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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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89:役割の言語化

村の朝は、以前よりもずっと賑やかになっていた。

畑ではエルフたちが手際よく苗を植え、ドワーフたちは新しい灌漑装置の最終調整に余念がない。獣人たちは森の縁で、まるで景色に溶け込むような鋭い索敵を行いながら、狩猟の準備を整えていた。


一見すれば、これ以上ないほど順調な拡大だ。

だが――その表面の下では、新しい「不協和音」がひそかに、しかし確実に軋んでいた。


「よおし、野郎ども! 今朝も絶好調……と言いたいところだが、なんだか空気がピリピリしてやがるな。まるで爆発寸前の魔石を抱えてダンスしてる気分だぜ!」


カイゼルが広場の中央で、いつものように底抜けに明るい声を響かせた。

だが、その視線の先では、人族の若者がエルフに向かって不満げに声を荒らげている。

「なんであんたらが畑の指示してんだよ! ここは俺たちの村だぞ!」

「……土の状態を見れば分かる。今のやり方では収穫量が落ちる」

エルフは淡々と返すが、その声音はどこか冷たい。

「だからって偉そうにするなよ!」


火種は、あちこちにあった。ドワーフはエルフの「森育ち」を鼻で笑い、獣人は人族の「鈍さ」に舌打ちする。


「おーっと、予想通りの展開だな。エルダ軍曹、こいつは『まぜるな危険』の注意書きを貼り忘れた俺のミスかな?」


隣に立つエルダが腕を組んだまま、冷徹に言った。

「混ぜた以上、起きるべくして起きた衝突だ。放置すれば、この村は内側から腐る」


「ははっ! 腐らせるほど俺は気が長くねえんだよ。よし、最高にゴキゲンな『仕組み』で、この不快なノイズをかき消してやるぜ!」


### 1:種族という「殻」の破壊

村の中央、広場。鐘が鳴らされる。

「全員、集まれ! 今日は最高に面白い『新しいルール』の発表会だぜ!」


集まった人族、エルフ、ドワーフ、獣人。その間には明確な境界線ラインが引かれている。

カイゼルは壇上に立ち、いつもの笑顔で、しかし逃げ場のない言葉を投げかけた。


「結論から言うぜ、野郎ども! ――今日から、隣の奴を『何族か』で見るのは、金輪際禁止だ!」


ざわ、と空気が揺れる。

「……は? 何言ってんだよ」

「エルフだから農業、ドワーフだから物作り、獣人だから戦闘。……ははっ! そんなの、ただの思い込みだぜ! エルフにだって不器用な奴はいるし、人族にだってドワーフより石に詳しい変態がいる。違うか?」


カイゼルが一歩踏み出す。


「お前が誰かじゃない。お前が『何ができるか』だ。これからは種族を捨てて、“役割”という名の新しい服を着ろ!」


「……そんなの理想論だろ!」

人族の男が食い下がる。「種族で分けた方が効率がいい。混ざると足の引っ張り合いになるだけだ」


「ははっ! 効率、ねえ。確かにな」

カイゼルはあっさり肯定した。

「だがな、分けた瞬間、その組織は死ぬんだよ。農業しか知らないエルフが、襲撃された時に隣の獣人の戦い方を理解してなきゃ、守れるもんも守れねえ。俺の設計図に『分断』なんて無駄な項目は載せてねえんだよ!」


### 2:混成班という「血管」の構築

沈黙が落ちた広場に、カイゼルは魔法で巨大な図面を空中に描き出した。


「だから仕組みにする! 今日から全ての作業班を『混成まぜこぜ』にするぜ! 農業班にドワーフを入れろ、工業班に獣人を放り込め。そして――」


カイゼルは光る線を一本、力強く引いた。


「“教える役”を固定する。エルフは人族に土の読み方を、ドワーフは獣人に火の扱いを、獣人は全員に危機察知を教えろ。……一人が欠けても代わりがいる、止まらない組織こそが最強なんだよ!」


「ふふ……面白いじゃない。種族の価値を『分解して再構築』ってわけね」

マリナが扇子をパチンと閉じ、不敵に笑う。


「効率は落ちる。でも止まらない。……レイナ、お前さんの流通網もこれで盤石になるぜ」


レイナも肩をすくめて笑った。

「ええ。滞留しないのが一番の利益だもの。悪くないわ」


### 3:言語化された「繋がり」

「……じゃあ、俺たち人族も、あの怖い獣人に戦い方を習わなきゃいけないのか?」

先ほどの男が、おずおずと尋ねる。


「ははっ! 当たり前だろ! 死なない程度に、最高にスリリングな経験をさせてやるよ。なあ、エルダ?」


エルダが一歩前に出る。

「訓練は私が見る。逃げるな。できないなら覚えろ、覚えたら使え。……それだけだ」


鋭い視線が全員を射抜く。もはや反論する者はいなかった。

できない。その言葉は、実績のあるエルダの前では無意味だった。


カイゼルは満足げに大きく頷いた。

「よおし、決まりだ! 種族じゃない、役割で繋がれ! ぎこちなくても構わねえ、まずは隣の奴の得意技を一つ、盗むところから始めてみようじゃないか!」


その日、村は初めて「同じ方向」を向き始めた。

まだ動きはぎこちなく、速度は遅い。

だが、バラバラだった歯車が、カイゼルの「言語化」という潤滑油を得て、一つの巨大な、そして不滅のエンジンとして脈動し始めていた。


「止まらないぜ、俺たちの進化は! 未来の設計図は、今や全員の役割で隙間なく埋まってるんだからな!」


カイゼルの陽気な笑い声が、夜明けの村に明るく響き渡った。

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