戦場と治癒士
作者の未熟さ故、最初からのリスタートをさせていただきます。
ブラッシュアップさせた作品をお送り出来るように頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
「…ええいっ!!クソっ!!」
野戦療院の薄暗いテントの中、負傷兵の多くの呻き声の中に治癒士の怒号が響いた。
彼の手から緑色の治癒術法の光が力なく消えていった。
術法をかけていた兵士は息を引き取った。
またしても、緑色の光と共に、命が1つ消えていった。
今回の戦場で、もう何人の兵士たちを見送ったのか分からない。
それでも苛烈を極める戦線からは、負傷した兵士たちが次々と野戦療院に担ぎ込まれていた。
――俯な、次が待ってる…
治癒士は心身共に疲れきった重たい体を必死に持ち上げる。
自分が動かなければ、また誰かの命が消える。
それだけはごめんだ。
まだ多くの、傷に苦しみ呻く負傷兵たちがテントの中には残っていた。
彼は次に治癒をかける負傷兵を選別する為に、虚ろに療院の中に目線を泳がせる。
とても、全ての兵士たちを診られる状況では無かった。
そんな折、入口からテントの中へと差し込む陽光の中で治癒士の目線は、ふと止まった。
そこには、若い女性治癒士が光の中に佇んでいた。
彼女は治癒士と目が合うと、緊張した面持ちで口を開いた。
「き、金の獅子団より来ましたっ…じゃなくて…参りました!!」
彼女の口調は緊張のせいか、だいぶたどたどしいものだった。
「アイエル・ライトマンといいます!!お手伝いに参りました!!」
アイエルはそう言うと勢いよく、治癒士に深々と頭を下げた。
治癒士は、そんなアイエルの腕にある回復術士腕章をサッと確認する。
腕章にあったのは、白の一つ星。
7階級まである治癒士の中でも1番下の等級ではあったが、全く手が足りていない今の状況ではそんな贅沢を言っていられる場合でもなかった。
――白の一つ星に、あまり重症者は任せられんな…
「ああ、それじゃ、手当出来そうな奴から頼む。そうだな…」
治癒士がアイエルにも手当出来そうな負傷兵を見立てる為に視線を移しかけた時、外の兵士たちの喧騒がより一層激しさを増した。
「畜生っ!!首盗みだっ!!」
「首盗みの奴らが来やがったぞ!!急げっ!!」
外で慌てどよめく兵士たちの声がテントの中にも聞こえてきた。
それを聞いてアイエルは、まるで少女のように口を尖らせた。
「首盗みじゃないもん、金の獅子団だもん…」
アイエルは拗ねた口ぶりでそう言いながら、その手は既に負傷兵への治癒術法をかけ始めていた。
初級治癒術法の薄緑色の明滅が、テントの中を照らしていた。
「首盗み」の金獅子
数々の戦場にて魔物たちの中の『首』だけを狙い、まんまと狩りさらっていく、悪名高き傭兵団。
その噂は治癒士も聞き及んでいたのだが、テントへと訪れたアイエルは、そのいわく付きの傭兵団の治癒士らしい。
色々と聞きたい事もあったが、多くの負傷兵たちが治癒を待つこの状況では、今はそんな事に頓着していられるような場合でもない。
治癒士は懸命に治癒術法をかけているアイエルを横目に、次の負傷兵の元に駆け寄った。
治癒士から見たところ、アイエルの処置は彼女の階級に見合わず、実に的確で見事なものだった。
使っている術法こそ、術法の中で1番効果の少ない初級回復術法ではあったが、その術法と応急処置の手際は、並の治癒士とは比べ物にならない程、早く見事なものだった。
「こちらは、これで大丈夫かと思います。次のご指示をお願いします」
更にアイエルは治癒士の指示にもきっちりと応えてみせる。
治癒士との連携も実にスムーズだった。
――…これなら、一人でも多くの兵を救えるっ
負傷兵に溢れるテントにもたらされた一縷の望み。治癒士の疲れきった手にも力が戻るのだった。
2人の治癒士の放つ治癒術法の緑色の淡い明滅が、野戦療院のテントを明るく照らした。




