第17話:「暴力的なミックスグリルと、開店祝いの宴」
真新しいログハウスの厨房で、凄まじい音と匂いが爆発していた。
ジュワァァァァァァッ!!
レナが熱した巨大な石板(エドが切り出した玄武岩の特製プレート)の上に、分厚く切り分けた『暴れ牛』の赤身肉を叩きつける。
見事なサシの入った肉が超高温で一気に焼き上げられ、濃厚な牛脂が焦げる暴力的な匂いが、カウンター席で待機する面々の鼻腔を容赦なく蹂躙した。
「おおおおっ! なんだあの分厚い肉は! 見ているだけで私のレベルが上がりそうだぞ!」
「騒ぐなセリア。レナは今、隣で『森の怪鳥』の肉も焼いている。あの皮が弾ける音を聞け」
最強プレイヤー二人が、カウンターに身を乗り出してヨダレを垂らしている。
エドの言う通り、レナは牛のステーキの横で、コカトリスの巨大なモモ肉を皮目から香ばしく焼き上げていた。ミレが提供してくれた香草(ガーリックに似たハーブ)をたっぷりと擦り込み、滲み出た鶏油で表面を揚げ焼きのようにカリカリに仕上げていく。
「ミレ、お皿の準備お願い! みんなよく食べるから、一番大きい木のプレートね!」
「は、はいっ! わぁ……すごい熱気と、すっごくいい匂い……!」
ミレがカウンター越しに並べた大皿に、レナが次々と焼き上がった肉を乗せていく。
表面はカリッと、中はレアに仕上げたタウロスの極厚ステーキ。
噛めば肉汁が弾け飛ぶ、コカトリスの香草グリル。
その二つの主役の横に、肉の旨味を吸わせた森のキノコと野草のソテーをたっぷりと添える。
「お待たせ! 夢の食堂、オープン記念の『特製ミックスグリル』だよ!」
ドンッ、とカウンターに大皿が置かれた瞬間、歓声が上がった。
「いただくぞおおおおっ!!」
「……いただきます」
セリアがタウロスのステーキをフォークごと噛み砕かんばかりの勢いで口に運び、エドも無言でコカトリスの肉に食らいつく。
「――ッ!! 柔らかいっ! なんだこのタウロスの肉は! 噛まなくても口の中で解けていくぞ!!」
セリアが目を見開き、感極まったように叫んだ。
タウロスの肉は本来、筋張って硬いハズレ食材だ。しかし、レナが事前に叩いて繊維を断ち切り、絶妙な火加減で焼き上げたことで、極上のステーキへと変貌していたのだ。
「……こっちのコカトリスもすさまじいな。皮はサクサクなのに、中の肉汁で溺れそうだ。香草の風味が肉の臭みを完全に消している」
いつもは仏頂面のエドも、口の周りを脂まみれにしながら恍惚と笑っている。
ミレは小さく切り分けたお肉を頬張り、「おいひい、おいひいれすぅ……っ」とまたしても泣きながら食べていた。パピーも専用のお皿に顔を突っ込み、夢中で尻尾を振っている。
【料理名:『タウロスとコカトリスの極上ミックスグリル』】
【効果:HP・スタミナ完全回復。状態:『極上の満腹』『至福』を付与】
システムログに踊るチートじみた数値はない。
あるのはただ、「最高に美味いものを食べて、お腹と心が満たされた」という、当たり前で、けれどこのVR世界(そしてレナのいた現実世界)の何よりも尊いバフだけだった。
「ふふっ。いっぱいあるから、おかわりしてね」
レナはカウンターの内側から、ガツガツと肉を貪る騒がしい常連客たちを見渡した。
温かいランタンの光と、木の匂い。そして、笑顔で料理を食べる仲間たち。
味覚を失った現実世界で、飢えと孤独に震えていた最弱の少女が作り上げた『夢の食堂』は、今夜、最高の形で産声を上げた。




