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戦わずに全部潰したら、誰も戦わなくていい村になった  作者: 慈架太子


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145/150

145:気づき 村が“主体”になる。

朝。


霧がゆっくりと晴れていく。


畑の土は湿り、朝露が葉に残っている。


村は、もう目を覚ましていた。


鍬を振る音。


薪を割る音。


水を汲む音。


すべてが重なり、ひとつの“生活”を作っている。


カイゼルは、その中を歩いていた。


何も言わず。


何も指示せず。


ただ、見る。


畑では、若い農夫が指示を出していた。


「そっち、水多すぎる!昨日の分で足りる!」


「了解!」


カイゼルは足を止める。


(……判断が早い)


鑑定するまでもない。


見れば分かる。


回っている。


次。


鍛冶場。


火花が散る。


「この型、前よりいいな」


「だろ?魔石の固定が安定してる」


「じゃあ次は量産だ」


誰も迷わない。


誰も止まらない。


仕組みが“共有”されている。


カイゼルは何も言わず、通り過ぎる。


広場。


レイナが人を動かしている。


「荷は三つに分けて」


「片方が潰れても回るように」


「了解!」


「あと、戻り便で薬草拾ってきて」


「わかった!」


軽い口調。


だが、指示は正確。


流れが止まらない。


マリナが横で帳簿を見ている。


「利益は伸びてるわね」


「当然。止まってないもの」


レイナが笑う。


「止めないのが仕事でしょ?」


マリナも笑う。


「ええ、その通り」


対照的な二人。


だが、噛み合っている。


カイゼルは、その光景を見て――何も言わない。


言う必要がない。


診療所。


リナが患者を診ている。


「熱は下がってる」


「でも無理はダメ」


「三日は安静ね」


「はい……」


ヒールバレットが光る。


優しい光。


安心する空気。


「次の人ー」


リナの声は明るい。


忙しい。


だが、余裕がある。


医療も――回っている。


外。


訓練場。


エルダが立っている。


「構えが遅い」


「もう一度」


短い言葉。


だが、正確。


民兵が動く。


揃う。


乱れない。


「いい」


一言。


それだけで、全員の空気が締まる。


エルダは気づく。


カイゼルが見ていることに。


「何だ」


「いや」


カイゼルは首を振る。


「いいなと思ってな」


「当たり前だ」


エルダは言う。


「やるべきことをやってるだけだ」


カイゼルは笑う。


「そうだな」


沈黙。


だが、不自然ではない。


エルダが言う。


「前は違った」


「……ああ」


「お前がいないと回らなかった」


カイゼルは少し考える。


「今は違う」


エルダが続ける。


「いなくても回る」


「それが正しい」


カイゼルは頷く。


「そうだな」


エルダは一歩前に出る。


「だが」


振り返る。


「必要ないわけじゃない」


カイゼルは目を細める。


「どういう意味だ」


エルダは少しだけ言葉を選ぶ。


珍しく。


「……軸だ」


短く言う。


「方向を決める」


「止めない」


「それが、お前だ」


カイゼルは何も言わない。


ただ、受け取る。


広場に戻る。


昼。


料理の匂いが広がる。


「今日は肉多めよー!」


料理人の声。


子どもたちが集まる。


笑う。


走る。


誰も不安そうな顔をしていない。


それが答えだ。


カイゼルは腰を下ろす。


木陰。


パンをかじる。


肉を食う。


普通の食事。


だが。


普通が成立していることが、異常だ。


「どう?」


マリナが隣に座る。


「何がだ」


「村」


カイゼルは少し考える。


「完成してるな」


マリナは笑う。


「まだよ」


「伸びるわ」


カイゼルも笑う。


「そうだな」


レイナが横から入ってくる。


「もう次のルート考えてるんだけど」


「早いな」


「止めないのが仕事だから」


軽い。


だが、確実。


リナも来る。


「薬草足りなくなる前に動くね」


「頼む」


「うん」


エルダは少し離れて座る。


だが、耳は向いている。


会話を聞いている。


「……いいな」


カイゼルが言う。


誰にでもなく。


マリナが答える。


「何が?」


「主体だ」


短く。


「村が動いてる」


「人が動いてる」


「俺じゃない」


沈黙。


だが。


否定はない。


レイナが言う。


「最初からそうよ」


「アンタが勘違いしてただけ」


カイゼルは笑う。


「そうかもな」


マリナが言う。


「でも、最初に動かしたのはあなたよ」


「だから今がある」


カイゼルは首を振る。


「違う」


「続いたのは、こいつらだ」


周りを見る。


人。


動き。


流れ。


「俺は最初に回しただけだ」


リナが笑う。


「それが一番難しいんだよ」


エルダが言う。


「止めなかったのも、お前だ」


カイゼルは空を見る。


青い。


広い。


「……気づいた」


ぽつり。


「何に?」


マリナが聞く。


カイゼルはゆっくり言う。


「村は、俺のものじゃない」


「俺が守るものでもない」


「ここにいる全員が――主体だ」


風が吹く。


畑が揺れる。


子どもが笑う。


生活が流れる。


「それでいい」


カイゼルは立ち上がる。


「それがいい」


誰も止めない。


誰も指示を求めない。


だが。


誰も迷っていない。


村は、動いている。


自分で。


自分たちで。


カイゼルは歩き出す。


その中へ。


指揮者ではなく。


支配者でもなく。


ただの一人として。


だが。


軸として。


止めない者として。


この村は――もう、誰かに守られる場所じゃない。


自分たちで動く場所だ。


それが。


本当の意味での“再建”だった。


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