表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/130

75:村人防衛隊編成(農民→戦える民へ)

朝霧が綿菓子のように広場を覆う中、二百人弱の村人たちが集まっていた。

鍬を握りしめてきた農民、かつて鎖に繋がれていた者、森を知り尽くした狩人、そして包丁を置いて駆けつけた料理人。

出自も、筋力も、抱えた過去もバラバラな彼らだが、その視線だけは一箇所――壇上に立つ銀髪の女剣士へと、磁石に吸い寄せられるように固定されていた。


「よおし、野郎ども! 今日は最高の『生まれ変わり記念日』だぜ! 昨日までの頼りない背中は森に捨ててきたか? ――エルダ軍曹、準備は万端だ。こいつらの魂、ピカピカに磨き上げてやってくれ!」


カイゼルが広場の中央で、いつものように底抜けに明るい声を響かせた。

その隣、エルダが音もなく一歩前に出る。彼女が纏う空気だけで、騒がしかった広場が瞬時に「静寂」へと塗り替えられた。


「……今日から、お前たちはただの『村人』ではない。守る側の人間だ。――今日この時、この集まりを『村人防衛隊』と命名する」


静かな、しかし五臓六腑に染み渡るような声。


「いい名前ね、カイゼル。外部向けのパンフレットに載せたら、それだけで安心感が売れそうだわ」

マリナが少し離れた位置で、不敵な笑みを浮かべて算盤を弾く。


「ははっ! 商売の話は後だ、マリナ。今はまず、この連中の腰を据えさせるのが先決だぜ!」


### 1:武器という名の「責任」

エルダが歩き出す。一人ひとりの瞳を覗き込み、その覚悟を測る。

目を逸らす者、震える者。だが、誰も逃げ出さない。そのわずかな「踏み止まり」を、エルダは見逃さなかった。


「武器を持て」


合図と共に、量産されたばかりの魔導式バレット銃が配られた。

初めて「本物」を握る緊張が、村人たちの手に伝播する。


「構えろ。……撃つな。まだその資格はない。まずは、己の体を仕組みの一部として馴染ませろ!」


訓練が始まった。

歩く、止まる、銃を上げる、下げる。

ただそれだけの繰り返し。だが、カイゼルはその「退屈な反復」こそが、魔法よりも強力な力を持つことを知っていた。


「ははっ! 見てなよマリナ。バラバラだったパズルのピースが、エルダの号令一つで一つの『絵』になっていく。……これが組織の美しさだぜ!」


「いきなり撃たせないのね。じれったいけれど、合理的だわ」


「順番が大事なんだよ。動きを知り、役割を理解し、最後に判断する。……その階段を飛ばしたら、ただの暴徒になっちまうからな!」


### 2:個を捨て、「集団」という怪物へ

一時間後、汗だくの村人たちの動きは、見違えるほど整っていた。

「次だ。……標的を見ろ。一斉射撃、用意!」


エルダの声が飛ぶ。

「前列、膝をつけ! 後列、隙間を埋めろ! 個人の精度は問わん。……面で、空間を支配しろ!」


引き金が引かれ、数十発の水弾が同時に放たれた。

バラバラに撃てば外れる弾も、重なり合えば逃げ場のない「壁」となる。


「……なるほどね。一人の英雄を作るんじゃなくて、百人の平均を『仕組み』で底上げするわけね」

マリナが感心したように呟く。


「その通りだ! 強い奴なんて一人もいなくていい。……ただ、隣を信じて、同じ時に引き金を引く。それだけで、この村はどんな騎士団より堅牢になるんだぜ!」


訓練は過酷さを増していく。

風弾ウィンドバレットを使った範囲攻撃の連携。

「間隔を取れ! 隣を巻き込むのは、敵に塩を送るのと同じだ!」

エルダの一喝に、遅れた者が慌てて位置を正す。


光弾ホーリーバレットを使った夜戦想定。

視界の悪い中でも、光の軌跡を頼りに次々と的が貫かれていく。

「……見える。俺たちにも、敵が見えるぞ!」

その歓喜の声こそが、農民を「戦士」へと変える最高の良薬だった。


### 3:自負という名の「最強の盾」

夕方。訓練を終え、地面に座り込む村人たち。

その顔は疲労困憊だが、瞳の奥には今までなかった「自負」が宿っていた。


「……できた。俺たち、本当にやれるんだ」

「ああ……。守れるんだ、自分の手で」


カイゼルは、その静かな変化を満足げに見届けていた。

「ははっ! 見たか、エルダ! こいつら、もうただの羊じゃねえ。自分の牙の研ぎ方を知った、立派な狼だぜ!」


「……形にはなった。だが、戦場は訓練より千倍残酷だ。……明日もやるぞ。死にたくなければな」

エルダの厳しい言葉。だが、村人たちはそれに笑って頷いた。


夜。広場にはいつものように明るい灯りが灯り、防衛隊の面々が今日の成果を自慢し合っていた。

「俺の射撃、見たかよ! 的のど真ん中だぜ!」

「へっ、俺の連携の方が早かっただろ?」


「いい流れね、カイゼル。人が『自分たちでできる』って確信した瞬間の熱量……これ、最高の投資対象だわ」

マリナが杯を傾け、満足げに笑う。


「だろ? 俺が作りたかったのは、特定の誰かが強い村じゃない。……誰もが、誰かのために強くなれる仕組みだ。……その歯車が、今ようやく噛み合ったのさ!」


カイゼルの陽気な笑い声が、夜の帳を明るく照らす。

農民だった者たちが、戦える民へと変貌を遂げた一日。

それは、この村が「守られる対象」から「自らを守る主体」へと、決定的に進化した瞬間でもあった。


「さあ、明日は今日より一歩、防衛線を広げるぜ! 未来は、俺たちの計算通りに踊ってるからな!」


止まらない物語は、新しく結成された「村人防衛隊」という名の盾を手に、さらなる光り輝く明日へと加速し続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ