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26.ターシャから見たメニー

 最近、ふと思うことがある。


 メニーも実は転生者で自分と同じ日本人なのではないかと。


 仮に違っていた時にただの変人認定されて、友達じゃないなんて言われてしまうかもしれないのでとてもじゃないが、口には出せない。しかし、私の中では彼女が転生者である説はかなり有力な説となっている。


 先日、結界を越えてから彼女と一緒に入っているこたつもどきもそうだし、それにみかんもどきを加えるセンスだとか、トランプゲームだとか、そのほかにも彼女が魔法の練習をしてみたいと言い出したので付き合ってみれば、どういうわけか“か〇はめ波ー!”と大声を張り上げながら両手を前に突き出して何かを放とうとするし、どこからともなく大きなマスケット銃を取り出して、“テ〇ロ・フィナーレ!”とか言いながらそれを敵(に見せかけた的)に命中させて、紅茶を飲みだす始末だ。なお、そのマスケット銃は普通のマスケット銃なのでもはや魔法なんて関係ない。(紅茶もいつの間にか出たように見せかけて、陰に隠れていたポールが用意していた)


 このほかにもいろいろと言いたいことがあるが、偶然では片づけきれないぐらい彼女の思考というか、行動が日本の若者(?)のそれに似ているのだ。


 なんというか、今の自分の心情はこの一言に尽きる。


 わけがわからないよ。


 そろそろ、メニーに“日本っていう国を知ってる?”ぐらいなら聞いてもいいだろうか? それで知っているという答えが返ってくれば、次に転生者なのかと尋ねてもいい。いや、でもそうなると、自分の正体が転生者、ましてや男であることを明かすことになるわけで、これまでの行動を振り返った時にかなりまずいことになるかもしれない。


 もしもだ。万に一つ彼女も自分と同じ条件だったらセーフだろう。しかし、もしも彼女が前世も女の子だった場合、これはかなりまずいことになる。彼女から積極的にやってきたとはいえ、抱き着いたり、一緒にお風呂に入ったりしてるわけで、そういった行動を指して変態だと糾弾されてもおかしくはない。


 私はちらりと彼女の方を見てみる。


 すると、彼女はこれまたこたつもどきから青い透き通った石を取り出して、それを手に持って“バ〇ス!”とか言っている。絶対に確定である。この子も日本人だ。

 問題はそれをどこでいうかだ……いや、もしもの可能性を考えて彼女に自分たちが同志だということに気づかれないように気をつけた方がいいかもしれない。


 向こうから、転生者なのかと尋ねられたのならともかく、わざわざこっちから転生者であることを明かして、嫌われるようなことがあってはならない。誰だって、今まで仲良くお風呂に入っていたり、同衾していた人物が実は男だったとばれたら心に傷を負うことは間違いないだろう。そんなリスクを冒してまで、彼女の由来を探るような勇気を私は持ち合わせていない。


「ねぇメロンちゃん。何やってるの?」


 しかし、私はパンドラの箱に触れるかのようにそんな質問をついにぶつけてしまう。

 その質問をぶつけられたメニーはきょとんとした顔を浮かべてから、小さく笑みを浮かべる。


「これはですね。昔屋敷で見たお話の真似をしているんですよ」


 絶対に嘘だ。正直、嘘だ! と叫びそうになった。彼女の眼はキョロキョロと泳いで動揺しているのがまるわかりだし、そんなものが異世界の屋敷にあってたまるかといった気分である。


「あぁ……そうなんだ」


 しかし、そのことを指摘するわけにもいかず、私は納得したふりをして引き下がる。正直な話、これ以上話に付き合っていてボロが出そうで怖いからだ。


 それにしてもだ。仮に彼女が元日本人だとして、やっていることがいろいろとアクティブ過ぎないだろうか? 特注でこたつもどきを作られたり、トランプを作ってみたり、いろいろな技の練習をしてみたり……屋敷こもってばかりでそのことを当たり前だと受け入れていた私とは正反対である。


 しかし、彼女もまた私と同じでこの世界において独りぼっちだと思っているのかもしれない。自分だけが転生者で周りの人たちは普通の人たちだ。だから、話が通じない。自分の考えを理解してもらえない。私と同じようにそんなことを感じているのかもしれない。


 ならば、あなたは一人じゃないよといわんばかりに自らの転生者だと告げてみるのもありだろうか? いや、しかし、自分の中身とこれまでの彼女との関係がそれを邪魔する。本来なら、私も転生者だから一人じゃないよといってあげるのがいいのかもしれないが、私としては今の彼女との関係をどうしても壊したくない。それに、もしもそうではなくて、本当に偶然日本のそれに近い文化が彼女の出身地であるメロ州にあったというだけの話だった場合、自分に来るダメージはかなり大きい。


 だからこそ、このことに関しては気づいていないふりをして黙っておこう。


 そう考えて、私はこれまでの思考を胸の奥の奥へとしまい込む。


「メロンちゃんは本当にいろいろなことを知っていますね」

「ありがとうございます。私、ちゃんといろいろと勉強しましたから」


 今考えると、彼女がいろいろとこの世界の事情に詳しかったりするのは、この世界に溶け込もうとして必死に勉強をしたからではないだろうか? そう考えれば、彼女の子供離れした豊富な知識量も納得がいく。

 そう考えると、彼女は彼女でこの世界に溶け込もうと必死なのだろう。それに対して、自分はどうだろうか? 親の言うままに屋敷にこもり、学校に行く前だからとまともに勉強もせずに日々を無駄に過ごしていた。このままでは同じ転生者でもメニーに後れを取ってしまうことは間違いないだろう。


「ねぇメロンちゃん」

「何? ターちゃん」


 私はそこまでの思考をもってして、メニーに話しかける。


「私、メロンちゃんのことをもっと知りたい。だから、メロンちゃんが勉強していた内容についていろいろと話を聞いてもいい?」


 私からの申し出を受けたメニーは目を丸くさせて、パチパチと瞬きをする。そんなに驚くほどに私からの申し出は予想外だったのだろうか?


「別にいいですけれど……どうしてきゅうにそんなことを?」

「なんとなくよ。なんとなく。ほら、馬車の中にいるばかりでほとんど外に出れていないし、私なりの暇つぶしだと思ってもらえればいいわ」

「そうですか。わかりました。それではどこから話をしましょうか……」


 そこからはメニーを講師とした、この世界における文化の勉強が始まる。


 私は講師を務めるメニーに時に質問をしたり、新しい疑問をぶつけてみたりと、これまでの彼女との遊びと同様にそれは充実時間となっていった。

 まずはこの世界における常識やマナーの話から入り、続いてメロ州独自の文化だったり、遊びについての話が始まる。そのあとはメロ州周辺の領の文化や遺構などの話が始まり、彼女の知識量がいかに豊富であるかということを思い知らされることになる。


「ねぇメロンちゃん」

「なんですか?」

「メロンちゃんって本当に物知りだよね」

「……ありがとうございます」


 時々、そんな会話をはさみながら私とメニーのたった二人だけの異世界の文化に関する授業は馬車が次の宿場町に到達するまで続いていた。

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