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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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148/150

148:日常回帰 スローライフ復活。

朝露が葉を滑り落ちる。


柔らかな光が畑に差し込み、湿った土を優しく照らしていた。


鍬の音が響く。


一定のリズムで、止まらない。


「よし、今日もいい感じだな」


農夫が土を見て笑う。


その隣では、若い娘が種を蒔いている。


「これ、本当に育つんですか?」


「育つさ。水も風も、ちゃんと回ってる」


娘は頷く。


理由は分からない。


だが、信じている。


この村なら大丈夫だと。


少し離れた場所。


水路を水が流れる。


透明で、途切れない流れ。


魔道具によって制御された水は、必要な場所へ必要な分だけ供給される。


その流れを見て、カイゼルは立ち止まる。


手は出さない。


触れない。


ただ見る。


(問題なし)


それだけ確認して、歩き出す。


パン屋の前を通る。


香ばしい匂いが漂う。


「カイゼルさん!焼きたてですよ!」


「後で寄る」


軽く手を上げて返す。


パン屋の主人は満足そうに笑う。


売れるからではない。


回っているからだ。


通りを抜けると、広場に出る。


子供たちが走り回っている。


木の棒を剣に見立てて、叫ぶ。


「守れー!」


「撃てー!」


誰かが真似をする。


「弾種切り替え!」


笑い声が広がる。


それを見ていたエルダが、少しだけ眉を動かす。


「遊びにするな」


子供たちは一瞬固まる。


だが次の瞬間。


「はい!」


元気よく返事をする。


エルダはそれ以上言わない。


視線を戻す。


民兵たちの訓練。


無駄な動きはない。


距離を取り、役割を維持する。


前に出すぎない。


引く判断も早い。


(いい)


それだけ思う。


レイナが荷を確認している。


荷車の上には、木箱が積まれている。


「これ、分散してる?」


「はい、三ルートに分けてます」


「よし」


即答。


迷いなし。


「一つ潰れても、止まらないように」


「分かってます」


短い会話。


だが、十分。


レイナは次の荷へ向かう。


止まらない。


それが仕事だ。


マリナは商人と話している。


視線は鋭い。


だが、声は柔らかい。


「その価格では、長く続かないわ」


商人が困った顔をする。


「ですが……」


「短く儲けたいならいいわよ」


「でも、この村でそれはやらせない」


笑う。


だが、圧がある。


商人は頷く。


「……分かりました」


交渉成立。


マリナは軽く肩をすくめる。


「素直で助かるわね」


そのまま次へ。


止まらない。


リナは診療所にいる。


扉は開け放たれている。


「はい、次の人」


軽やかな声。


中には老人が座っている。


「無理しすぎですよ」


「まだ動ける」


「それがダメなんです」


少しだけ厳しい。


だが、優しい。


「今日は休んでください」


「……分かった」


老人は素直に頷く。


リナは微笑む。


「無理しないのも仕事ですから」


その言葉が、自然に受け入れられている。


カイゼルはそれを見て、足を止める。


(いい流れだ)


誰も無理をしていない。


誰も止まっていない。


ちょうどいい。


広場の端。


簡易の屋台が出ている。


料理人が鍋を振る。


湯気が立ち上る。


肉と野菜の匂いが混ざる。


「今日のおすすめは?」


「煮込みだ。新しい野菜入れてる」


「じゃあそれ」


人が並ぶ。


だが、焦りはない。


待つ余裕がある。


それが、この村の変化だった。


カイゼルは少し離れて座る。


木のベンチ。


視線は全体に向ける。


だが、誰も彼を気にしない。


それがいい。


しばらくすると、エルダが来る。


隣に立つ。


「問題ない」


報告。


短く。


「ああ」


「戦える」


「でも、戦わない」


「それでいい」


エルダは頷く。


それ以上言わない。


レイナも来る。


「流れ、完璧よ」


「止まりそうなところは?」


「ない」


即答。


「いいな」


「でしょ?」


軽く笑う。


マリナも合流する。


「利益も出てるわ」


「でも無理はしてない」


「当然よ」


当然のように言う。


リナも最後に来る。


「みんな元気です」


「それが一番だ」


四人が揃う。


だが、中心ではない。


ただ、同じ場所にいるだけだ。


しばらく沈黙。


風が吹く。


子供の笑い声が聞こえる。


鍬の音。


荷車の軋み。


人の声。


生活の音。


カイゼルは目を閉じる。


(戻った)


いや。


(違うな)


戻ったんじゃない。


進んだ。


前に。


この日常は、偶然じゃない。


作られたものだ。


だが今は――


自分たちで維持している。


それが違いだ。


エルダが言う。


「平和だな」


珍しく。


カイゼルは目を開ける。


「戦わなくていいからな」


レイナが笑う。


「最高じゃない」


マリナも頷く。


「退屈じゃないのがいいわね」


リナが小さく言う。


「幸せです」


その一言が、全てだった。


カイゼルは立ち上がる。


「パン、買ってくる」


「あ、私も」


「私も行く」


「並ぶのは任せて」


四人が歩き出す。


誰も急がない。


だが、止まらない。


村は回っている。


自然に。


無理なく。


そして――


明るく幸せな日常が、そこにあった。


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