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2話〈刻印〉

レオンが部屋から出て行った後、アッシュはベッドから起き上がり、自分の体を確認する。


全身のケガはもうほぼ治っている。痛みもあまり感じない。


アッシュは前からケガの治りが早かったが、ここまで速いのは初めてだった。


「さっき治療って言ってたけど、それのおかげか?」


包帯は巻かれておらず、処置の跡も見えない。


「まあいいか。」


アッシュは立ち上がり、部屋から出る。


「広いな…」


廊下を進むと、下階へ下る階段がある。


「えっと、ここが多分一階だから、これが地下室か…」


アッシュは地下を覗こうとすると、突然声をかけられた。


「おい、行くなって言っただろ?」


レオンはアッシュの手を引っ張り、階段から離れさせる。


「う、ごめん…」


「まぁいいや、ほれ、これ。」


投げられたものをアッシュがとっさにキャッチする。


「これは…」


何やら液体が入った瓶だった。


「ヒラークの実から作った回復ジュースだ。飲んでみろ、うまいぞ。」


「…」


アッシュは蓋を開け、匂いを嗅ぐ。


「…いい匂い。」


口を付け、飲む。


「うまい!」


それは今まで口に入れた何よりも美味で甘かった。


「だろ?フルダ草の汁も入れてるから甘味がするんだ。そして…」


レオンの目がアッシュの左手の甲をとらえる。


「やっぱりな。」


そこには薄いが、蝶のような刻印が浮かんでいた。


「え、あ、これは!その…」


アッシュはこの忌々しい刻印によって虐げられていた。村人たちはそれを悪魔の印だと言って、アッシュを迫害したのだ。


「気にするな、俺もある。」


レオンは自身の左手を差し出す。


そこにはアッシュの物と似た、十字架のような刻印があった。


「!、俺のと同じ…?」


「こいつの名前は魔術刻印、選ばれし者の目印ってところだな。」


「選ばれしもの、そんなはず…」


アッシュの刻印はアッシュに不幸しかもたらさなかった。


ある時は、その刻印を消し去ろうとアッシュの手を切り落とそうとした者まで現れた。


しかし気が付いた時にはその者が気絶し、刻印が薄れていた。


「こいつを知らない奴らなら、そりゃ迫害するだろうな。何てったって、この刻印を持つものは常人には扱えない力、魔術を使えるのだから。」


「だからあの時…」


「お、発動自体はできてたみたいだな。」


レオンがアッシュの手の中から瓶を取る。


「刻印の濃さは所持者の魔力量に直結する。お前が気絶してた時、それはほぼ透明だった。」


「俺の魔力がカラカラだったってことか?」


「そうだ。んで、聞くがお前は魔術を学びたいか?」


アッシュは迷いなく答える。


「学びたい。生きるため、誰にもしいたげられないために。」


「よろしい、それじゃあついてきな。」


レオンはアッシュの手を引き、一つの部屋に入る。


そこは棚、樽、箱などが置かれており、様々な物がしまわれている倉庫のような空間だった。


レオンは棚の引き出しの一つから石のようなものを取り出し、アッシュへ渡す。


その上には、複雑な文言のようなものが円形に刻まれていた。


「魔術刻印を持つだけじゃ魔術はほぼ使えない。魔術の媒介となる物が必要だ。」


「媒介…?この石が?」


「そうだ、まず手に取ってみろ。」


言われた通りその石を持つ。


その途端、自分と何かが流れでつながるような感覚が沸き起こる。


「つながってる?」


「感じたみたいだな。それが魔力の流れだ。」


懐かしい感覚だった。知らないはずなのに知っている。


「次は実際に魔術を使ってみよう。その石には単純な発光の魔術の魔術陣が刻まれている。感覚に従って魔力を流してみろ。」


「わかった。」


アッシュは流れに従う。


心が浮かぶように、体内の何かが石へ流れ込む。


石が、まばゆい光を発する。


「おお!本当に光った!」


「やるじゃねぇか。初めてでそんだけ光らせられるんなら、相当魔術の才能があるようだ。」


アッシュの顔に喜びが浮かぶ。


「これが、魔術…」


「あ、もう一回魔術刻印見せてみろ。」


「?おう、わかった。」


レオンは刻印を見てわずかに目を細めた。


「…なんか変なのか?」


レオンは視線を刻印から外した。


「いんや、別にこれでいい。それじゃぁ今日から魔術の訓練をやっていくぞ?」


「ああ!」


次の日から、アッシュの修業が始まった。


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