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神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch4・いくつもの生命世界をこえて
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4ー12・心が壊れないように(最も賢い生物2)

「本当にまだエルレード生物がいるなら、単純に進み続ければ会えるかもしれません」

 ザラはそう言った。


 実際、導かれているかとか、そういうことかどうかも不明だが、極個体上をそうだとわからないまま何年もの時間、さまよっていたことは、まだ生きている何かの意図を思わせた。


 だがさらに数年間も何もなかった。どのような感知システムにおいても、ひたすら変わることのない景色。


ーー


 アズテア第六暦11年の81日。


 カルカ号にいる時、リセノラが着ている不規則に複数のアームが付いているスーツは、実は彼女にとって、問題のある環境に対応するためのものとかではなく、ロキリナ生物たちの仮想空間ネットワークに気軽にアクセスするための特製コンピューター。

 彼女にとって専門分野といえば「工学(メカ・テク)」だが、その言葉が含める範囲には、精神というものの原理まで扱う生物工学もあるつもり。

 ロキリナ生物からしてみれば、大災害を強化生物状態で生き抜いたジオ生物は、驚くべき奇跡なのであろうが、そんな強化生物でもない古い存在であるリセノラとしては、ロキリナ生物でもかなりの奇跡だ。

 考えてみれば、実際自分(つまり大災害前の、綠液系を持たないジオ系)が、自分のような存在ばかりの世界に生きていて、大災害のような、つまりは、現在の物質存在のままでは滅びるしかないような、そんな全宇宙規模の危機に直面した時、どのような道を選ぼうとするか。

 機械化はありだ。だが心層空間はどうする?


「ねえ、タキム」

 仮想空間ではない円形の部屋のほぼ真ん中に立っていた自分の、少し右側で、そのタルのような体の半分ほどを、巨大な卵のようなものに浸らせていた(まさに半分、仮想空間に浸っているらしい)ロキリナ生物の友達。

「それにアイヤナにも、これはちょっときみにも聞いておきたい」

 左側にいた、ジオ族の仲間。自分とミーケを除いたミズカラクタ号の者たちの中では、もしかしたら最も特殊な存在かもしれない少年。


「わ、え、わと、いや、何? 聞きたいことは?」

 半分どこかにあったとかそういうわけではないが、自身の中の何かに閉じこもっていた(?)ようで、自分で自分の体をなんとか叩いて、まるで眠りそうだった自身を無理やり起こしたようでもあったアイヤナ。

「ふたりともね。仮想空間にアクセスしている時、心層空間はどういうふうに感じてる? 置いてけぼり? それとも何か、変化して一時的な対応みたいな感じ?」

 ジオ系の者は普通は後者であることを、リセノラは知識として知っている。


 そもそも、映像表現でなく、仮想空間への意識の直接移動を実現する方法は、リセノラの知る限りでも、神経系への物理的影響しかない。

 綠液系の人間より旧式人間の方が心層空間との繋がりも深いから、あまり細かく調整しないでも、安定した意識移動もしやすい、リセノラは昔は知らなかったが(というか知りたくても知れるわけなかったが)、ロキリナ生物やネーデ生物は、綠液系より彼女のような旧式に近い。


「ぼくは、別に普通のジオ系と同じだよ。知ってる限りのそういうシステムで、心層空間はしっかり動かせる。言葉で正確に表現するのは難しいけど」

「正直、感覚的にはまるでわからない。今のロキリナの我々には、外部でのモニター記録もないから、つまりわれわれは繋がってる時の記録を持ってないし、今新たに撮ることも難しいから、実際的にも心がどういうふうに動いているのかわからない」

 アイヤナもタキムも、返してきた言葉は質問の答として、はっきりしたものとは言えないだろうが、言いたいことは、リセノラにはよくわかった。

「わりと予想通り。だからこそやはり驚きだよ」


 綠液系とは、心層空間からかなり離れて存在できる知性体というように考えることすらできる。つまり根幹的な部分で繋がりが弱いからこそ、コントロール可能な範囲が広いのである。

 リセノラからすれば、まさしく驚くべきことだ。心層空間をどう理解するにせよ、非綠液系の生物に共通していることは、その心との繋がりは、存在を認識する知性そのものの基盤みたいなもので、例えば人間で言えば、それとのリンクに不可欠な神経の物理構造(つまり脳)を少し破壊しただけでも、知性を殺せる。より正確に言うなら、再現修復(フィードバック)不可能な状態へと移行させられる。

 綠液系の生物ではそうはいかない。スフィア粒子の動作自由性は高いが、綠液はさらに、神経システムの安定性を維持するための時空間内ベクトルを有する。ようするに(例えばリーザのように使いこなせればだが)物質にかかるあらゆる方向からの圧力に対して、不透明のまま透明にもなれる。知性を殺したい場合でも、脳の破壊とあわせて綠液の再生情報保存構造と呼べるようなネットワークも、細かく断ち切らなければ、壊れた心を造れない。


「壊れた心」

 自分が心に抱いたその表現を、リセノラは声にも出してみた。

「ミーケ」

 そして、その名前の彼にすぐ連絡をとった。


ーー


アズテア第六暦11年の110日。


 ミズガラクタ号の、いくつかのモニターと、時々壁から壁にワープする円盤以外は、ほぼ何もないようであるリセノラの部屋。

 モニターには、ミーケの記憶回路の一部をわかりやすい図にした、絡み合った紐に閉じ込められている球体。つまりは彼の封印されている記憶。それを表示したリセノラの他、部屋には当のミーケとエクエスがいたが、通信を通して話を聞いている者は他にもいる。


「ミーケ、いつかあなたが言ったように、あなたはやっぱり自分自身を守るために記憶を失ったのだと思う」

 ミーケ自身と、それにザラ、リーザ、スブレット、メリシアも言及したことがある説だが、誰の時でも大した根拠はなかった。リセノラがそれを持ち出すのは初めて。

「実はね、わたしはこの封印構造を最初に見た時から、何かおかしいと、違和感感じてたの。で、よく考えてみてわかったわ。もしもこれが二重なら納得いく。記憶を取り戻す時、ミーケ、物理構造への影響のためにあなたは苦しみを感じてるじゃない。そうではなくて、本来はもっと早くに開放されていたはずの部分が、無理やりまだ封印領域内に収められていて、そのポテンシャルが弾けるから苦しいと考えた方が、きっと事実に近い。いえ、それが事実、そうなのだと思う」

「でも、それが」

 ミズガラクタ号の船員の中でも一番おしゃれすることにこだわりが強いだろうスブレットだが、その場に現れた彼女の服装は、白一色のシンプルなワンピース。

「いや、別におれは気にもしてないよ、ありがとう」

「う、うん」

 無意味な心配をしてしまったのだろうとすぐ気づくが、明らかに逆に気を使ってくれたのだろうミーケの礼に、どうしようもなく恥ずかしげだったスブレット。

「それじゃ、話の続きするね」とリセノラが言った時には、スブレットはまたその場から消えていた。

「でも確かに何か衝撃もあるかもしれないわよ、ミーケ、多分だけど、この二重の封印の外側の方ね、あなたに内緒でかけられたものなんじゃないかしら」


 そもそも、はなからミーケが綠液系の生物として造られたのかどうか、リセノラが抱いた重要な疑問はそれだった。ミーケが生まれたのが〈アルヘン〉で、かつ元々別の役割があったなら、つまり(その可能性も高い)〈ジオ〉に来る予定が最初なかったとするなら、彼は最初は綠液系でなかったかもしれない。


「それならね、あなたはけっこう簡単に死ねたと思う。それは今のわたしと同じ、今の〈ジオ〉で、おそらくあなたは脆い存在だった。だからこそ」


 精神が沈んでいるのは危険だった。だからミーケは、おそらくその時自分が抱えていた悲しみ、彼自身がなんとなく今は思い出しているように、それまで犠牲にしてきた多くの仲間たちのことも忘れることを決めた。


「わたしは、あなたは利用されてるように思う。もちろん今のあなたはそれを望んでいると思う。けど本来はそういうことではなくて、つまりあなたの仲間、の生き残りかはわからないけど、あなたを綠液系に変えたアルヘン生物は」


 その改造時に、本来は少しずつ自動で解かれていくはずだった封印構造を、すぐ外側からさらに強化した。


「まあ、実際的には大した発見ではないかもだけどね。だけどこれで、あなたのその記憶が、わたしたちの道しるべである可能性はさらに高くなったと思う」

 それでその時のリセノラの話は終わった。

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