久しぶりのやる気
馬車がゆっくりと歩みを進めている途中、あたしの肩に小さい石がぶつかった。飛んできた方向を見ると、シグニアさんがいる。
アイコンタクトを全て理解するほどの仲にはまだなれていないかもしれないけど、今の彼女が伝えてくれる意味はわかっている。
何かが近くにいる。もしくは向かってきているということだ。
あたしはより一層、周囲を警戒する。
すると、更に少し進んだところであたしでもわかるほど気配が近づいてきた。いや、あたしがわかるレベルを通り越して、感覚が鈍くなければ理解できるほどの狙ってきている気配だ。
数はおそらく3体。
「少し止まってもらえますか?」
あたしがそう言うと男性は馬車を止めてくれた。その顔には汗が流れている。おそらく、何かを感じているんだろう。
馬車が停止すると荷車から少しガタガタと音がなった後に、1人の女性が降りてきた。
身の丈ほどある細身の剣を背負っている。おそらく護衛に雇われたという人だろう。
「くるよ」
彼女は降りてきて剣の柄に手をやったと思うとそう呟いた。
その数秒後、馬車の前後を囲むように木々の隙間から飛び出してきた。例のサーベルウルフだ。
「もう一匹いるはず。気をつけて」
彼女はそう言いながら荷車とサーベルウルフの間に立つ。
あたしも前方の馬とサーベルウルフの間に立ってワンドを伸ばした。
「もう一匹は大丈夫。あたしの仲間が1人山の中で待機してたからやってくれてるはず」
「わかった。それじゃあそっちはお願い」
その声が聞こえた後、背中側からサーベルウルフの悲痛な声が聞こえた。一撃ということはないけど、完全に圧倒してそうな雰囲気がある。
「『グランド・ウォール』! 本当は視界に収めておきたいけど、まだそんなに器用じゃないから一対一でお願いするわよ。って魔物相手にいっても意味ないか」
あたしは自分の後ろに更に土の壁を作り上げて、馬車まで簡単には行けないようにする。
「それじゃあ、やりましょうか!」
あたしは久しぶりに戦いにやる気を出してサーベルウルフにそう言い放った。




