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二十二話 雨音とメデューサ後編


「え……い、郁乃なのか……?」


 洋室の硬いフローリングで正座をさせられている俺は、俺の前で恥ずかしそうに縮こまっているメデューサ――じゃなかった、郁乃にそう尋ねた。


 郁乃は、かーっと顔を赤くさせてコクコクと頷く。その隣には、両腕を組んで珍しくブチ切れている朱音が、俺を鋭く睨んだ。


「もー女の子がお風呂にいるのに、急に入ってくるとかなに考えるのさ! バカなの!?」


「い、いや……だって……帰ったらアーちゃんいなくて……前みたいにいなくなったのかと思ったら、風呂場から悲鳴が聞こえたから……なにかあったのかと……その……すまん」


 今回は全面的に俺が悪いと、床に額を擦り付けて土下座した。


「まあ……悲鳴をあげちゃったアーちゃんも悪かったかも……先輩ごめんなさい……その……びっくりしちゃって……」


「い、いえ……元はと言えば、人様のお風呂を使っていた私が悪かったので……」


「それを言うなら、アーちゃんがお風呂に誘ったわけですし!」


 話を聞くと、ボランティアですっかり汚れてしまった郁乃を、朱音が「一緒にお風呂入りましょう!」と誘ったらしい。


 この妹の、下心丸出しな顔が目に浮かぶ。


 郁乃は言われるままに、朱音と一緒にうちの風呂に入ったらしい。


「それで……その……シャワーで髪を洗ったせいで、抑え込んでいた髪が爆発してしまったみたいでして……」


「お前のクセ毛ってそこまでだったのか……」


 見れば見るほど、メデューサである。なんというメデューサだろう。


 普段もクセ毛気味だったが、綺麗にセットされていて、きっと誇張しているだけなのだと思っていたが――俺が思っていた100倍はメデューサだった。


 今の郁乃は、アフロみたいに髪が爆発しており、髪がクルクルと絡み合っている。


 もはや、誰?


 と、普段とは別人と疑うレベルだ。


「ご、ごめんなさい先輩……急に先輩の髪がうねり出したかと思ったら、爆発したので驚いて悲鳴をあげちゃいました……」


「それは髪なのか」


「うぅ……だ、だから嫌なのです……この髪を他人に見せるのは……」


 郁乃は自分の髪を手で覆うが、ボリュームが多いから全然隠せていない。


 郁乃はキッと俺を涙目で睨んだ。


「……裸を見てしまったことは、別にいいです。翔太くんが、朱音さんのことをどれだけ気にかけているかのは知っているので。しかし、この髪のことは忘れてください」


「は、はい……」


「朱音さんも……」


「は、はひ!」


 こ、怖い……目が軽く人を1人くらい殺しそうなほど血走っていた。

 俺も朱音も、郁乃の有無を言わせぬ迫力に気圧されて、コクコクと首を縦に振り続ける。


 というか、裸と髪の優先順位がおかしい気がするのだが……それほど、あのメデューサみたいな髪を見られたくなかったということだろうか。


 まあ、残念ながら髪のインパクトで、裸体の方まで意識が向かなかったわけだが……。


 郁乃は、「よろしい」と言い放ち、コホンと咳払いする。


「それじゃあ、もうこの話題はお終いです……! ちょっと、部屋に戻って夕食を作る準備をしてきます!」


「あ、うん……いってら……」


 ぷりぷりと怒る郁乃の背中を見送り、彼女がうちの玄関を閉めた後、俺と朱音は緊張の糸が切れたのか、同時に肩の力を抜いた。


「はあー……先輩、ちょー怖かったよぅ……」


「だな……もうあいつの前で2度と髪の話しないようにしよ……」


 俺は言いながら正座を崩すと、ポケットでなにかがクシャッと音を立てたので、そういえば例の写真を入れていたなと思い出す。


「ああ、そうだ……なあ、アーちゃん。ちょっとこの写真を見てくれないか?」


「ぬ? なになにー? ん……? これ……昔のお兄ちゃんと、アーちゃん……?」


「そうそう。10年くらい前、こっちに来てだな時に撮った写真らしいんだけど……この女の子の名前覚えてるか?」


「ええ? ええっと……このぽっちゃりしてて、ワカメみたいな髪した地味目の女の子のこと?」


「そうそう」


「うーん……なんとなくは覚えてるけど……名前はなぁー。たしか、メ……メーなんとかだった気が……」


「メデューサだったら郁乃のことだぞー」


「誰がメデューサですか」


 ちょうど、俺がメデューサの名前を口に出したところで、郁乃が戻ってきた。なんて間の悪いやつなのだろう。


「ちょっと待て郁乃さんや。待て。包丁を片手に近寄るのは危ない。マジで」


「ごめんなさいどうしたのですか?」


「違う違う。マジで今回は、そういうんじゃなくてだな……」


 俺は包丁を持ってにじり寄ってくるガチ切れ寸前な郁乃に、かくかくしかじかと事情を説明する。すると、一応納得したのか、包丁はキッチンに戻してくれた。


 ナチュラルに怖かった……。


「それで? その写真というのは?」


「あ、これです〜」


 と、朱音は郁乃に例の写真を渡す――次の瞬間、郁乃が「なあっ……!」と間抜けな声をあげた。


「ん? どうした? なんかあったか?」


「な、なんでもありません……なんでもありませんとも!」


「お、おう……そうか? とりあえず、写真返してくれ」


「うぇ!? え、えと……あの……そのぉ……」


 なんだろう。郁乃のようすがおかしい気がする。

 珍しく歯切れが悪いし……まさか……。


「なあ、郁乃。まさかお前……」


「な、なんですか!? 私はこんなぽっちゃりしててワカメみたいな頭をした女の子知りませんよ!?」


 郁乃が慌てたようすで変なことを言い始めたが、俺は気にせずに続けた。


「まさかお前……うんこでもしたいのか?」


「は?」


 郁乃に出会ってから一番の真顔でそう言われた。


幼馴染を求めて三千里。

どうも幼馴染マイスターの青春詭弁です。


最近、彼女が欲しくなりました。

ええ。そうですね。はい。


どうでもいいですね!

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