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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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83/130

83:獣人移住 500人

風が変わった。

それは、草花が揺れる程度の、村人には決して分からない微かな違和感。

だが、その一瞬の「揺らぎ」を、村の最強の盾は見逃さなかった。


「……来る。それも、相当な手練れがまとめてな」

エルダが低く言い、槍の柄を握りしめる。その銀髪が、森から吹き付けるプレッシャーに逆らうように鋭く逆立った。


「おーっと! 今朝の風は、随分と野性的でスパイシーじゃないか! 俺の索敵網ネットワークが、最高にパワフルな鼓動を五百発もキャッチしたぜ!」


カイゼルが広場の中央で、いつものように底抜けに明るい声を響かせた。

鑑定は既に完了している。森の奥から現れたのは、黄金の縞を持つ虎の獣人、ティグリスを筆頭とした五百の獣人たち。


「受け入れるぜ! エルダ、こいつらは敵じゃねえ。……この村の『食卓』と『安全』を爆発的に加速させる、最高のハンターたちだ!」


森の影から、音もなく、しかし圧倒的な威圧感をもって獣人たちが姿を現した。

統率された無駄のない動き。その先頭に立つティグリス、そして風のようにしなやかな狼の獣人、リーヴ。二人の視線は、真っ直ぐにエルダへと向けられた。


「……強いな。人間の中に、これほど研ぎ澄まされた刃がいるとは」

ティグリスの低い声が地響きのように鳴る。


「匂いで分かるか。野性の勘ってのは、鑑定魔法よりお節介だな」

エルダが冷徹に返す。空気が一瞬で張り詰め、周囲の村人たちが息を呑んで後退した。


「ははっ! 挨拶代わりの睨み合いはそこまでだ! ――エルダ、言葉よりも確実な『名刺交換』、頼んだぜ!」


「……ああ。模擬戦だ。死ぬなよ」


### 1:野生の頂点 vs 磨き抜かれた武

ティグリスが踏み込んだ。速い。重い。

その巨大な拳が空気を爆ぜさせる。だが、そこにはもうエルダはいない。

残像を置き去りにし、エルダの剣がティグリスの腕を叩く。鈍い音。


そこへリーヴが割って入る。風のような蹴りがエルダの喉元を襲うが、彼女は紙一重で身体を捻り、最小限の動きで反撃に転じる。


速い。三人の姿が広場から消えたように見える。

だが、見える者には見える。重心の移動、殺気の交差。

エルダは崩れない。受ける、流す、返す。一滴の無駄もない「武」の極致。

ティグリスの圧倒的な剛力と、リーヴの変幻自在なスピード。

二人がかりの連携を、エルダはただ一人で捌ききってみせた。


一瞬、すべてが止まる。

エルダの刃が、ティグリスとリーヴの喉元でピタリと止まっていた。


「……いい。お前なら、我らの背中を預けられる」

ティグリスが拳を下ろした。


「使えるな。……狩りの腕、期待しているぞ」

エルダも剣を収める。それで決まりだ。


### 2:魔導による「加速」と「強化」

「よおし、認まりだ! 野郎ども、新入りのための特等席を用意しろ! ――だがその前に、俺から最高にゴキゲンなプレゼントだ!」


カイゼルが手を上げると、濃密な魔力が三人に流れ込んだ。

「身体強化――アクセル。そして、マッスルだ!」


リーヴが跳んだ。その動きに、もはや音すら追いつかない。

「……速い! 自分の体が、風そのものになったみたいだ!」


ティグリスが拳を握る。空気がみしりと悲鳴を上げる。

「違うな。……力が、芯から溢れ出す。それでいて、完全に制御されている」


「ははっ! 片方だけじゃ崩れるんだよ。速さと重さ、その組み合わせこそが、俺の設計した『最強のバランス』だぜ! 使いこなしてみな!」


エルダが踏み込む。消える。次の瞬間、ティグリスの背後に立っていた。

「……完璧だ。これなら、どんな巨獣も一撃で沈む」


### 3:マジックバッグが変える「物流のルール」

カイゼルはさらに、三つの質素な黒い袋を取り出した。

「こいつはマジックバッグだ。容量は無限、中は時間停止。……獲物は全部こいつに放り込め!」


「腐らないのか?」

「一秒も進まねえよ。獲りたての鮮度が、一万年先まで維持される。……これでもう、運搬の手間も保存の心配もゴミ箱行きだぜ!」


リーヴが目を輝かせる。「これは……ズルいね。狩りがただの『作業』になっちゃうよ」


「ははっ! その『作業』の積み重ねが、村を豊かにするんだよ! ――さあ、レイナ! 獲物の処理ルート、即座に確保してくれ!」


「任せなさい! 止めないわよ、全部『流して』金に変えるわ!」

レイナが不敵に笑う。マリナが値を付け、リナが薬草と組み合わせて保存食に変え、料理人が極上の肉料理を村中に振る舞う。


その日から、村の食卓は爆発的に豊かになった。

ティグリスとリーヴ率いる五百の獣人たちが、森を完全に制圧。

獲物は獲った瞬間にバッグに消え、村へ届いたときにはまだ体温すら残っている。


「……回ってるな。面白いように」

エルダが村の配置を見直し、満足げに頷く。獣人たちの加入で、防衛網の穴は完全に塞がった。索敵範囲は十倍に広がり、危険は村に近づく前に霧散する。


夜。焚き火を囲み、ティグリスがカイゼルに問うた。

「お前は、戦わないのか? その力があれば、一人でこの森を支配できるだろう」


「ははっ! 一人で支配して何が楽しいんだ? そんなの、ただの寂しい王様だろ」

カイゼルは陽気に笑い、村の灯りを指差した。


「強いからこそ、一人で勝つ意味がねえんだよ。……俺の仕事は、お前たちが腹一杯食って、笑って、誰にも負けない『仕組み』を作ることだ。一人で勝つより、全員で『回る』方が、ずっと強くて面白いだろ?」


リーヴが笑い、ティグリスが頷く。

「じゃあ、存分に回してやるよ、設計者マスター


「ははっ、頼んだぜ、相棒! さあ、明日は今日よりもう一歩、森の奥まで『流れ』を広げようじゃないか!」


カイゼルの笑い声が、夜の静寂を明るく照らす。

狩る者、守る者、流す者、作る者。

バラバラだった個の力が、カイゼルの設計図の下で一つの巨大な「仕組み」へと昇華した。


止まらない物語は、獣人の誇りという名の牙を得て、さらなる未踏の未来へと加速し続けていた。

「未来は、俺たちの計算通りに踊ってるぜ!」

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