表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『餓死寸前の最弱アバターからのサバイバル料理 ~現実世界での完全栄養食に絶望したので、VRゲームで失われた「本物の味」を再現して夢の食堂を開きます!~』  作者: ゆっきー
第2章:「最強の護衛と、夢の食堂の予定地」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/18

第9話:「規格外の整地作業と、森の極上スープ」

 スラムの淀んだ空気が嘘のように、そこには清浄な空気が満ちていた。

 鬱蒼と茂る巨大な樹木、足元を彩る名もなき花々。どこからか、サラサラと澄んだ水の流れる音が聞こえてくる。


 レナは大きく深呼吸をした。


「……綺麗な空気。ここなら、食材に嫌な匂いが移らない」


「で、どうするんだ。俺は腹が減っているんだが」


 エドが不機嫌そうに大剣を肩に担ぎながら急かす。

 彼にとって森の美しさなどどうでもいい。ただ、レナが約束した「美味い飯」だけが目当てだった。


 レナは周囲を見渡し、少し開けた平坦な場所を指差した。


「あの辺りに拠点のベースを作りたいの。でも、邪魔な木や岩が多くて」


「退かせばいいんだな?」


 言うが早いか、エドは黒い外套を翻して跳躍した。

 空中で大剣が横薙ぎに一閃される。凄まじい衝撃波が森を駆け抜け、レナが指差した区画にあった巨木や大岩が、まるで紙屑のように吹き飛んで消滅した。

 一瞬にして、数十メートル四方の完璧な「更地」が完成する。


「……やりすぎ。木材は後で建築に使うんだから、綺麗に切り倒してよ」


「ちっ、注文の多いやつだ」


 トッププレイヤーによる規格外の整地作業にダメ出しをしつつ、レナは水音のする方へ歩き出した。

 透き通るような清流。現実世界では絶対に触れることのできない、天然の冷たい湧き水だ。

 彼女は先ほどエドに持たせていた『野犬のドロップ肉』を取り出し、欠けたナイフで素早く一口大に切り分けていく。


「エド、火を起こして。それと、そこの木の根元に生えてる先の尖った葉っぱを、むしれるだけむしってきて」


「俺は小間使いじゃないぞ……!」


 文句を言いながらも、エドは言われた通りの葉っぱを山のように抱えて戻ってきた。

 それは、現実世界でいうところの「野生のネギ」や「ニンニク」に近い、強烈な香味成分を持った植物だった。


 即席で組んだ石の竈に、清流の水をたっぷり張った鉄鍋(エドのインベントリから提供させたもの)を乗せる。

 沸騰したお湯に野犬の肉を放り込み、アクを丁寧に取り除きながら、ちぎった香味葉を大量に投入した。


 グツグツと煮込むこと数十分。

 森の清浄な空気に、抗いがたいほどに濃厚な「獣肉と香味野菜のスープ」の匂いが溶け出していく。


「……おい、まだか」


 エドが焚き火のそばで、大剣を握りしめながら涎を垂らしている。その目は完全に、餌を待つ大型犬のそれだった。


「はい、お待たせ。野犬肉の香味煮込みスープだよ」


 レナが木彫りの器にスープを注ぎ、手渡す。

 エドはひったくるように器を受け取ると、火傷も気にせず、熱々のスープを一気に胃袋へ流し込んだ。


「――ッ!!」


 男の目が見開かれる。

 スラムで食べたハツの串焼きが「強烈な旨味の暴力」だとするなら、このスープは「圧倒的な調和」だった。

 野犬特有の臭みは香味葉によって完全に消し去られ、むしろ食欲をそそる風味へと変化している。噛めばホロリと崩れるほど煮込まれた肉からは、濃厚な脂の甘みが溢れ出し、清流の水がそれをスッキリとまとめ上げている。


「美味い……ッ、なんだこれは、美味すぎる……!」


 レベル計測不能の死神が、涙目になりながら木彫りの器の底を舐め回している。

 その頭上には、またしても【HP・MP完全回復】【全ステータス+50%】という、ゲームバランスを崩壊させるバフのログが踊っていた。


「……ふふっ」


 エドの食べっぷりを見て、レナは満足げに微笑んだ。

 そして、エドが切り拓いた広大な更地を振り返り、力強く宣言する。


「決めた。ここに、私の『食堂』を建てる」


 味覚を失った現実から来た少女の、壮大な夢の第一歩が、豊かな森の中で確かに刻まれた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ