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神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch4・いくつもの生命世界をこえて
108/142

4ー4・考えられるかぎり大きい(カオスの巨大生物1)

 ネーデ生物も、ロキリナ生物も、〈ジオ〉と同じようにすぐ隣にありながら、名もつけていない。物理的な安定部分がない、秩序だった構造が存在していないために、永遠の混沌(カオス)だけが存在している領域。

 そうしたカオス領域に入ったミズガラクタ号。

 ミーケとザラ以外はみな、その突入の瞬間、領域間のゲートを越えるミズガラクタ号を見ていた。そのゲートは、(見つけられなかったので)《虚無を歩く者》が使ったものでなく、連結惑星都市の《ルビリア》で、リセノラが見つけていたシステムを利用して開いたもの。


 ところで、頼まれ事をした時以外、スブレットが積極的に研究に関わることはほとんどない。自分自身が、機能的に、普段からのリラックスが重要だとよく知っている。その時は自分のプライベート部屋で、高難易度の立体パズルの解法に悩んでいた。

 リーザとルカは、暇さえあればひたすら戦闘訓練。その時も、だだっ広い訓練室で、構成粒子加速法を局所的にしか使わないルール内で、相手に直接攻撃は当てないという条件以外は、結構本気に近い模擬戦闘を繰り返していた。

 彼女らも、エルミィのかなり興奮した声が聞こえなかったなら、領域を越える瞬間を知らずにいたろう。

〔「すごいもの見つけちゃったよ。それと、それに関連して、いい知らせと悪い知らせと、ちょっとだけいい知らせがあるわ」〕

 その通信は、送り主自身以外の船員全員に送られていたから、平時通信をオフにしていたミーケとザラ以外はみな、エルミィが音声と共に表示させたいくつかのデータを見た。そこに示されている情報を理解できない者には、ただ真っ白な紙が大量にクシャクシャに絡みあったのを、半透明な立方体が囲っていて、その内部のあちこちに大量の記号と数値があり、立方体横には意味不明な説明、というような感じだったろう。


 エルミィがいたのは、各自の通信ディスプレイに小さく表示させた半透明立方体と似てるようなものだが、不透明度がより高くほぼ真っ白に見えるものの大きなサイズが、壁の二次元モニターに投影されていた研究室。

 1人だった訳でもない。立体映像でもなく、ミズガラクタ号に来ていた、古代ジオ生物のダイオウイカに似たネーデ生物、エルディクもいた。それと、手伝いというわけではないのか、あるいは休憩中|(?)か、20枚ほどの、裏表で様々な模様が描かれているカードを、重ねたり並べたりしながら妙に楽しそうだったエクエス。


「どういうことなの? これ」

 真っ先に自身をその場に転送してきたアイヤナ。

 続いて、リーザとルカ、テレーゼ、リセノラ、メリシアもすぐ現れた。ようするに、まったく意味がわからなかった組。

〔「ねえエルミィ、多分、わたしかあなたのどっちか正気じゃないね」〕

 直接でなく立体映像で現れたスブレット。彼女はさらに、微妙に笑みを抑えられないで続ける。

〔「まあぶっちゃけ半分くらいしか理解できてないぽいから、別に間違ってるかもだけどさ。どうもあなたは、ここに今でも生物がいると言いたがってるように思うんだけど」〕

「スブレット、さすがね、大正解」

「ここまで抽象的で簡略化した表現でも、しっかり伝わるものなんだな」

 しかしエルミィとエルディクのその素直な驚きは、その場にいた他の者たちが受けた不意打ちの衝撃に比べれば全然大したことはなかったろう。

 それから、次にフラッデが現れたが、特にすぐには何も言わない。

「ありえない話ではないが」

 妙なほど様になっている手つきで、カードを束にして、おそらく自室に転送したエクエス。

「おれとしてはこれだけのデータじゃ、急ぎすぎの結論だと思うな」

 そして、やはり、手伝っていた訳ではなかったようで、その場にいながら普通に驚いていた様子。

〔「いやさ」〕とそこで、謎のこだわりは捨てたのか、スブレットも映像でなく、ちゃんと生身で現れる。

「エクエス大先生を信じない訳じゃないけどさ、いや信じない、やっぱ信じない。だって、どう考えてもありえないでしょ、やっぱり。そもそもカオス領域の極なんでしょ、この領域は。てことはそもそも化学変化が発生しないでしょ」

 いろいろ考えて混乱してきたのか、妙に興奮した様子のスブレット。

「時間は必要だが可能性はあるだろう。偶然に、生物の形体がカオスの中に整う可能性が、ある、と思う」

 しかし、エクエスもあまり自信があるような感じではない。

「待って」

 見せられたデータは意味不明だったが、この場での話をヒントに、いくらかそれについて推測できたメリシア。

「そういうことがあっても、カオス領域なら次の瞬間にはそれが崩壊するでしょう。じゃあ安定的存在という意味での生物はやっぱり無理なんじゃない」

「「ネットワーク」」

 工学が得意分野のフラッデとリセノラの声が重なる。

「カオスで安定しないのは化学変化、正確には素粒子構成系だろ。もしもカオス系で合成できるネットワーク構造があるなら、確かにこういう領域でも生物は可能かもしれない。とおれには思えるが」

「でも生物は、心層空間も必要でしょう、それとのリンクが。そのために、生物をネットワーク構造で考える場合のパターンの狭さを考えると、やっぱりカオス領域では不可能じゃないかな」

 フラッデに比べ、エルミィの見せてきたデータの意味は理解できなかったリセノラは慎重。

「いや、待って、待ってよ」と、またスブレット。

「普通こういう頭おかしな仮定とかってさ。みんなの中で一番専門家の人にまず意見求めるべきじゃない。で、専門的に考えるとネットワークはザラ、生物学はミーケに意見聞くのがいいでしょ」

 一応、正論であろう。

「て、2人どこ?」

 そこでまるで、はじめて2人がその場にいないことに気づいたかのようだったスブレット。


 しかし新たに呼び出されたその2人は、意味を理解できた他の誰もが驚いたデータを見せられても、大して意外そうにもせず、むしろいろいろ納得したようだった。

「ヒモとは逆に考えられるかな。安定の持続とは逆に、不安定の利用」

「わたしは、それで問題ないと思います。こっちは普通の生物でも説明できるでしょう」

 そして2人だけど納得し、2人だけで議論を始めそうなところを、スブレットが止めた。

「よくわからないんだけど、ようするにそういう生物やっぱありうるってこと? カオスの世界の生物」

「ありえる」

「ありえます」

 ミーケもザラも、同時の即答。

「まず、知的ネットワークは十分に長い時間さえあれば、いつかこの領域にも生まれることでしょう」

 そしてザラは説明した。

 心層空間に関しては、領域自体がどれだけ不安定かは関係ない。知的ネットワーク自体が安定しているならば、それと関連して存在はできるだろう。問題は、カオス世界の中で、安定した単独系としての知的ネットワークが存在できるのかどうか。だが無秩序のための確率系は、階層を重ねていいなら、安定させれるパターンがありうる。

 しかしさらなる問題は、全域にわたってのカオス世界における一部分での安定は、少しの移動でも、崩れてしまう可能性が常に非常に高いこと。普通に考えるなら、そこにどのような生物が存在するにせよ、常に生存が脅かされるような危険な環境だけしかないというような、そんな存在になる。

 エルミィのデータが示していたのは、偶然に発生した何らかの一個の生物ではなく、その領域の中で部分的にいくつか集合している生物群。つまり自分たちの4領域においてそう呼ばれるのと同じような、生物系。それはありうるか。

 実は、カオス世界で安定するネットワークのパターンの中でも、普通なら最もありえないものだろうが、全体の不安定さを保ったままで安定できるものが、ただ1つだけ考えられる。

「これは言葉で説明するのはかなり面倒ですけど、もし不安定を不安定で相殺することができるだけ十分な距離があれば、カオス世界でもそういうことが考えられるんです。早い話が超巨大なネットワークですね。これは全体から見た部分ごとの不安定さを全く消すことなく、しかし単独のネットワークとしては安定できます。偶然に発生する確率は、本当に、ものすごく低いでしょうけど」

 それでも可能性はゼロではないのだから、まさに十分な時間があれば、それが偶然にカオス世界に発生することもあるだろう。少なくとも、1つの宇宙領域をコントロールしたり、あるいは宇宙領域を超えるテクノロジーに関連する機能を有する生きた機械が偶然だけで現れる可能性よりは、おそらく高い。

「心層空間がこれとどうリンクするのかに関してはわたしにはわかりませんが、ですがこれが一個の生物としても、たいていの観測では生物系のように捉えられるはずです」

「1個にしても複数にしても、これはカオス世界でも生まれるというよりは、カオス世界でしか生まれない生物だと思う」と、そこで口を挟んだミーケ。

「想定されるものが大きすぎる。生物なしでここまで生物的な巨大構造を生み出せるとは思えないから。カオスの性質がそれより小さな安定を妨げ続けるような、つまりここみたいな領域じゃないなら」

「でも、ここに生物があるらしいとはわかりましたが、エルミィ、あなたのいい知らせ、悪い知らせというのは?」

 そうして、その前の手がかり(つまりカオス領域に生物が存在するというデータ)の時点での(そもそもそんなことがありえるのかという)疑問について説明を終えたところで、本題に話を戻すザラ。

「ええ、それなんだけど、順序よく話すわ。まずいい知らせからね」

 実のところ、エルミィにとっては、存在するはずのないその領域において生命がいる、という事実より、そこから後の話の方が重要だったようで、ザラが話の流れをそこに戻してくれたことに、ちょっとありがたそうにしていた。

「まずこの領域の大きさに関して、わたしたちの予測、というか」

「我々の昔の調査結果はすべて間違ってたようなんだ」

 そこでその場では唯一ジオでなく、ネーデ系のエルディクが声を出す。彼|(?)も前までの話で何も言わなかったという事は、さっさと本題に移りたかったのだろうが、表情に表れないのでわかりにくい(というか察しようがない)。

「このぐらいの優れた防御機構と、探査能力があればこそだ。今回完全にわかった。ここはそれほどには広くない領域だ」

「もちろん、あくまでもかつて考えられてた大きさと比べての、相対的な話ね。それでも、おそらく全体積にして、このカオス世界はおそらく"世界樹"の1/5ぐらいしかないわ」

 "世界樹"の体積は約7.1×10^71立方メートルという説が一番最新だが、その場でそれを知っている者はそれを例えに使ったエルミィのみ。なのだが、スケール的に、(4領域の宇宙よりはかなり小さいが)それでも十分に大きいということだけは、みなわかった。

「他の宇宙領域を冒険しようって奴らが越えられない大きさでないのは確かだな」

「じゃ、もしかして、ここにいるという生物が、船が道行く邪魔になってるというのが悪い知らせですか?」

 エクエスに続いて、あまり深くは考えず、適当に言ったテレーゼ。しかし彼女の当てずっぽうは見事に当たっていた。

「まさにその通りよ。消去法での答なんだけどね。でもほぼ間違いないわ。実はザラが示してくれた通り、ここにいる生物はものすごく大きいみたいよ。この領域を普通にこえようとする船、どんな船でもその胃袋に引っかかるの」

「食われずにいられない巨大生物か」

 ただの比喩を、言葉通りそのまま受け取ったらしいルカ。

「ちょっといい知らせは?」

 ミーケにはもう予想がついていたし、その予想も当たっていたのだが、彼は一応しっかりと聞いた。

「それね」

 わかってるのに聞いたのだろうミーケに気づいていて、そのことがちょっとおもしろく感じていたようであるエルミィ。

 そして、察しがついていない者には、また驚きの事実を彼女は告げる。

「どうもこのカオス領域の巨大生物は、意識的にここに訪れる者たちの邪魔をするみたい。なぜかは知らないけど、たぶん食うためではないと思うわ。そうではなくて、やって来た船を、決してその入ってきた出入口から遠くへは進ませないようにコントロールしているの。し続けていると言うのが正しいかも。巨大である根拠はわたしやエルディクにはわからなかったけど、だからこそザラの話聞いて完全に確信できたわ」

 だが、もちろんそのことは、1つの突破口を思わせる(だからこそちょっとよい知らせな訳である)

「でもそれが、そういう意識的な行動ができるような知的生物だと言うなら、何らかの形で対話ができるかもしれない。なぜ侵入した、多分それにとってはね、侵入者の行動を邪魔するのか。その理由も。そしてお願いできるかもしれない。もちろん、わたしたちは通してくれるようにね」

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