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神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch4・いくつもの生命世界をこえて
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4ー6・生物同士(カオスの巨大生物3)

 タキムが見つけた〈ジオ〉に関する新たな情報のことを聞いたミーケとエクエスが、カルカ号の方に立体映像として現れた時、タキムが待っていた円形の部屋には、他に、直接に来ていたリセノラとアイヤナもいた。リセノラの方は、環境的に問題があるのか、ごついスーツを着ているが、いくつか不規則についてるようなアームがかなり自由に動かせるようで、大して不便でもなさそうだった。

「リセノラ、アイヤナ」

 ミーケとしては、いるだなんてまったく予想していなかった2人。

「なんでここに?」

「いや、普通に遊びに来たの。ロキリナ生物は機械化しちゃっても、ネーデ生物より、わたしたちに近い感じあるしね。睡眠技術が興味深いなっていうのもあって」

 そのごついスーツの仕様なのか、単にはしゃいでいるだけか、ふわふわ跳ねるような動作を見せるリセノラ。

「ぼくは、何か参考にできることあるかもしれないと思って、お互いにさ」

 ただ、一緒に来たわけではなく、先にリセノラが来ていて、アイヤナがそれを聞いて追いかけてきたという流れらしかった。

「ミーケは、エクエスも、2人とも遊びに来たの?」

 仕様でなくはしゃいでいたのだろう、その気なら止まれたらしく、そして実際その気になったのか、リセノラは動きを止める。

「いや、おれたちは普通に呼ばれて」

「そういうこと」

 ミーケがまだ言い終わらない内に、姿を見せたタキム。

「ふたりに伝えたいことがあるんだ。ただぼくらのシステムでは、きみたちに詳細に伝えようとすると、おそらく時間がかかる。もしかしたら数十時間ぐらい、ふたりのことを借りることになるかも。大丈夫かな?」

 そして、タキムはリセノラの方を向いたようだが、ミーケら他の3人もそれにならう。

「いや、これただの消去法でしょう。そういう意見をわたしに求めるのっておかしくない? 普通はそう、ザラかリーザ。ザラ、リーザ」

 そうしてリセノラはすぐ、ミズガラクタ号の中でも、 他の者たちのまとめ役となっている2人に連絡をとり、そしてすぐに「問題ない」という返事を得た。


 数十時間というのはちょっと大げさで、実際には数時間ですんだ。もっともそこまで早かったのは、例によってエクエスがエディアカラという名前を思い出したおかげで、その辺りの説明がさっさとすんだから。

 エディアカラ生物は、かつてエクエスが調べた記録によると、《地球》の時代に知られていた、古い多細胞生物で、おそらくは、《地球》で後に繁栄した、今ヒト、人間と呼ばれている種族の先祖たちとの関連性が大きな謎だった。

「エディアカラというのは多分地名だ。それに人間と共存していた時期がない。その上で、地球の時代には"フィードバック生物系"も"複雑性透過"のシミュレーション技術もなかった。関連性が謎とされていたのも仕方がない、むしろ、ないかもと考えられていたのだと思う」

 それらはエクエスの推測にすぎないが、ロキリナ側の記録にもほぼ支持されている感じだった。

「その時代なら多分、"疑似バランス"もなかったと思う」

 地球のことなら、今のエクエスよりは、ミーケの方が知っているかもしれない。それにシミュレーション技術に関しては、ザラと共にしている研究のおかげで、どんどん詳しくなってきてもいる。

 フィードバック生物系は、ある生物系における、ある時空点での状態のシンプルな再現。複雑性透過はある程度以上の効率で物理計算が困難な場合の対象に、"重ね計算"という特殊な処理を施すための技法で、重ね計算はどの場合においても常に物理量を疑似的に減らして計算を容易にする。疑似バランスは、重ね計算と同じく複雑な系の計算を容易くするものだが、重ね計算が、いわば難しい計算を強引に簡単にしているというようなものなのに対し、疑似バランスは難しい計算を(結果は実質同じになる)簡単な計算に変換しているというふうに表現されるもの。いずれも、ある生態系の中ですでに絶滅している生物を、シュミレーション上で再現するためによく使われる。

「そのエディアカラ生物が化学物質の残骸として残ってただけなら、手がかりは多分、わずかな形の記録だけ。それへの変化率も、いや、それも当時はわからないか。いや、当時、というかその時代にはいったい何があったの? おれにはどうしても想像つかないよ」

 何がないのかはいくつもわかる。あるはずがないものなら数えきれないほどのものの名前をあげることができるだろう。しかしその当時の、つまり地球というただ1つの惑星上にだけ生きていた頃の人間が、すでに持っていた、特に科学研究のためのテクノロジーと言うとミーケには想像もつかなかった。

「言っとくがその時代にもコンピューターというものはあったはずだ。おれたちが使うコンピューターに比べると、形体の固定性は非常に高かったとは思うが」

「それも思い出したこと?」

「いや、推測だ。だがさっきまでの推測の中で一番確実なことだ。ミーケ、正直おれはこれまで地球に興味を持ったことはあまりないが」

 大災害前、水が普通に存在していた頃のことを深く研究してはいても、最初の惑星の時代に関しては、その短さも、範囲の狭さもあって、重要と認識することなどエクエスにはできなかったし、 同じ理由で興味も持てなかった。

「つまり、いつの頃のおれより、今のおまえの方が、 地球に直接的に関連することに関してはよく知ってるかもしれない。だが地球よりずっと後のフィラメント国家フィデレテに関しては、おれは多分誰よりも深く研究してきて、そして今もいくらか思い出せる」

 そして、 地球の時代にはすでに コンピューターがあったはずだという事実の根拠もそこにあった。

「普通、今のおれたちが古代のものと認識する、数学のあらゆるテクノロジーが、実はフィデレテの時代まで実用化されてなかったんだ。だから逆説的だが、古代の地球において、例えば宇宙船を使うためにはコンピューターが必要だったはずだ。大災害前の人間の能力から考えても、まず間違いないと思う」

「クロックシステムがあったの?」

 それほどまで原始的で狭い世界に生きていた者たちが使うことができたコンピューターシステムはそれくらいだろう。それはミーケの理解の上では、一時メモリーを利用した計算処理の理論で、物理閉鎖系としての単独コンピューターにおいては、現在でも重要な基盤の1つとなるものだ。

「ついでにスイッチを使ったはずだ、多分電子を使って。 そこからどう発展したのかはわからないがな。フィデレテの時代に基底物質が発見されたが、その時点で、 今の時代にもまだコンピューターと呼ばれてる群も、理論的にはすでに全部あったと思う」

「でもどのみち、再現のシュミレーションは無理か」

 どうにか抜け道がなさそうか考えてはみるが、結局はそう結論するしかないミーケ。つまりエディアカラ生物は、おそらく当時の頃からほとんど忘れ去られているようなものだった。もしそれが何か重要な存在だったというのなら 

「でも、関連性はあったの? 実際には。人間、地球のジオ生物と」

「ないなら、記録に残しておく理由がないだろ。少なくとも大災害前のロキリナ生物の理解では、これは大災害前のジオ生物、というか地球生物にとって何かあったんだ」

 ミーケは知っているだろうから、エクエスもあえて、ジオ生物とは別に地球生物の系譜だけでないことは説明しない。もちろん彼がそう推測した通り、生物学に関心高いミーケはそのことを知っている。

「アルヘン生物が最初にこの領域のことを知った時は、ここに人間はいなくて、だけど〈ネーデ〉に現れたアルヘン生物たちは人間に似ていた」

「種を蒔いた、の? 《地球》に」

 そこで、話に入ってきたタキム。そして同じ疑問はミーケも抱いていたが、エクエスは違っていた。

「その時代から、つまり《地球》の時代から、すでにアルヘン生物が、水を失う可能性、そもそも《虚無を歩く者》との戦いを想定してたなんて考えるのは、さすがに無理だ」

 だがなぜ無理なのかエクエスには言えない。それこそ《地球》の時代の人が、宇宙全体から水という物質を永遠に奪うなんてこと、聞いたとしてもありえないと思ったろう、そういう気持ちにおそらく近い。

「地球生物が何かされたというより、地球生物の方に何かがあったのだと思う」

「時空ヒモ領域」

「ループ構造体を形成する、交互系の長さのことか?」

 まだミラが調べていた時空ヒモに関して、エクエスには話してなかったはずだが、彼はその名から、それがどういうものなのか思い出したようだった。

「多分そういうものだと思う。基礎粒子としてのヒモのスケールと、広がった宇宙構造の関連を算出した場合に見られる可能性のひとつ、いやモデルの1つ」

「よくわからない」とタキム。

「よくわからなくて当たり前だな、間違った世界観なんだから。かなりこんな世界観でもあるんだけど、ヒモが生物とし」

 そしてそこで、ミーケやザラが先にたどりついていた結論に、エクエスも自力で気づく。

「これはリリエンデラなのか。だとして、いや、だからアルヘン生物はこの領域に注目した。時空ヒモを生物と考えるなら、それは機械以外にありえないが、機械だったとしたらどういう存在なんだ考えると 、それ は神々?」

「エクエス、時々思うんだけど、本当は全部知ってて、あえて黙ってる、てことないよね」

 テレーゼ辺りがすでに聞いてそうとは思ったが、ミーケも聞かずにはいられなかった。

「おまえがおれを何だと思ってるかはともかく、あまりボケ老人に期待しないでくれ」

 かなりネガティブな雰囲気。エクエス本人も今や、重要なことをいくつも知っているはずなのに、思い出せないことを悔しく思っているようだった。

「つまりどういうことなんだ? その時空ヒモとやらが適用される宇宙においては、ヒモという基礎粒子が生物で、それがリリエンデラで、それは神々に近いもの、ときみたちが言ってるように思えるのだけど」

「いや、まさしくその通りだよ。だからありえない、と言いたくなる気持ちもわかるだろ」

 タキムの実に正しい理解に、苦笑いを見せるエクエス。

「時空ヒモにエディアカラ生物」

 ミーケの今思い出せる記憶の中にはおそらくない。

「そういえばスフィア粒子もロボット素粒子。それに人間、今のジオ生物は」

 しかしわからない。エクエスもタキムも、次にミーケが何と言うのか、何を考えているのか関心を見せているが、期待に応えられそうではない。

「《虚無を歩く者》は、実体なきものは」

 そして生物の敵、少なくとも神々の敵、かつてその存在を理解したどんな生物にも敵だと考えられた何か。

「それは機械じゃないのかな、機械じゃなくて、だったら」

 それもまたありえることなのだろうか。そうだとしたら、それはなぜ虚無の中にいるのか、いれるのか。

「生物なのかな」

 そんなことを口で言うことだけなら簡単だが、どうしても理解ができるとは思えなかった。それでもミーケは、そう考えると、そう考えていた気がしていた。昔、自分は確かにそれに何かの感情を抱いていた。それは 恐ろしいものに対するものじゃない もっと馴染み深い感情だったような、そんな気が。


ーー


 ミズガラクタ号の方で、ミーケとエクエスをしばらく借りたいというタキムの頼みを受け入れたリーザとザラは、船外にいた。船外といっても、混沌の物質系と直接的に相互作用してしまうと、さすがのリーザでも死ぬしかないだろうから、大きな半球のバリアによって守られ、奇妙なほど真っ白に見えるその宇宙空間も間接的に見るしかない。

「やっぱりここにも生物はいる」

 スブレットとエルミィも一緒に、つまりそこには、彼女の他に3人いたわけだが、リーザの言葉は独り言のようだった。

「言葉ではうまく説明できないけど、わたしにはそれが感じられみたい。これは実体なきものでもないし、多分」

 そして、他の3人が止める間もなく、リーザは左手をバリアの外に出した。

「なんで?」と口にしたスブレットだけでなく、ザラも、それに物理学に関してその場で最も専門的な人であろうエルミィなどもっと驚く。

 リーザの腕には明らかに、驚くべき破壊の力が直接的にかかっているはずなのに、少し震えが抑えられないくらいの様子しか見せていなかった。

「試したことはないけど、こういうことができると聞いてはいたの。構成粒子加速法なら、自然的な崩壊をずっと先延ばしにできる。まあ、普通は意味のないことだけどね。だけどここに生物がいるなら」

「あなた、対話が」

 エルミィは、直接的にそれと触れながら崩壊しないですむなら、それが可能かもしれない可能性に気づいてはいたが、崩壊しないですむ方法があるとは思ってなかった。

「なぜかはわたしにはわからないけど、スフィア粒子を介して、影響をもたらせる。たぶんこっちの意図を何か伝えることぐらいはできると思う。それで向こうがそのことを理解できたなら、同じ方法で返事が来るかも。複雑な内容ならわたしにはうまく伝えられないけど、だけど」

「確かに、あなたの感覚を介して、カオス生物のメッセージも、もちろんそういうものがあるならですが、解読できると思います。ですが」

 ザラもまだどうしてもわからない。

「実際問題、それができてるわけですけど、ですが本当に、カオス系にあなたは抗えてるんですか?」

「かなり特殊な方法。確かに普通は物質のコントロールでこの領域 からの影響を意識的に抑えることは無理だと思う。だけど」

「分けてるんだね。多分こっちに少し持ってきて、実質的にそれを弱めてる。でも、そんなことできるんだ」

 スブレットはそこまでも理解できたわけだが、しかし意味不明な技ではあった。ようするに、部分的にかかる破壊の力を、(バリアで閉ざされているにもかかわらず)残りの自らの構成部分に広げて 、そのかかる負担を全体的には薄めるという方法。

「《ヴァルキュス》恐るべしだね」

 軽い言い方だが、まさにいいえて妙であった

「よく考えてみたら確かにそういうことも可能なのか」

 エルミィはもっとしっかり理解したようだった。

「スフィア粒子のコントロールシステムの要素の範囲が、基底物質の領域にある訳だから。基底物質を物質領域のルールと考えたら、ルールから外れない限りはそれそのものに影響を与えることもできるはず。スフィア粒子は、 そのルールのスペクトルのすべてに要素がいくらかずつは置かれているようなシステムだって言えるなら」

 しかし単に自分に言い聞かせてるのか、あまりにも難しすぎることなのか、明らかに説明しようという気もなさそうなエルミィ。

「うまくいったかわからないけど」

 一旦手をバリア内に戻したリーザ。

「少し伝えた、簡単に、わたしたちが〈ジオ〉、〈ネーデ〉、〈ロキリナ〉という領域から来ていること、さらにこの領域を越えて〈スレッド〉という領域を目指したいことね」

「そして成功したようですよ」

 そうだと気づいたザラ自身、その速度にとても衝撃を受けていた。

「向こうはもう、こちらの解読を済ませもしようです。そしてメッセージも、もう送ってきてます」

 まあそれもありえない可能性ではないだろう。だいたい素粒子の機械が、 宇宙領域に意識的な普遍性をもたらすこと以上に奇妙なことではない。何時からかなんて考えるのはおそらく意味がない。この宇宙はそういう宇宙なのだともう理解するしかないだろう。

「わたしは、自分の考えが間違っていないだろうと確信していることに驚きです。どうもこの生物はコンピュータテクノロジーを持っているようです。このカオスの領域に生物がいるだけじゃない、コンピューターがあるんです、カオス世界の」

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