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『餓死寸前の最弱アバターからのサバイバル料理 ~現実世界での完全栄養食に絶望したので、VRゲームで失われた「本物の味」を再現して夢の食堂を開きます!~』  作者: ゆっきー
第1章:「泥水と残飯のフルコース」

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第7話:「命がけの交渉と、最強の常連客」

挿絵(By みてみん) 


ジューーーーーッという脂の爆ぜる音が、雨音をかき消す。

 廃屋に充満した極上の匂いに、最強プレイヤーであるエドの動きは完全に硬直していた。


「……っ、が……」


 喉が鳴り、大剣を握る手が微かに震えている。

 システムが与える無機質な『空腹ダメージ』の警告ではない。本物の食欲が、男の理性を焼き切ろうとしていた。


 レナはその隙を見逃さなかった。

 彼女は怯えることなく、熱された石板の上に、素早く血抜きをして串打ちしておいた野犬のハツ(心臓)を並べた。

 新鮮な内臓肉が熱に触れ、表面が弾ける。そこに、先ほど焼いたモモ肉から滴り落ちた極上の肉汁を纏わせる。


「食べる?」


 レナは串を一本持ち上げ、エドの顔の前に突き出した。


「……なんだ、それは」


 エドの声はひどく掠れていた。殺意はすでに霧散し、その双眸はただ一点、肉の串焼きに釘付けになっている。


「ハツの串焼き。システム任せのアイテムじゃない、私が血抜きして焼いた本物の料理」


 レナは一切の怯えを見せずに言い放つ。


「私を殺せば、このお肉は手に入る。でも、それはただの生肉のドロップアイテムに戻るだけ。あなたを苦しめているその『飢え』を満たせるのは、この世界で私だけだよ」


 ハッタリではない。レナの異常な料理知識と執念がなければ、このVRMMOの仕様上、極上の味は引き出せない。

 エドは数秒の沈黙の後、舌打ちと共に大剣を石畳に突き立てた。


「……よこせ」


 ひったくるように串を奪い取り、エドは熱々のハツに食らいついた。


「――ッ!?」


 その瞬間、男の巨体が雷に打たれたように跳ねた。

 表面の香ばしい焼き目、サクッとした歯切れの良い食感。そして噛み締めた途端に溢れ出す、濃厚で生臭さの一切ない鉄分と旨味の奔流。

 味覚シミュレーターがもたらす未知の快感に、最強のプレイヤーは言葉を失い、ただ無我夢中で串を貪った。


【システム警告:対象プレイヤーに規格外のバフが付与されました】

【HP・MP完全回復、全ステータス+50%(48時間継続)、状態異常完全無効】


 エドの視界にも、信じられない異常数値のログが流れているはずだ。

 だが、彼はステータスの回復よりも、口の中に残る「美味かった」という圧倒的な余韻に呆然としていた。


「……信じられん。お前、ただの初期レベルのアバターだろう。なぜ、こんなものを……」


「もっと美味しいものが食べたい?」


 レナは残りの串を大事そうに抱え込みながら、悪魔のように微笑んだ。


「私は、最高の料理人になれる。でも、今の私じゃ食材を集められないし、他のプレイヤーに襲われたら一溜まりもないの」


 彼女の目は、エドを恐ろしい強者としてではなく、便利な「調達係パトロン」として完全に捉えていた。


「契約しよう。あなたが私を守って、最高の食材を狩ってくるなら……私はあなたに、一生味わったことのない最高のご飯を作ってあげる」


 エドは口元を乱暴に拭い、深く息を吐き出した。

 この瞬間、スラムの裏路地で泥水をすすっていた最弱の少女は、レベル計測不能のトッププレイヤーを「最初の常連客」として手懐けることに成功したのだ。


第1章 完

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