第33話:「庭に生えた祠(ほこら)と、お米を欲する狐の神様」
「……あれ? 昨日はこんなの、なかったよね?」
拡張されたログハウスの裏手。
新しくできた『家庭菜園エリア』の真ん中に、ポツンと古びた「小さな祠」が建っていた。
「なんだこれは。気味が悪いな。叩き壊しておくか?」
「待ってエド! バチが当たったらどうするの!?」
巨剣を構えるエドを慌てて止め、レナは祠の前にしゃがみ込んだ。
なんとなく、懐かしくて温かい気配がする。レナは厨房から持ってきた『ハニースフレパンケーキ』の余りを、そっと祠の前にお供えした。
「神様かどうか分かりませんが……これからこのお店をよろしくお願いします」
パンパン、と手を合わせる。
その瞬間だった。
ボンッ!!
コミカルな爆発音と共に、白い煙が上がり、祠の中から「一人の少女」が飛び出してきた。
「くんくん……! よい匂いじゃ! この甘く香ばしい匂い、妾を呼んでおるな!?」
「えっ……!?」
煙が晴れると、そこには着物をアレンジしたような巫女服を着た、銀髪の少女が立っていた。
そしてその頭には、ピコピコと動く大きな「狐の耳」が。お尻には、フサフサの「狐の尻尾」が生えている。
「あ、あなたは……?」
「ふふん、よくぞ聞いた! 妾こそは、この豊穣の大地を統べる五穀の神! 偉大なる『ウカノミタマ』じゃ!! ……して、その供物は食べてよいのか?」
自称・神様の少女は、威厳たっぷりに名乗った直後、ヨダレを垂らしてパンケーキを指差した。
「あ、はい。どうぞ……」
「うむ! くるしゅうない!」
ウカはパンケーキに飛びつくと、リスのように頬を膨らませてハフハフと平らげた。
「はふぅ……美味じゃ。このフワフワした食感、濃厚な蜜の味……人間にしては見事な手際よのう」
一瞬で完食し、満足げに腹をさするウカ。
しかし、彼女はふと眉をひそめ、不満げに鼻を鳴らした。
「だが……惜しいのう。実に惜しい」
「えっ? 何がですか?」
「甘味も肉も良いが、これでは『主食』としての力が足りぬ。妾の加護を受けるにふさわしい、あの白くて輝く『銀シャリ』がないではないか!」
「銀シャリ……? もしかして、お米のこと?」
レナが首を傾げる。
ウカは狐耳をピンと立て、身を乗り出した。
「いかにも! 『米』じゃ! この世界のどこかにあるはずの、最強の穀物じゃ! あれがなくば、焼き肉も焼き魚も画竜点睛を欠くというもの!」
「お米……食べてみたい……!」
レナの目にも火がついた。
パンもいいけれど、やっぱり日本人のDNA(記憶)が、炊きたての白いご飯を求めている。
「よし決めた! 娘よ、名はなんという?」
「レナです」
「うむ、レナよ。妾が直々にクエストを授けよう。この森のさらに東、『湿地帯エリア』に眠る『幻の稲穂』を見つけ出し、この菜園で育てるのじゃ! そうすれば、毎日たらふく米が食える……いや、お主の店を五穀豊穣の聖地として祝福してやろう!」
【ユニーククエスト発生:『ウカノミタマの憂鬱』】
【目的:湿地帯エリアで『神の稲穂』を入手し、菜園で米を収穫せよ】
【報酬:新メニュー『白米』の解禁。守護神『ウカ』の正式加入】
「お米の栽培……! やります! 私、白いご飯でおにぎり作りたい!」
「おにぎり……! なんという甘美な響きじゃ……!」
こうして、拡張された食堂の新しい住人(ペット?)として、狐耳の神様ウカが加わった。
彼女の食欲を満たすため、そして念願の「和食」を作るため。レナたちは次なる食材、お米探しの旅へと向かうことになった。




