1話〈忌み子〉
誰かが言った。
あいつは悪魔だ。
誰かが言った。
あいつがいるから苦しむんだ。
誰かが言った。
殺そう。
誰かが言った。
あいつを殺そう。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
少年は追われていた。
喉が焼けるように痛い。
裸足に近い足は感覚を失い、雪を踏んでいるのかすらわからなかった。
理由はわからなかった。
村人たちは自分の悪魔だと、自分が居るから作物が取れないんだと言っていたが、少年には身に覚えがなかった。
「なんで、俺は、ただ生きていたいだけなのに…」
遠くから怒号が響く。
「いたぞ!」
「あの悪魔を逃がすな!」
少年はいつの間にか森の中にいた。ここからはまだ見えないが、いずれ村人たちは追いつくだろう。
「もう、疲れた…」
昔からだった。少年の記憶の中にある村人たちの目は、常に冷たいものだった。
毎日石を投げられる。
昨日は食事を奪われた。
その前は穢れが移ると殴られた。
「ここで止まったら、終われるのか…?」
少年は一瞬、このまま苦しみ続けるのなら、いっそのこと死んでしまおうかと考えた。
「おいおい、こりゃひでぇな、全身ボロボロじゃねぇか。」
最後にそんな言葉を聞いたのち、少年の意識は闇へ落ちた。
何分だろうか、何時間だろうか、それとも一日が過ぎたのか、少年は目を覚ました。
「うーん、ここは…」
今まで感じたことのない暖かさと柔らかさ。そして、見知らぬ天井。
「ん、起きたか。ガキ。」
横を見ると、ローブを被った男が座っていた。
「ひッ…近寄るな!」
少年はとっさにその男から離れようとするが、ベッドのヘッドボードに頭をぶつける。
「いてッ!」
「おうおう、元気だな、一応手当てしたとはいえ、もう動けるのか。」
「ぐ…あんたは、何者だ?なんで俺を助ける?」
「俺か?そうだな…」
男は少しだけ笑った。
「世界の守護者ってところだ。」
男の表情は嘘を言っているようには見えなかった。
「…とてもそうは見えないけど。」
少年のその言葉にローブの男は大げさに反応する。
「おいおい、仮にも命の恩人だぜ?そりゃひどくねぇか?」
「それは、ありがとう…」
「ま、無事そうでよかったぜ。家はどこだ?連れて行くぞ。」
少年はうつむく。
「無いよ…」
少しの間の後、男が口を開く。
「そうか、まぁそんなところだとは思っていたよ。」
男は手を伸ばし、少年の頭をなでる。
少年はすこしビクッとしたが、おとなしくなでられる。
不思議と嫌悪感を感じなかった。
「悪かったな、そんなこと聞いて。」
男は立ち上がる。
「もし残りたいならここに残れ、ガキ一人ぐらいなら育ててやれる。」
「いいのか?」
「前から少し育児には興味があったんでね。」
「んだそりゃ。」
「まぁそんなことより、ガキ、お前名前は?」
少年は少し迷い、答える。
「アッシュだ。」
「イングラ語で灰、か、ひどいもんだね。」
「うっせ、ぞういうお前はなんなんだよ。」
「俺はレオン、レオン・フロウだ。」
「レオン…」
アッシュは小さくつぶやく。
「そんじゃ、俺は少しやることがあるから。」
レオンが部屋から出ようとするが、立ち止まる。
「そうだ、地下室には入るな。絶対だぞ?」
「?、わかった…」




