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3ー26・歴史記録の失われている部分(永遠冬4)

 〈ジオ〉、この小宇宙|(?)において最初の銀河フィラメント国家である《フィデレテ》に関わっていたということが、『ミュズル』という科学結社について、ずっと昔から、最も古い記録。ただしその記録によると、彼らの起源は最初の銀河系《アマノガワ》の時代まで遡る。

 それから長い時間。〈ジオ〉において、最も強力な存在となった『ミュズル』の第一次支配。謎の生物|(?)リリエンデラによる空間破壊危機。ジオ宇宙解放後の最終支配権争いに勝利し、『ミュズル』を継ぐものとなった『フローデル』。愚かな支配者たちが始めた隣接宇宙領域の征服戦争と敗北。『フローデル』の最後と、ようやくみんなで前を向いた、ほんの少しの時間だった黄金時代。そしてどこからか連鎖してきた大災害。

 "世界樹"にも《ヴァルキュス》にも、というか大災害以降のジオ宇宙にずっとなかった記録すら、まだあった。


 ジオ族の歴史の忘れられていた部分。

 ジオ生物の始まりが、惑星|《地球》であることは、今はどこでも(可能性はいくら高くても)あくまで仮説にすぎない話だが、ロキリナ生物はちゃんと、人間に続く系譜の知的生物の誰もが、地球を故郷として普通に理解していた時代の記録も持っていた。

 大災害後、エクエス・スズレ・ヴィンジの『水文学会』での研究で、「暗黒時代」と《フィデレテ》の時代に呼ばれていたことだけが判明していた昔に遡る。

 最も古い確かな記録は、第一次ジオ暦9700133614。この頃はまだ暗黒時代であって、そしてその末期でもあった。なぜ暗黒時代と呼ばれていたのかも明らかなこと。実のところ、この時期はジオ系生物にとって、驚くべき停滞期であり、もしかしたら残酷な時期であった。

 理由は、いくらかは考えられるものの、はっきりしてはいない。ただ、とにかく地球生物、ジオ系の知的生物たちは、この頃すでに、 いくつかの銀河集団のエネルギーを大規模に利用しながら、しかしはじまりの惑星|《地球》の属している恒星系から出ようとしなかったのだ。つまり彼らは、自分たちの小さな楽園のために、外の巨大な世界を食いつぶしていた訳である。

 これは最大のスケールで見た唯一の宇宙(ユニバース)を基準にするまでもなく、ただ彼らの宇宙、後に単に〈ジオ〉と呼ばれるようになるその宇宙だけを全てとして考えてみても、明らかに、何もかも無意味な独りよがりだった。

 太陽系と呼ばれていた。本来ならその星系はもう存在していないような故郷だった。彼らは宇宙が無限であると完全に信じていたわけではないし、たとえ無限であっても、やがてテクノロジーでは克服できない時空間の広がりに到達してしまうだろう。 限られた領域の構造である限り、必ず終末があり、そしてその時にそれまでの全ては無駄になる。自分たち以外の可能な限りの全てを犠牲にして、どういう考え方でも意味はなかった。

 しかし本当に、ただ存在して消えることはなかった。

 閉鎖的な小世界の中の小世界のことであるので、実際に何があったのか、外の者たちが知れたことは少ない。ただ断片的な情報を合わせ、いくらか推測できたこともある。

 例えば、もはや自力で現状を打破するためには、それは「楽園崩壊」と呼ばれていたそうだが、とにかく長い時間の団結が必要であって、そのためにある兄妹が感情を必要分だけ奪う研究をしていて、それが内戦を特に激化させていた。ようやく最初のアマノガワ銀河を抜けてからも、ジオ系知的生物はかなり長い期間、自分たちが壊していた物質の修復も、さらに遠い世界への旅にもあまり関心のなかったらしい事実は、明らかに、ジオ系の大部分に特定の感情の喪失があったことを示唆している。

 しかし『ミュズル』という科学結社、あるいはその前身である者たちは、おそらくずっと自分たちの意識を変えなかった少数派である。元々彼らが何を考えていたのかはわかっていない。最初から最後まで全ての支配を計画していたのか、他の目的があったが、結果的に途中からそういう形になっていったのか。


 それから、最初の銀河フィラメント国家《フィデレテ》の時代。《フィデレテ》は、それこそ元を辿れば大災害以降〈ジオ〉も含めた、この宇宙(ジオ)のすべてのフィラメント国家の標準モデルとなっている。

 そしてこの頃から、1つの重要な謎がはっきりと表面化してきていた。つまりは、ジオ系以外の生物が、いつまでも確認されないこと。 この謎の答も今でもわかっていないのだが、少なくとも後世の者たちは、『ミュズル』が何かしていたためと考えるようになった。

 彼らは単に支配していただけではない。その思想は完全に、ジオ系、つまりは地球生物を究極的に特別視していた。その思想を継いでいる『フローデル』が、別宇宙領域までも〈ジオ〉に巻き込もうとしたのも、当然と言えば当然の流れであった。


 そしてリリエンデラ戦の時代。

 実はアルヘン生物の、〈ジオ〉で何かをしようと、あるいはこの宇宙そのものに何かをしようという計画の可能性が、この頃からある。

 リリエンデラは、かつての〈ネーデ〉の記録によると、アルヘン生物に発見されている。つまりそれはいかなる存在にせよ、アルヘンとは関わりなく時間調整|(存在する宇宙の時空をコントロールする術)を得た何かであった。アルヘン生物がそれについて語った記録はないが、アルヘンが関係ないなら、ほぼ確実に神々|(と呼ばれた、アルヘン以前に別宇宙間を移動できた生物)と関連している何か。

 もしリリエンデラが、 その頃にはもう、ほとんどこの宇宙から消えていた神々の生き残りか、もしくはそれと近しい存在だったなら、 テクノロジーでは再現不可能な特殊生物だ。(もうその辺りは完全に推測でしかないが)アルヘン生物が〈ジオ〉に注目していた理由も、それを使おうと考えたのも、つまりその宇宙〈ジオ〉が実体なきもの《虚無を歩く者》にあまり知られていない領域だったのも、その時は、〈ジオ〉のそれ以外の全生物にとって間違いなく敵であった、その時空間寄生生物|(?)のおかげであったのかもしれない。


 ただリリエンデラは、どこかで必要なくなっていたのだろう。アルヘン生物はその頃にはもう、〈ジオ〉がその寄生から解放されることを、特に問題ないことと考えていたはず。そうでなければ、何らかの方法でその結果を止めたはずだ。ジオ生物にそれを消滅させるなんて許さなかったはず。

 とにかく、次にはまた愚かな戦いと、勝ち残った者たちの支配の時代があった。その新たな支配者『フローデル』は、さらに3つの隣接宇宙領域までも巻き込んだ戦いで自滅したが。


 『フローデル』、実際は『ミュズル』とどこかで関わりのある可能性があるすべてを、完全にそれらの宇宙から消し去ること。つまり浄化作業。〈ジオ〉のレジスタンスの者たちも含めた領域連合軍の有力者の中で、そのかつてなき、正義と希望の未来のための大量殺戮に反対していた少数派は、みなロキリナ生物だった。だからそれらは、その記録を重要視してもいた。

 それに、いくらかを保護していた。〈ジオ〉で特別なことをしていたのではない。『フローデル』の者たちは、〈ロキリナ〉に用意された保護領域にいた。ムクルは、そのロキリナ生物たちと密約を交わす。ようするに、彼らをあえて開放させて、自分に協力させた。『フローデル』の者たちは、逆に彼や、彼の作ろうとしていた国家を自分たちが利用してやろうと考えたし、実際に部分的にはそうなったわけだが、ムクルにとって重要だったのは、 未来に必ず来るだろう戦いの武器となるべき自分たちの成長の加速。その点で言えば完全に計算通りだった。

 時空間戦闘機や、構成粒子加速法、その他、緑液系を使うどんな戦闘テクノロジーも、彼らより先手を打つことで、 完全な乗っ取りを防ぎ、最終的には後を任されたミジィが、師団や一族システムにより、半端な影響だけの状態を安定させれたのは、アルヘン生物が与えてくれていた情報のおかげだ。

 ミジィもそこまで確信しているわけではないが、しかしおそらくアルヘン生物、少なくともムクルが接触したそれは、ジオ生物のことを 非常に深く理解していたのだろう。ほぼ確実にわかっていたのだ。《ヴァルキュス》という国家の誕生に必要な過程を。


ーー


 ミジィの話は、リーザが質問したことに対する答も全て含めて二人が中枢のシステム小範囲に格納して、 自分たちが外に出るための時空館戦闘機の中に入れるまでの時間で、ほぼすんでいた。

「究極的な目的はずっとはっきりしてる。実体なきもの。ほとんど何もわかってない。アルヘン生物がそれを教えてくれたのかすらね。ムクルはぼくには何も言わなかったし、〈ロキリナ〉にも大した記録はなかった。それが最善でもあったんだろうと思う。ただ」

 ほとんどであって、まったく何もわかってないわけではない。

「名前の通りだよ、それは物質じゃない存在。だけどそれが理解できる物質を利用できる。だからこそ、それと戦うには、まず新しい存在でなければならない」

「ただ利用するだけじゃないかも。おそらくあれは、何か心、思い出、そういうものの再現ができるんだと思う」

 今かなり確信をもってリーザがそれを言えるのは、本当にただ運がよかったからだろう。エクエスが仲間にいたからだ。実体なきもの、《虚無を歩く者》がその時にどういう状態なのか、ということは正確にはわからないが、それはおそらく、遥か昔にもう死んでいるはずのエクエスの妹の姿で、それに姿だけじゃなくおそらく多くの要素をそのまま再現していたのだ。その理由は、ほぼ間違いなく彼女の ワープテクノロジーの知識を必要としていたから。〈ジオ〉に来るのに、その姿が最も好都合だったのだろう。

「おまえはそうだと思ったわけか。だが実際にそうだろうな。そう考えると説明できることは多い。それにおまえは、あれを負かすのに、その周囲を全て基底物質の状態にまで弱めたのだろう。それもわかっていることなんだ、やつはすでに組み上がった物質しか利用できない。基底物質から意図的に自分の望みの物を造ることはできない。だが何かの条件を満たせば望み通りの物質を造れる。それが何らかの思い出なのかもしれない」


 心層空間は、おそらく〈ジオ〉だけでない。唯一の宇宙(ユニバース)の全生物が共有している要素。有力な仮説の1つは、それは生物だけのものではない、この宇宙で普遍的な構造。実体なきものが物質でない存在にもかかわらず、物質に関わることができるのは、それが媒介になっているからなのかもしれない。だとしたら心層空間(そこ)に根本的な原因があると考えられる、感情とか思い出といったものが、確かにそれのその物質に対する能力に関わっているのはおかしくない。


「さて、ぼくは」

 伝えたこと。《ヴァルキュス》という国、『フローデル』を利用したこと、そしてリーザのような存在を待っていた目的。

「必要なことはこれだけだったと思う。おまえにこうして全て伝えた。それに余計な連中ももうこの国から追い出したから、ぼくの役目自体、もう終わりと思う。あとは、ぼく自身もまた武器に戻るよ」

 その事に本当に納得しているかはわからないが、リーザは、彼は自分では戦えないことを悔しがっているだろうと勝手に想像した。

「リーザ、おまえが考えていたように、この国はおまえが好きに使えばいい。それでどうするかは、多分」

「みんなに話を聞いてみるわ。あれが物質として現れた時に戦うための存在がわたしたちだとして、 それなら、実体なきもの、その存在自体どうにかするため、考える役目を与えられたのがきっと」

 "世界樹"なのだろう。


 ただ、そうだとするとミーケの役割は何なのだろうか。普通に考えるなら彼は道標。だが……

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