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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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99:エルダの認識変化 「もう“守る対象”じゃない」

朝の空気は、驚くほど軽やかだった。

昨日の「村としての初勝利」という特大の祝杯が、まだ村のあちこちに心地よい余韻として漂っている。


子供たちは泥だらけになって広場を駆け、大人たちは昨日の戦果を自慢し合いながら、それでいて手元は休めず、それぞれの役割へと向かっていく。立ち上る炊き出しの煙、焼き立てのパンの香ばしさ、そして……。


「ははっ! 今日も最高にゴキゲンな目覚めじゃないか! リナ、お前さんが薬草を干してるだけで、この村の『生存率』が跳ね上がって見えるぜ!」


カイゼルが広場の中央で、いつものように底抜けに明るい声を響かせた。

美人薬師のリナは、長い髪をさらりと揺らし、朝日を浴びる薬草を丁寧に並べ替えながら微笑む。


「もう、大げさなんだから。でも、昨日の戦いで大きな怪我人が出なかったのは、みんなが『自分の役割』をしっかり守ったからよね。……昔みたいに、襲撃の鐘でただ震えてるだけの場所じゃないわ」


「その通りだぜ、リナ! 恐怖で震える代わりに、バレット銃の照準を合わせた……その差は、天と地ほどデカいからな!」


カイゼルは周囲を見渡す。

そこへ、物流の女王レイナが風のように現れた。

「流れ、止まってないわよ。昨日の魔物の素材、鮮度が落ちる前に分配完了。余剰分はマリナのルートに流して、軍資金に変換済みよ」


「ははっ! 早いなレイナ! まるで俺の魔導回路より伝達がスムーズじゃないか!」


「遅いと価値が腐るでしょ? ……ほんと、アンタが何も言わなくても現場が回るから楽でいいわ」

レイナはニヤリと不敵に笑い、すぐに次の「流れ」を調整しに去っていく。


入れ替わりに、マリナが優雅な足取りで近づいてきた。

「いい流れね。これ、村全体が一つの『ブランド商品』よ。……カイゼル、あなた何もしないで見てるだけ? 商売の天才としては、もう少し現場を煽ってほしいんだけど」


「ははっ! 俺がやることはもう決まってんだろ? ――『任せる』ことさ! 仕組みが正解なら、俺がしゃしゃり出る幕なんてねえんだよ!」


### 1:訓練場に咲く「信頼」の火花

昼。訓練場。

エルダ・ヴァルグレイは、並び立つ民兵たちの前に立っていた。

人族、獣人、ドワーフ、エルフ。かつては混ざることすら拒んでいた連中が、今は当たり前のように一つの陣形を組んでいる。


「構え」


その一言で、無数のバレット銃が、槍が、一糸乱れぬ動作で標的に向けられる。


「遅い。確認が抜けている。撃つ前に隣の死角を補えと言ったはずだ」

「はいっ!」


罵声ではない。だが、逃げ場のない「指導」。

獣人の索敵班が風を読み、ドワーフが罠の連動を確認し、人族が射線を維持する。

エルダはその光景を、無言で、食い入るように見つめていた。


かつて、彼女にとってこの村の住人は「守るべき弱者」だった。

庇護し、盾となり、自分の後ろで震えていればいいだけの、折れやすい枝のような存在。


だが、今はどうだ。

それぞれが自分の足で立ち、自分の役割を誇り、自分の牙で敵を噛み裂く術を身につけている。

エルダの瞳に宿る色が、冷徹な「保護」から、静かな「敬意」へと揺れ動いた。


### 2:戦友としての承認

夕暮れ時。訓練を終えた民兵たちが、談笑しながら去っていく。

「今日の連携、昨日の戦いよりキレてたんじゃねえか?」

「当たり前だろ、あんなに強い背中エルダに見張られてるんだからな!」


その輪の外で、カイゼルがエルダに歩み寄った。

「よお、軍曹殿。今日の手応えはどうだい? お前さんの厳しい指導のおかげで、村の平均戦闘力が、俺の計算の天井を突き破りそうだぜ!」


エルダは槍を置き、少しの間、沈黙した。

生活音、笑い声、流れるような村の鼓動。


「……前はな、カイゼル。この村のすべてが『守る対象』だった」

自分から、静かに語り出した。


「弱く、動けず、判断もできない。……だから、私が盾になるしかなかった。それ以外に道はなかった」


「ははっ。軍曹殿の背中はデカいからな。みんな甘えてたのさ」


「だが、今は違う」

エルダは村の灯りを真っ直ぐに見据えた。

「戦える。考えられる。動ける。……これはもう、守られるべき『羊』ではない。……立派な『戦力』だ」


一拍。


「……もう、守る必要はない。一緒に戦う。……それだけだ」


「……はは、最高の合格発表じゃないか!」

カイゼルは底抜けに明るい声で笑い、彼女の肩を叩こうとして……一瞬の殺気に手を止めた。

「おっと、失礼。だが軍曹殿、その言葉を待ってたぜ! 仕組みが命を繋ぎ、お前がその魂を叩き上げた。――これでこの村は、不沈の要塞だ!」


### 3:混ざり合う夜の宴

夜。広場にはいつものように大きな焚き火が灯り、勝利の余韻が宴に変わる。

リナが調合した「疲労回復スープ」が振る舞われ、レイナが持ち帰った外の美酒がドワーフによって配られる。


「どう? この村。価値、跳ね上がってるでしょ?」

マリナが杯を片手にエルダの隣に腰掛ける。


「……悪くない。金の話ばかりなのが鼻につくがな」


「あら、それが一番正直でいいのよ。ねえ、レイナ?」

「ええ。この熱量を外に流せば、さらにデカい富が戻ってくる。止まらないわよ、この流れは」


エルダは鼻で笑いながらも、その杯を口にした。

「……守る必要はないか」

小さく、独り言のように呟く。


その言葉には、かつての孤独な決意とは違う、静かな安らぎが混ざっていた。

自分一人で背負わなくていい。隣には、自分を支える「役割」たちがいる。


カイゼルはその輪の少し外側で、陽気に笑いながら全体を眺めていた。

「よおし、野郎ども! 盛り上がるのはいいが、明日は今日よりもう一歩、未来の設計図を広げるぜ! 止まらねえ、澱まねえ! ――この村の『本気』、世界に見せつけてやろうじゃないか!」


カイゼルの笑い声が、夜の帳を明るく照らす。

守られる場所から、共に戦う場所へ。

止まらない物語は、不滅の盾エルダの「承認」という名の翼を得て、さらなる未踏の極致へと加速し続けていた。


「未来の設計図は、今や全員の『勇気』で隙間なく埋まってるぜ!」

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