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59.翌朝の出来事

 メリーの部屋での一連の出来事が終わったあと、私たちは着替えることすらなく、ベッドに倒れ混むとそのまま眠りについた。出来れば、今日の出来事は悪い夢であってほしい。そんな願いをのせながら。


「……おはよう。胡桃」


 私は起き上がると同時にメニーに声をかける。


「おはようございます。()()()()()()


 しかし、返ってきたのは非常にドライな答えだ。さすがに、メニーがいる目の前で()()()()()をやったのはいろいろとまずかったのかもしれない。

 そう思うと同時に、昨日の出来事が夢ではなかったのだと確信させられてしまう。


「あの……昨日のは……」

「体液を飲むにしても、直接なめる必要はありませんよね。唾液をコップにいれてもらうとかいろいろあったと思いますけど?」


 言い訳をしようとするも、メニーは冷たい声で反論する。

 そんなメニーを前にして、私は小さく息を吐いてから彼女から視線をはずす。


「……ちょっと、試してみようかな」

「何をですか?」


 メニーはむすっとした表情を浮かべてこちらを見ている。どの程度まで本気かわからないが、彼女なりの不機嫌ですアピールだろう。


「……本当に不老不死になったかどうか」


 そういいながら、私は部屋を見回して、何かちょうどいいものはないかと探し始める。

 しばらくそうしていると、前にメニーが果物の盛り合わせを買ってきたときに、その果物を切り分けた果物ナイフが部屋の棚にしまわれていることを思い出してそれを取り出す。


「……とはいったものの……」


 メニーの反応からして、昨日話を聞いたという事実は間違いなく存在している。しかし、だからといって本当に不老不死になったのかと聞かれると実感がない。


 確かに体はいつもに比べて軽いが、それだけだ。ルーチェ曰く、体のありとあらゆる不調が全て取れたからとのことだが、それは本当だろうか?


 私は果物ナイフを心臓に近づけていって、いったん止める。


 仮にこのまま力を入れて刺して死んでしまったらどうしよう。そんな不安が私の中に生まれる。


「……病気はしないし、けがをしてもすぐに治るって言っていたよね?」

「はい。そうですね」


 さすがに自分の体で不老不死のことを試そうとしていることに関しては不安に思ったのか、先ほどまでむすっとした表情を浮かべていたメニーは、心配そうな表情を浮かべている。


「すぐに治るってことは血は出るのかな? いったん服は全部脱いでおこうかな……」


 死なない。そういわれていたとしても、自分で自分を殺すような勇気はない。私は時間稼ぎの意味も込めて、下着まで含めて服をすべて脱ぐ。


 全裸になった私は、改めて心臓のあたりにナイフを突きつける。


 そのままどうしたものかと考えていると、すっと私の手の上にメニーの手が添えられる。


「大丈夫です。もしも、ターちゃんが……いや、お兄ちゃんが一日経っても目覚めなかったら、私もついていきますから」


 そういって、メニーは小さく笑みを浮かべる。おそらく、その裏には壮絶な覚悟があるに違いない。友人をいや、兄妹を殺す手伝いをした上にもしも時は後を追うといっているのだ。並大抵の覚悟ではできないことだ。


「ありがとう。胡桃……それじゃ、せーのって行ってみようか……せーの!」


 こういったことは考える時間をもって、いろいろと考えてしまうとできなくなってしまう。

 私は覚悟を決めて、メニーとともに肋骨の間、心臓のあたりをめがけてナイフを突き立てる。


 胸のあたりに異物感が来たと思うと、強烈な痛みが私を襲う。あまりの痛みに叫び声をあげそうになりながらも、私はそのナイフを引き抜く。

 すると、私に襲い掛かってきていた痛みはすっと引いて、ナイフと同じ形に開いていた傷口もすぐに閉じる。


 気が付けば、ナイフを突き立てた場所は元の白い肌に戻っていて、その周囲から床に向けて流れ落ちた大量の血液だけが、私がけがをしたということを証明していた。


「……本当に不死者になったんだ」


 私はそのまま血だまりの中に崩れ落ちる。そのことによって、体中が血まみれになるが関係ない。不老の部分に関してはこれから成長していかないとわからないが、不死の部分についてはこの行動によって実証されてしまった。


「お兄ちゃん? お兄ちゃん。大丈夫?」

「……大丈夫なような……大丈夫じゃないような……」


 起きたときのむすっとしたような態度は完全に吹っ飛んだらしいメニーは自身の服が血濡れになるのも気にせず、血まみれのターシャを抱き寄せる。


「大丈夫。大丈夫ですから。私が生きている間は私が守ってあげます」

「……じゃあさ、胡桃がいなくなったらどうするの? 私、胡桃がいなくなろうが、メリーがいなくなろうが、ずっと……ずっと生きているんだよ? どんなに苦しくても、どんなにさみしくても……生きていかなきゃいけないんだよ?」

「……それは……」

「ねぇ……私、どうしたらいいのかな? ねぇどうしたらいいのかな?」


 昨日は話の内容が非現実的すぎて、意味の分からない行動をしてしまったが、一晩寝て、起きて、昨日起こったことが現実だということを認識すると、途端に大きな不安が私に襲い掛かる。


 これからどうなるのだろか?


 そんな不安が主なものだ。


 おそらく、これから先この体で成長を止めた私を置き去りにして、メニーもサントルもローラもメリーもみんな成長し、老いて、死んでいくのだろう。そんな状況を目の前にしたとき、果たして私は耐えられるだろうか?


「……お兄ちゃん。今日は二人で学校を休みましょうか。昨日はいろいろとありすぎたからお兄ちゃんも私も心の整理が必要だから……理由は私が適当に考えておくね」


 そういって、メニーが私の頭をなでる。


「……うん。ありがとう」


 私はメニーに礼を言って、そのまま体をメニーに預ける。


 これから先、私はどうなっていくのだろう。今のうちはいいだろうが、そのうちいつまで経っても成長しない私を見て、誰もが私の体に起きている異常に気が付くだろう。次に勝負をしなければならないのはその時だ。


 だから、せめてその時までは少し成長が遅れている子供ぐらいで認識されているその間は普通の子供として過ごそう。


 私はメニーの腕の中で決意をゆっくりと固めていった。




 *




 夕方。

 すっかりと日も傾き、部屋の中は赤い色で染められている。


 メニーが学校側に対して、どのような理由を提示して休みを取得したか知らないが、授業が終わるぐらいの時間から先ほどまでにかけて、サントルやメリー、カシミアまでもがわざわざ私の部屋に見舞いに来て声をかけてくれた。


「……今日はいろいろな人が来てくれましたね」

「うん。それで……なんていったの?」


 私が尋ねると、メニーは小さく首をかしげる。


「何の話ですか?」

「休んだ理由。何て話したのかなって」


 私が言うと、メニーは納得がいったらしく、小さく頷く。


「あぁその話でしたら……全部素直に話しましたよ」

「えっ?」

「あのあと、メリーさんとも話し合いまして……その、どうせそのうちバレるんだから、今のうちに事情を話しておいた方がいいんじゃないかって。もちろん、ルーチェ様のことは言いませんでしたけれど……その、ちょっとした事故でターちゃんが不老不死の力を手にいれてしまったとだけ……みんな中々信じてはくれませんでしたけれど、とりあえず納得はしてくれました」

「……そっか。そうなんだ」


 確かに不老不死のことはいつかはバレてしまう。それが今なのか、成長しなくて不自然だと言われる未来なのかの違いだけだ。子供の成長というのはとても早い。だから、どうせすぐにバレるだろうというのが、メニーたちの考えだったのだろう。


「事前に相談しなかったのは申し訳ないと思っています。でも……」

「うん。わかってる」


 おそらく、なにも言わずに過ごしていたら、いつまで経っても成長しない私を前にして、病気じゃないかだとか、栄養が足りていないのではないかといって、周りに心配をかけることになるだろう。メニーはそれを危惧していたのだと思う。


「……わかっているけれど、ちょっと一人にさせてもらってもいい?」

「……でも」

「メニー。私がいいと言うまで、部屋の外で待ってて」


 一人になりたい。私は洗脳の魔法でメニーの意思を奪ってでも、そうしたかった。

 洗脳の魔法にかかり、自らの意思に反して部屋を出ていくメニーの姿を見送ったあと、私はベッドに顔を伏せて嗚咽を漏らしながら泣き始めた。

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