金獅子の矛と盾
「魔物」や「魔族」と呼ばれる異形たちとの争いは、毎回熾烈を極めるも、その決着は意外な事に実にシンプルなものである。
魔物たちは基本的に動物並の知能や本能しか持ち合わせていない。
そんな魔物たちが、人間へ集団での組織的な侵略行為を行う事ができるのは、魔物たちを率いる「魔族」、戦場の『首』の存在がいるからだった。
魔物たちを統率することができる魔物たちの上位種、人々はそれを「魔族」、俗に『首』と呼んだ。
その『首』を討ち獲る。
それが魔物たちの組織的な戦闘行為を終わらせる、実に単純な決着方法だった。
しかし、それはもちろん一筋縄ではいかない。
魔物たちの上位種にあたる『首』は、その力はもちろん、中には魔力や魔術を使う個体までもが存在し、他の魔物たちとは比較にならない、並の兵士ではとても太刀打ちができぬ程に強力な相手だからだ。
醜悪な魔物たちの軍勢の中を誰よりも早く駆け抜け、屈強な『首』をいとも簡単かの事のように狩りさらっていく傭兵団。
『首盗みの金獅子』
その異名を世に轟かせていたのは、ある親子の働きがあったからだった。
巨大な体躯を持った、その『首』は大きく振りかぶると戦斧での一撃を振るった。
だが、小柄なライトアーマーは、その強撃を軽々とバックラーで弾き飛ばした。
「ユービスっ!!今よっ!!」
「分かってるってのぉっ!!」
『首』の放った一撃を弾き、隙を作ったライトアーマーの言葉に、若いランサーの槍の矛先が宙を走った。
その一閃はあっけなく、相手の頸を討ち落とす。
『首』の巨体は、膝を着き、音を立てて地面に倒れ込んだ。
「へへっ、今回も余裕っしょ…いてっ!!」
横たわる『首』の死骸を前に得意げなランサーだったが、すかさず彼の尻にライトアーマーの蹴りが入る。
「気を抜かないの!!それに、角笛を吹くまで仕事だって、この子は何回言えば…」
「へいへい、分かってるって、今吹きますよ…」
ランサーは不服そうに腰袋から角笛を取り出すと、力いっぱい吹き鳴らした。
空高く、その力強い音色が響く。
角笛の音色の直後、後方の戦線からは大きくどよめきが起こり、兵士たちの足音は地鳴りとなって戦場に轟いた。
ランサーが吹いた角笛こそ、魔物たちを率いていた『首』を討ち獲った合図。
すなわち、その戦闘での最終局面、統率を失った魔物たちへの掃討戦開始の合図だった。
「よっし、お仕事完了。オカン、俺らもさっさと取るもん取って帰ろうぜ」
そう言うと、彼は先程討ち倒した『首』の方へと目をやった。
そこにあったのは、もう既にせっせと魔石の回収に夢中なライトアーマーの姿だった。
「…え?ユービス、何か言った?」
「…ったく、相変わらず、仕事の早いこって」
その姿に、ランサーは呆れ顔で言った。
ライトアーマーの母、ケティア・ライトマン。
ランサーの息子、ユービス・ライトマン。
悪名高き金の獅子団が誇る、矛と盾の親子。
「ユービス!!こいつの魔石の色、赤が出たよ!!レアなやつ!!」
滅多に出ない高額な赤い魔石に、キャッキャと喜ぶ母に、息子はヤレヤレと両手を上げてポーズを取るのだった。
「早いとこ帰ろうぜオカン、俺、腹減ったわ…」
ユービスは、そう言って槍を担ぎ直した。




