ってはないと思うわ。感覚的には単純ね」

「でもいつ気づくかって、意外に難しいかも」

 いざ問いかけられると、メリシアにとっても、エルミィにとっても、なかなか興味深い話題。

「少しだけ厄介な問題が」

 母を見るエルミィ。

「恋愛感情を普通に受けいれてる者たちにとって、共通して重要なことがいくつかあったけど、そのほとんど研究対象にもなってる。もちろんね。まあ"世界樹"だから」


 しかしテレーゼにとっては、そんな研究が過去にあったこと自体なかなか驚きではあった。例えば自然のものではなく、完全なコントロール下での恋愛感情についての研究が、過去に何度かあった。そもそもメリシアも、その研究した者たちのひとり。


「でもそれらのいずれでも最終的な結論は変わらなかった。2つの答のうちのどちらが正しいのか。つまり、心層空間のために、恋愛感情というのは自然なものと、用意されたもので、根本的に異なっているのかどうか」

 メリシアが参考として表示させた資料の半分くらいは、彼女自身のもの。テレーゼが少し見たところでは、なかなかに感情的な記述が多いように思えた。

「わたしには、何が問題なのかがわからないですね」

「いえ、問題なんです、それは」と、そこでいきなり現れた映像のザラ。

 一緒にいたのか、ミーケもザラのすぐ後ろ、その場に一緒に姿を見せたが、妙に興奮気味な彼女に比べ、気まずそう。


 別に盗み聞きしていたとかではない。ただ、ミズガラクタ号内では、研究資料の保存システムは全体で共用で、同じタイミングで利用していれば、他の者がどの資料を参照しているのかわかる。それで、恋愛の研究に関する資料ばかり引っ張り出されていることに気づいたザラは、面白そうな話題だと思って、現れた訳である。

 ミーケは恥ずかしげだったが、彼もまた恋愛感情がどういうものかを知っているからだろう(ザラは、興味はあっても、自身は恋愛感情というものを抱けない)。


「確実に重要なことの1つは、心層空間の、どの生物においても共通である要素です。もちろんあらゆる生物が恋愛感情というものを有する訳ではありません。だいたいジオ系(わたしたち)にしたって、それは実質的な物理的モジュールとしても扱えます。それでも」


 とにかく話が長く、ザラがいかにその、彼女自身は感覚的に理解できたことのない感情に関して強い興味を持っているのか、本当にわかりやすい。


ミラ(おかあさん)の影響ね、多分)

ミラ(おかあさん)の影響なのかな)

 メリシアもエルミィも、楽しげに、それにおそらく自分たち以上に、恋愛(それ)について詳しく語るザラに、同じ感想を抱いたがどちらも口にはしなかった。


ーー


 アズテア第六暦13年の109日。


 ミーケを除いた彼女たち。つまりは、ザラ、テレーゼ、エルミィ、メリシアがまた、共有部屋で揃った日。


「この前の、と言っても1年以上前だから、アズテア(わたしのくに)では本来そういうふうに言わないんですけど、まあですけどこの前、ちょっと恋愛感情のこと話したじゃないですか。まあ、今思えば、わたしが一方的に話しまくってただけみたいな感じでしたが」

(自覚はあったんだ)

 それはあるだろうが、ついつい、頭に真っ先に浮かんだ言葉が自分でおかしくて、ちょっと笑うエルミィ。

「実はあれから、いろいろ考えてみて、例えば、本当に自分には恋愛感情がわからないのかとか、そういうことを」


 前にザラ自身が、重要な問題だと言ったことだ。恋愛はつかなくても、感情というものを機械的かつ実用的に(それはあらゆる事象に関して可能だと証明されてもいる)理解しようとするなら、心層空間を基点としたネットワークの構築が不可欠。しかし、心層空間自体にアクセス可能かどうかにもかかわらず、物理的実体のシステムのためのそのようなネットワーク構築は理屈としてはかなりの程度でコントロールが可能。だからこそ、(おそらく)特に綠液系では、(精神の自由性のために)、ある感情が自然に生じたものなのか、コントロールによって与えられたものなのかの違いが、特に重要となる。

 恋愛感情に関してはまず、その存在がありえない物理的状態から、間接的に与えられた場合に、どう定義するかで古くから意見が割れている。ようするに恋愛感情を抱く物理構造を造られた上で発生した恋愛感情は自然なものだと考えられている。しかし物理構造に関係なく、外部のシミュレーションなどによって構築された恋愛感情を、意識的には区別のつかない精神部分として与えられた場合に、それも恋愛感情と呼べるのか、ということが議論されているのだ。そうだと認めない者は、そのような、自然には恋愛を抱かないはずの物理構造が持てる恋愛感情を偽物だと考え、本物と区別する。


「なぜ偽物と本物で異なると考えないといけないのか。それはつまり、恋愛感情が、単にある生物個体の内部に起こる閉鎖的現象ではなく、環境内の要素としてあると考えられてるからです。簡単には、与えられた偽物の恋愛感情の場合は恋しているつもりなだけで、全体への影響が方向性(ベクトル)的にデタラメ(ランダム)です。本当の恋愛は、それはたいてい全体のシステムの中で良き、あるいは悪いこととはっきり定義可能です」

 ここまでは、前に話していたこととほぼ同じ。しかしこの続きは違った。

「ちょっと哲学的すぎて大きく的を外しているかもしれませんが、でもよく考えてみたら、少なくともわたし自身は、物理構造よりも、意識と関係した神秘的なものとして恋愛感情を見ていることに気づきました。そしてきっと、わたしが本来は恋愛感情を抱けない存在であってもそれが理解はできるように、その理解からの、つまり本来の心のネットワークにおいてはバグ的なものから生じた恋愛感情がありえることに気づきました。そう考えると、もしかしたらって思うんです。もしかしたらです、わたしはもしかしたら」

「ミーケに恋をしちゃったかも、て話かな?」

 前以上に興奮してるかもしれないザラに対し、エルミィはおそらく前以上に冷静。

「そういうことです」

 しかし本当にそうなのだとして、恥ずかしさとか楽しさとかの前に、ザラは落ち込んでしまっていたようだった。

「もちろん、場合によってはそういうふうになる可能性だってあったかもしれません。わたしにとっては普通に尊敬して、憧れてる相手でもあります。科学者としても、知的生物としても。でも」

「これまで自分が感じてきた、好きな相手っていう気持ちと違っていることが怖い?」

 何か言おうとしたものの、しかし適切な言葉が見つけられなかったらしい娘に代わって、メリシアが問う。

「わたしのこういう感覚、けっこう普通ですか?」

「まあ、そういう感情を知識として理解している人としては普通、と言えば普通ね」

「これ、勘違いですか?」

 メリシアの様子からそう推測したザラ。

「難しいところね。実際わたしも判断つかないわ。でもあまり気にすることないと思う。あなたはミーケが好きだけど、でもきっと同じくらいにリーザも好きなんでしょう。わたしは、そういうのってとてもいい事と思うわ」

「今、さらに気づいたんですが、わたしが単に恋多き女の子というだけの可能性は?」


 "世界樹"で一般的に恋愛といえば、同じ一族に属していない者同士の間で生じる現象であるが、性別は別に関係ない。それでも恋愛に慣れ親しむ者は異性のパートナーを望む傾向が強いが(1つの謎として研究対象にもなっている)。


「これは断言できるけど、あなたの性格からしてそれはない」と、それだけはかなり自信満々なエルミィ。

「実際さ、恋をするって結構難しいんだよ。複雑。あなたの気持ちが本当にそうだとしても、ということは関係なく、ミーケたちと仲良くいれるなら、それが素敵なことだよ。恋愛をよく知ってるわたしからしたらね」

「エルミィ、あなたは」

 少しばかり、それを聞くのは迷ったが、しかしザラは聞いてみた。

「あなたは、ミーケに、いえ、まだミーケに恋をしてますか?」


 別に爆弾とは言えなかったろうが、誰もが次の言葉をまずなくす。


「え、そ、そうなの?」と、沈黙を破ったのは、それまで黙っていたテレーゼ。

 エルミィの気持ちにも気づいていなかったのか、普段の丁寧な言葉遣いが崩れるほどに衝撃を受けたようだった。

「ごまかしなしで普通に言うけど、わたしは確かに彼が好きだよ、恋愛感情的に」

 それでもエルミィは、特に慌てたりすることもなかった。

「もちろんさ、誰だって心の強さで立ち向かえることと、立ち向かえないことがあって。結局どんな感情だってそういうものでしょう。恋愛感情は中でもとても強いものだとは思うけどね」

 ただ、彼女は確かに楽しそうだと、ザラにもテレーゼにも思えた。

「正直あまり悲しくもないわ。負け惜しみとかでもなくてね。ちょっとそういうのもあるかもだけどさ、だけどさ、わたしだって普通にリーザも好きだし。ミーケとあの子の間に入る気はなくて。そもそもさ」

 そこで、一旦笑い声ももらしたエルミィ。

「ほんと、あのふたり、わたしからしたらかわいいから。わたしも母さんとか、エクエスとかよりは下でも、あの子たちやあなたよりはずっとおねえさんだから。見てるの楽しい気持ちだってある、正直なところね。自分の気持ちが大切なことも、それはそうだけどね」

「やっぱり、わたしは違うのかもですね。今までのことと、そして今理解できたと感じること合わせてみたら」

 実際は、どちらかというと混乱していたザラ。

「わたしは勝手に、恋愛感情というものはとても強くて、それでとても、意識的な抵抗が難しいものだって思ってたんです。ものすごく強い衝動と言うか。でも根拠薄いですよね、母にちょっとそういう印象あったってだけだから」

「ミラさんは恋愛感情を?」

 メリシアは、またそこに興味を持ったようだった。

「ですね。実際的にはわりと、話を聞いただけという感じなのですが。母は、簡単に誰かを好きになったりするような女ではないけど、でも恋愛的に大好きな人がふたりいた、とよく言ってました。誰かは言ってくれなかったけど、わたしは多分、昔の母の先生、それにわたしも知ってた母の弟子なんだと思うんです。そのふたりって」


 ミラは、自分の恩人であるということ以外、師であるレイレルについて誰かに何か語ることはなかった。ザラは、いくらか彼と母の関係について調べたことがあるが、不真面目だがとても才能があると信じていた教え子と、その勝手に振り回されている教師、という、最初から予想していた通りのイメージが浮かび上がっただけだった。それでもザラは知っていた。ミラは、研究室に彼女ひとりだけでいる時、師のことを想って、よく泣いていたこと。

 一方弟子であったエルクスに関しては、ザラはほぼ確信している。


「母は、自分が彼を見るようには見てくれなかった彼と話をする時とか、とても楽しそうでした。わたしは、それが本当は辛い事なのではないかって考えたこともあります。でも違ってました。あ、言っておきますが、母は隠し事下手なんですよ、だからわたしには結構彼女の嘘とか筒抜けでした。でも、恋愛感情は、特に母が生きてた時代のわたしには難しすぎました」


 ザラが昔、立てた仮説は、母が研究者としてその感情を邪魔なものだと考えている、というもの。


「でもエルミィ、母はあなたと同じだったのかもです。やっと理解できました。恋愛のための片思いは楽しめるもの、なんですね。そういうことですよね」

「なんとなく、認めたら負けな気もするけど、まあ、そういうことだと思う」

 ただ、実際何が負けなのか、エルミィ自身も意味不明だった。


「恋バナ、コイ、バナ。をしてるの?」

 また唐突に現れたスブレット。

「ええと、別におかしくはないでしょうけど、いえ、正直普通に意外ですけど、スブレット、あなたも結構こういう話に興味が?」

 その場の他の者も、スブレットに対してはザラと同じ印象。

「正直かなり微妙だけど、でも一応わたしも恋愛感情ちょっとだけあるしね、一応ちょっとだけ、なんかあるって診断されたことあるの。ちょっと怪しい感じのテストでだけど」

「だいたい女の子の方がそういう話に関心持ちやすいって話、本当なのかもですね」

 とりあえず、その説だけは可能性が高くなったと感じたザラ。

「いや、多分あなたたちの場合にはあまり関係ないと思う。そういうことに、女の子の方が関心を抱きやすいっていうのは、普通に、あくまで怪しいテストとかするまでもなく、当たり前のようにそういう感情を持っている子たちの中では、て話だから。感情自体は同じだし、心層空間も関係なくて、ただ物理システム的な問題」

 エルミィはやはり冷静。自身の専門分野が関連してるので尚更に。

「でも、少し恋愛感情あるかもって。スブレット、あなたはミーケとリーザのことは、どういう感じに思います?」

 そこはエルミィよりも、気になったようであるザラ。

「うん、それね、ほんとそれ。実はちょっと難しいてところある。そりゃ、わたしもふたりとも好きだよ。でも例えばふたりそれぞれと話す時、どっちにしても楽しいは楽しいんだけど、ただちょっと感じが違うかも、と思ってる。ミーケとは普通に楽しくて、リーザはちょっとかわいいって感じあるかも。いやこれが、恋愛かな?」

 しかし、急に凄いことを閃いたかのように興奮した様子を見せるスブレットに、エルミィはもうこらえきれない感じで笑う。

「一応ね、言っとくわ。恋愛感情を確実にちゃんと持ってて、そしてちゃんと恋してる相手もいて、しかも生物の物理システムはよく知ってるわたしがね。まあ、99%以上、あなたのふたりへの気持ちは恋愛感情関係ないわ。でも、やっぱり良きものがあるんだろうけどね」

「あ、今なんかちょっと、何か素敵な考え方だなあ、みたいな感じでドキドキしたよ」

「ああ、と、それはわりと、そういう類の感情かも。て、もしそうだった時のためにさっさと言っとくけど。わたしは、いやもちろん、スブレットあなたは素敵よ、だけど恋愛関係は多分だめと思う。上手くいかない確率99%、いや100%だと思う」

 もうザラも、メリシアも、笑い声を抑えられなかった。


ーー


 アズテア第六暦20年の213日。


 実のところずっと止まっているようで進んでいることもあった。

 恋愛感情についての議論の中で、エルミィが思いついたアイデアから出発し、彼女とザラは、さらにネーデ生物側の知識と、エクエスの昔の研究記録も参考にして、たどり着いた。ひたすらに何もない領域を進んで進んで進んでいるだけの現状を打開する方法。


「まず、どういう原理かはわかりませんが、我々は今、同じ領域をループしているという可能性が高いです。それで、もしそうならば、そのループさえどうにかできるなら、我々は先に進めるということになります。で、本当にループ状態なら、それを抜け出す方法、おそらく見つけました」


 またランプと大きな花の共用部屋で、しかしかなり広くなっていて、その場にはミズガラクタ号の全員が揃っていて、カルカ号の者たちも、姿は見せていないが、聞いている。

 ザラは、こういう時、つまり仲間たち全員に重要なことを説明する場では珍しく、何の映像も利用せず、ただ言葉だけで語った。


「ただ1つ。この方法は賭けでもあります。部の悪いものではありませんが賭けです。もしも今、本当にループせずに、ただひたすらに長い道を進んでいるというだけなら、誰かを犠牲にすることになってしまうかも」

 しかし誰に対しても確認する必要はなかった。みんなこの旅に出た時から、命をかける覚悟くらいできているから。


 そしてその方法は、とても単純。

 ある場に誰かを残して、船はひたすら進む。ループしていないなら残された者はおそらく永遠に置いてきぼりだが、ループしているなら、やがてその誰かのもとに船は再び通りかかるはず。その時に、そこで止まっていた者と、進む船に乗っていた者たちとで、心層空間ネットワークへの影響を比較することで、ループを実現している背景システムを発見できる。

 ザラたちは5年ほど時間をかけて、そのためのシミュレーションシステムを完成させていた。後は実行するだけ。


ーー


 アズテア第六暦22年の203日。


 残る者の候補は少なかった。まずループしてるとして、そのループしてる道の横の広さがわかっていないから、場合によっては船が再びそこを通りかかった時でも気づかないパターンもありえた。だから、ある程度広い範囲の感知を、どれくらいになるかはともかくとして、おそらくそれなりに長い時間だろう待機期間の間ずっと維持し続けることができる者でないと、その役目を担うこともできない。


「フラッデさん、アイヤナくん。あなたたちに任せる」

 自分も含めた候補の内、最も適切だとしてふたりを選んだのはリーザ。

 他にルカとエクエスも、自分が残ると言ったのだが、説得するのも面倒くさいとばかりに、リーザは彼らは強引に寝かせた。


 そうして、フラッデとアイヤナが、いろいろ組み換え可能な10の大きな部屋を内部に備えた待機用の小型船の中で暮らすようになってから、2年ほどがすぎた。


 そういう理由で、それに出会ったのはふたりが先だった。


「アイヤナ」

「ぼくらの船じゃない」

 だが、アイヤナが感知し、彼との接続からフラッデも気づいた、確かに近づいて来ているらしいそれは、船のようではあった。


 アイヤナは、聖遺物箱(レリキュアリ)というシステムの核となる、神子(みこ)と呼ばれる存在。つまりは、特定方向からのエネルギー透過や周囲空間解析などができる"カテナの円盤"、様々な情報を表示するデバイスとなる"エニシアの画材"、事前にメモリーされた物質の修復が可能な"アキュリスの杖"の、3つの聖遺物|(つまり古代のテクノロジーアイテム)をコントロールするための媒介。

 フラッデは、ザラたちの仲間になってから、《ヴァルキュス》でも改造をしてもらって、自分の半分ほどである機械の体と、アイヤナのシステムとの繋がりを強化している。


「円盤を使うぞ」と、アイヤナの背中についていた円盤を取ったフラッデ。

 ふたりなので問題なく意味は伝わるが、正確には、それは使うというよりも、それだけに集中するという意味。フラッデたちは、いつか戻ってくるはずの船にしっかり気づけるように、円盤の、周囲を探る機能は常に有効化している。ただ、ふたり共に負担はかかるが、他2つの聖遺物の機能を完全停止させることで、それの感知性能をかなり高めることができる。


「〈ジオ〉から」

 それが何か少しでもわかる前に、自身が探られていることに気づいたらしいソレは、自らその姿を見せてきた。

「聖遺物箱、珍しい」

 ソレはもう、フラッデらの言葉も知っていて、アイヤナがどういう存在であるかも理解したようだった。


 まだ遠くから、突然に小型船内のふたりのすぐ前に現れたソレは、感知した時の感じと違って、船ではなかった。そもそも船だと勘違いした理由は、それが生物を中に含む大きな非生物のようだったからだ。だがソレは、何か違っていた。

 ソレは、大きな何かに入ってる小さな生物ではなかった。ただおそらく生物、機械の生物。ただ真っ白い箱みたいな。

 大きさはヒトの子供くらいだろう。中が空洞ならおそらくアイヤナは入れるが、今のフラッデは入れない。


「エルレード生物なの?」

 とりあえず聞いてみたアイヤナ。

「やっぱり、完全な計画通りとはいってないみたいだね」

 何か意味があるのか不明だが、一回転した箱。

「きみらの考え面白かった。安心していい。もうじきあの"神々の船"も、またここを通るだろうから。あの、きみたちがミズガラクタ号と名付けたあの船のことね。色々あって、ぼくらはあれを神々の船と呼んでいたわけさ。昔ね」

 さらにもう一回転する箱。

「ある計画があって、きみたちはきっともうそれに気づいてると思うけど。ぼくらが知っていることも限られてる。計画に関わってなかったしね。それでもきみたちはきっと、ぼくらに聞きたいことがたくさんあると思う。きみたちの船がまた通りかかったら、今度はぼくも乗せてくれ。伝えるべきことはないが、でも伝えたいこともある。〈アルヘン〉が最後の希望を託したきみたちに」

 そして、箱はそこでようやく気づいたかのように質問の答を返した。

「あ、ぼくはエルレード生物だよ。マシャは知っているみたいだね。ぼくは、きみらみたいな言い方するなら、あれの妹」

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