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3ー27・第二の始まり(永遠冬5)

 リーザがミズガラクタ号に帰還した時、ついてはこなかったミジィによる、「《ヴァルキュス》という国に関して、大元帥の権限をリーザ・シャーリドに与えた」という知らせは、もう1つ、「生物の敵としての実体なきものが確認された」という知らせと一緒に、すでに3フィラメント全土に伝わっていた。

 ミーケたちよそ者からすると意外だったが、古きものたちと一部で呼ばれていた"永遠冬"の支配者たちが排除されたということに関しては、基本的にはどうでもいいことと考えられているようだった。そもそも他の2フィラメントのたいていの者たちにとっては、それは"永遠冬"の勝手な内戦でしかなかった。そして他の者たちからすれば、ミジィが勝つなら、それでよかった。


「つまり」

 ミズガラクタ号の拡張した1室、ミーケたち船の仲間全員、それにミシェリ、アーシェ、メイリィの他、彼女らの友人たちや部下たちいくらか、それに立体映像として現れているネーデ生物とロキリナ生物の代表|(?)たちも、つまりは結構な数の者たちの前。巨大なモニターに、線でつながったいくつかの丸が幾何学模様を演出しているような二次元図を表示させたザラ。

「これで、《虚無を歩く者》が使ったルートがはっきりしました。我々の4領域の外側以降はほぼ全て、古い記憶の予測再現、シミュレーションでしかありませんが、ですが」

 ザラも、そこまでのことがわかるなんて期待してもなかった。そんなところまでわかったのは、《ヴァルキュス》の コンピューターシステムの性能以上に、ミジィが、リーザに与えてくれたいくつかの情報のおかげだ。

 現在の4領域の他のどこにも無かったろうと思われる、つまりは外宇宙、この唯一の宇宙(ユニバース)の全体像に関するいくらかの情報。リーザにも、もしかしたらミジィ本人すら、そういうものと理解できていなかったようなもの。

「どうもアレは、〈ジオ〉、いえ〈ワートグゥ〉に来るまでに、14の宇宙領域を超えてきたようです。そしてその始まりが、アルヘン生物が〈スレッド〉と読んでいた領域です」


 14の宇宙領域。この広大すぎる唯一の宇宙(ユニバース)でたった14。


ーー


 〈スレッド〉は、領域ではないという推測もあった。

 ミーケは、全時空間の理論に関しては、何冊か専門書を読んだことあるくらいで、まったく理解できていない。ようするに〈スレッド〉というのが領域でない可能性がなぜあるのかもわからなかった。


 ザラの講演の後、"世界樹"の、《ヴァルキュス》の、それにネーデ生物たち、ロキリナ生物たち、多分はじめてみなで話し、決まったこと。実体なきもの、《虚無を歩く者》の歩いてきた(?)道を、ミズガラクタ号で追ってみること。

 大群ではいけない。まず問題になるのが4つの領域の周囲の、カオスの宇宙領域。今〈ジオ〉にある船でそれを確実に越えられるのはミズガラクタ号のみ。ただネーデ生物も、一隻だけ、特別な船を用意していた、というか大災害をこえてずっと残していたらしく、〈ロキリナ〉の代表もいくらか乗せて、一緒に行くことになった。

 目的は調査であるし、循環可能な内部エネルギーの量など 実用的なこともいろいろ考慮して、ミズガラクタ号の方の船員は結局《ヴァルキュス》に来た時のまま。しかし武器は大量にもらった。


 ところで、ミズガラクタ号の改良はずっと続けられている。内部の半分くらいは、必要に応じてかなり自由に変形する。

 〈ジオ〉からの出発が7日後に決まってから、その1日目の終わり頃、ミーケは、宙に浮かんでいるかのようないくつかの丸い窓以外、視覚的には野外であるような、いくつもの恒星系からの光で照らされている部屋でいた。


 違和感は最初からあった。ザラが〈スレッド〉という領域の推測データを見せてくれた瞬間から。それは領域であるように思えて、そして自分はそれを知っているような。

 名前ではない、スレッドなんて名にはまるで覚えがなかった。知っているのはおそらくその大まかな構造。

 しかし、仮にミーケがそれを知っていて、違和感に気づけたというなら、それこそいろいろ驚くべきことかもしれない。それは推測が正解に近いことを意味しているだろうから。

 ザラが凄いのか、それとも……


 だからこそ、ミーケはそのデータを修正できた。

 やっぱり知っている。その領域の今の姿ではないだろうが。

 フィラメント構造と呼べるものが存在していない。正確には、局所的な星系の集合がない。そして自分たちの4つの領域に比べると、とても小さなものだ。

(領域、領域?)

 そうだ。思い出せもする。それがどこなのか。誰|(?)が作ったのかも。


ーー


(「どうして、エルレード生物には、アレのことがわかる?」

「その方法を見つけたからだろう。そもそもエルレード生物も、 我々の定義としては普通の生物とは言えない」

「あいつらは、本当にずっと味方かな?」

「確かなことは、エルレード生物がもしいなかったなら、我々は今でも、アレに対抗する術を何も持たなかったということだ」)


 〈アルヘン〉にとって〈エルレード〉は隣の領域だった。ミーケが知った時にはそうだった。

 〈スレッド〉、なんて名前だったかは知らない。ただ、それは〈エルレード〉のさらに隣、造られた宇宙領域であり、そして《虚無を歩く者》は必ずそこから現れていた。

 自分でもなぜなのかを考えてみたことがある。エルレード生物は、いくつもの秘密のテクノロジーを持っていたが、そのどれかを使って誘導していたのだろう、と推測した。


(「ねえ、あなたはどうするの? ◼️ト◼️」

「もうその名前は捨てたよ」

「じゃあ、ミーケ、あなたは」

「心配しないで。いや、わかってるか。ぼくのことなら」

「もちろん、ア️ト◼のことならね。だけどあなたはもうミーケなんでしょう」)


 そう、だった。思い出した。

 なぜ自分は最初の名前を捨てようとしたのか、ミーケという名前を誰がくれたのかも。

 そして、大きな悲しみ。


(「メリセデルを追ってみる。おれも〈ジオ〉に行くよ」

「それなら、地図が必要よね」)


 そうだ。もうその時……


(「ありがとう。あなたのこと、忘れない」)


 忘れても忘れないと決めた。

 その戦いの結末がどうなるとしても。


ーー


「リーザ、いつから?」

 流れ込んでくるような映像の連続と、その理解が終わって、気がついた時、すぐ隣には、ほんの20と数年前に出会ったばかりの親友がいた。

「わりと前から」

 しりもちをついていたミーケと同じ目線になるようにか、自身も座ったリーザ。

「別にさ、急ぎ、てわけでもないんだけど、いくらかあなたと2人だけで話したことがあって。だけど何か、凄く集中してたから、今は邪魔しちゃ悪いかなって」

「むしろ」

 自分でも少し不思議な感じだった。どこかそれがおかしくて、少し笑って、そしてミーケは、自分でもなかなか恥ずかしいと自覚のある言葉を続かせた。

「隣にいてくれる方がいいかもしれない、《フラテル》にいた時みたいにさ。それがあまりにも当たり前になってたみたいだ。きみと」

 しかしミーケは言葉を続けられなかった。

 おそらく自分ではない、自分の方を見てはいても、別のところを見ていたようだった彼女はまた、ミーケがこれまでに見たことない顔を見せていた。戦いに赴く時とは違うと思う、だがなんとなく、何か覚悟を決めたような。

「ねえ、ミーケ」

 その声は驚くほど、恐いほどに、遠くから聞こえてくるような感じがした

「あなたはずっと前から誰かに恋していたと思う? あなたは、恋愛感情を、最初から知っていたのだと思う?」

(リーザ)

 まるで彼女も、たった今自分が思い出した全てのことを一緒に見たかのようだった。

「わからないけど」

 ただ、今や完全にはっきりしていることもある。

「アトラ、昔アトラて名前だったんだ。それで仲間がいた。ミーケという名前をくれたんだ。それで」


「みんな死んだ。あなたを守ってくれた。あなただけは、ずっと後に、また必ず起こるはずの戦いの時まで生きていなければならなかったから。実体なきものがいつかまた現れることを知っていたから。きっとあなたは、何もかも投げ出して、逃げようか迷いもして、だけど結局逃げなかった」

 予想通りに驚いた彼の顔が、リーザの推測の正しさも示唆していた。

(やっぱり、この宇宙にばらまかれた、わたしたちが戦うための武器、"世界樹"が知識、それでミーケは)

 直接に戦うための兵士なのだろう、というよりも戦うことが可能な存在なのだろう。最初からそういう存在として彼は造られたに違いない。水の錬金術師、ウンディーネとはそういう存在。だから、彼だけは生き続ける必要があったのだ。どれだけに親しい仲間を失っても。そして彼は、 仲間の犠牲を決して無駄にしないように、そのために、いくつかの感情を特に強く心に刻まれてもいたのだろう。

「ねえミーケ。わたしにとっては、本当は、いや」

 結局、すぐ近くにいるなら、彼のことなんて手に取るようにわかる。だから、その不安を和らげてやるために、きっと彼が彼女らしいと思ってくれている笑顔を見せてあげる。

「あなたは安心して、これからもさ」

 そう、 おそらく最初の出会いの時から、そして戦いが一旦終わった時から、この宇宙の生物はとても、とても遠くまで来た。そして今、全てを託された者たちの中で、自分の役割はとてもはっきりしている。

 望むところだ。それは得意分野だ。

「あなたも、あなたの大切なものも、全てわたしが守ってあげる。この宇宙のどこでだってね」


ーー


(「わたしはね、あなたがこれから生き続ける限り、恐怖の対象としてその記憶に残り続ける存在よ」

「あなたにも感情はあるでしょう。少なくとも、わたしたちが感情だと定義できるものを持ってるはず」

「まだ恐くないって言うなら、また……)


 どれくらいの時間が経ったのか、どれくらいの時間が経っているのか。


(錬金術師でない、ジオ生物、どんな人間なのか、かつてのどんな人間よりも強いことは確かだろう)

 たった1人で自分を打ち負かした何者かのことを考えながら、それはまたこの唯一の宇宙(ユニバース)に物質として現れる。

 前の時とはまったく違う。円盤の体に、ハサミに似た手を先に付けた腕を、不規則に5本備えた機械の姿。

(スフィア粒子、緑液、軍事国家、研究所)

 いくつか、今の自分がアクセスすることができる記録からの引用。

(惑星《ヴァルカ》、銀河フィラメント"暗い太陽")

 つまりそれらが第二の始まりだった。辺境の宇宙領域〈ジオ〉で、最初の機械の子たちがもたらした、彼らにとっての希望だった。

 Ch3終わり。

 Ch4は、いよいよミズガラクタ号が、いろいろな宇宙をめぐる冒険の話となります。と言っても、冒険というより謎解きという雰囲気が強くなるかもです。


 ミズガラクタ号の船員は12名だけど、やはり物語全体の中で最重要と言えるメインキャラは、最初の4人(ミーケ、リーザ、ザラ、エクエス)です。ミーケ以外の3人も、構想初期の頃から主人公候補でした。それで全七部の中で、この4人にはそれぞれメインと言える回(Ch3がリーザ、Ch4がザラ、Ch5がエクエス、Ch6がミーケ)があります。

 そういう訳でCh4はザラ回な訳ですが、彼女の母であるミラの話もけっこうあります。というか回想シーンはほぼ彼女関連になると思います。

 実際のところ、彼女はどんな人物だったか、いったい何が特別だったのか、何を知ってしまったのかとか、そういう話が出てきます


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