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32.パレード⑧


「リリアン! 本当に、本当に素晴らしかったぞ!!」

「お父様、ありがとうございます」


 屋敷に帰ったリリアンは、まだパレード用のドレスを着ていた。大抵アルベルトの興奮が収まらずにいるせいなのだが、リリアンとしても綺麗なドレスは好きだし、特別な衣装はできるだけ着ていたい。だから長く着るのはまったく悪いものではなかった。ただ父親が常に称賛を浴びせるのは、いつもながら少し恥ずかしかったが。


「リリー、とても綺麗だったよ」

「お兄様も、ありがとうございます。お兄様もとっても素敵でしたわよ?」

「リリーの側に居るには、きちんとした格好でないといけないから」

「まあ」


 アルベルトが褒める合間に、レイナードも同じく言葉を投げ掛けてくる。

 パレードにしっかり間に合ったレイナードも、ぴしっと糊の効いた衣装を着ていた。リリアンやアルベルトと比べると地味な印象のあるが、それは二人と居るからであって、単品で見ればそれなりに目立つ存在だった。

 アルベルトと揃った意匠の騎士服は凛々しい兄の印象にぴったりで、リリアンは実に誇らしい気持ちになる。兄は騎士ではないが、心持ちというか在り方は完全に騎士のそれなのだ。その兄を表現しているようで、とても好ましい。

 嬉しそうな兄の姿に、ついリリアンも釣られて微笑みを浮かべた。

 それに、今年は家族以外にもリリアンを褒め称えるものがあった。ヘレナとクラベル、それと三人の親友達だ。

 親友達と過ごした時間は長くないが、しっかりと想いを伝えてくれた。熱意の高い言葉の数々から、慕ってくれている三人に普段のお返しができたようだと、リリアンは喜んだ。

 そうしてそれはヘレナとクラベルともで、二人ともアルベルトに負けず劣らずの勢いで捲し立てる。


「リリアンお姉様、ほんとうに、本当に素晴らしかったの。こんな言葉でしか表現できないのが悔しいくらい、すっごく!」

「ヘレナ様の言う通りよ、リリアン。やはり毎年素晴らしさが更新されているわ。今年のリリアンも、一等綺麗で」

「ヘレナ様、クラベルお義姉様にも、褒めて頂けて嬉しいわ。パレードは楽しんで頂けたかしら?」

「それはもう! シャロン様達も、とっても褒めていたわ!」


 目を輝かせるヘレナは興奮気味に語る。友人達の姿を思い浮かべると、見事にヘレナの様子と重なった。

 リリアンは思わずくすりと笑ってしまったのだが、それにアルベルトが息を呑んだのが分かった。


「う、ぐ……! り、リリアン、そ、そんな自然な笑いは、今は危険だ……! くそ、胸の高鳴りが治らん……!」

「まあ。お父様、大丈夫? 深呼吸なさったらどう?」

「女神の如きリリアンに案じて貰えるとは……! ああ駄目だ、ますます意識が」


 アルベルトはこめかみの辺りに手を当て、くらりと体勢を傾けさせる。苦悶しているような態度だが、その反面、表情はにやついていて締まりがない。実際、テンションが上がりきっているので、感情だけでなく魔力の方も溢れていた。屋敷の中では当然、パレードの時のように打ち上げて放つわけにもいかない。溢れ出たアルベルトの魔力は、当然のように周囲に輝きをもたらす。

 つまり、アルベルトが光源のようになって光っていたのである。なかなかの光量で、ちょっと眩しい。


「アルベルト、光を抑えて頂戴。リリアンの愛らしい顔が見えないわ」


 そう言ったのは屋敷に戻ったフリージアだ。眩しくてアルベルトから目を逸らしていたレイナード達はそのままそちらを向く。すると、後ろからの光がちょっと弱くなった気がした。

 扉から連れ立って歩くのはフリージア、そしてゴットフリートだ。その後ろでドラセナが「うわっ眩しい!」と両手で顔を覆っていた。

 ゴットフリートは間近まで来ると両手を開き、破顔する。


「おお、リリアン。光がちょっと眩しいが、やはり一等別嬪だのう! こうでなければ、一年が始まった気がせんわい」

「まあ、お祖父様ったら」


 くすりとリリアンが笑うとまた光が強くなった。そちらを見る気が完全に無くなるレイナードである。

 しばらく歓談していると、扉の方が騒がしくなった。リリアンが気にする素振りを見せたのでベンジャミンを向かわせると、賓客の到着を告げられる。

 そうして顔を出したのはリリアンの伯父夫妻——グレンリヒトとシエラだ。

 二人は挨拶もそこそこにリリアンへ祝いの言葉を述べる。


「リリアン、おめでとう」

「ありがとうございます、グレンリヒト様」

「とっても綺麗よ。素敵なドレスね、よく見せてちょうだいな」

「はい、シエラ様」


 リリアンはにこやかに応じていて、二人としてもそちらに注目したかったが、とても目立つ存在が真後ろにいるものだから気が散って仕方ない。できるだけ視界に入れないようにしていても主張してくるので、気もそぞろになってしまう。


「どうだ! 綺麗だろう!!」

「ああ、綺麗綺麗。すごくとっても。それよりも眩しいぞアルベルト。もっと弱めろ、落ち着け。リリアンだって、これでは困るだろうが」


 そのうちに語りかけて来たので適当にあしらうグレンリヒトだった。

 直後、また扉が開く。


「父上母上、荷物と俺を置いていかないでくれよ、まったく」


 後から部屋に入ってきたのはマクスウェルで、彼は両手に荷物を抱えていた。綺麗な包装はどう見ても贈り物だ、シルヴィアとレイナードとが受け取ると、マクスウェルは襟を直す。


「ようレイ、お前には言いたい事がいくつかあるが、リリアンの前だ、後にしといてやる」

「そうか。リリーの美しさには言葉もないか。そうだろうな」

「……いや、そうじゃないけど。大丈夫かお前? っていうかなんでこんなに眩しいんだよ、この部屋」


 言いながらマクスウェルは視線を巡らせたが、すぐに光源を見付けたらしい。ぎょっとしたかと思ったら、納得した風で視線を逸らしていた。

 マクスウェルのそうした言動は王太子らしさに欠ける。が、親しみがあるので、リリアンはつい笑みを深めてしまう。マクスウェルはリリアンにとって、もう一人の兄のような存在なのだ。最も年長だからか、年下の面倒を良く見る彼は、リリアンにも優しかった。なんだかんだ言ってもレイナードにも寛容なのだ、そういう所は本当に尊敬できる。


「マクスウェル様。わざわざのお越し、痛み入ります」

「いや、今年も駆け付けられて良かった。誕生日おめでとう」

「ありがとうございます」


 そうしてリリアンが首を傾けると、動きに合わせてドレスや髪が揺れる。それだけで、ほぅ、といくつもの吐息が溢れて重なった。

 マクスウェルは一瞬、呆れたような顔をしたが、気を取り直してまた「おめでとう」と口にする。


「お祝いの品はちゃんと選んだが、リリアンはなんでも持ってるからな。毎年苦心するよ。まあ、適当に使ってくれ」

「そんな。大事にさせて頂きますね」

「そうは言ってもなあ。ヴァーミリオン家で造ったものの方が、絶対に良い物だし」

「当然だろう! リリアンに半端なものを持たせられるか。こんなに美しく素晴らしいんだ、持ち物も同じでなければおかしいだろう!」

「だろう、じゃなくって……いやまあうん、そうかも」


 割り込んできたアルベルトの熱量は凄まじく、対するマクスウェルはどうでもいいと言いたげだ。その様子がグレンリヒトにそっくりで、リリアンの口角を上げさせる。

 それでまたアルベルトがぬぐぅと唸り、リリアンを褒め称える。その繰り返しだ。

 たった数分でマクスウェルはお腹がいっぱいになる思いだったが、彼以外の者の感動は深く、普段は態度に出さないようにしているベンジャミンとシルヴィアも、さすがに反応していた。


「今日ばかりはアルベルト様に同意せざるを得ませんな」

「リリアン様の素晴らしさの前には仕方のないことです……」


 まあ、彼らのそんな反応も今更だ。細かい事は気にしない性質なので、それっきりマクスウェルは触れない事にした。

 リリアンを中心とする室内は実に賑やかだ。主にアルベルトとヘレナがだったが、そこに祖父母とレイナード、クラベルが混ざると拍車がかかる。マクスウェルと両親は輪の外ではあるが、退室は許されないのでひたすらそれを眺めている。

 この後は晩餐会なので、それまでずっとこんな感じだ。慣れたものなのでマクスウェルはお茶を出して貰う。

 この時はドラセナが準備をしてくれていた。この家令もリリアンに心酔しているものの、はまり方が他と少し違う。ただ美しさを称えるのではなく、功績なんかに重きを置く。だからこれだけ機嫌が良さそうなのは、パレードが大成功で終わったからだろう。


「パレードは評判だったみたいじゃないか」

「ええ。無事に終わって本当に良かった……と言いたいところですが、これから忙しくなりそうです」

「今年も例年通りか?」

「いえ殿下、例年以上です。あれだけの美しさを見せつけられたとあっては、無理もありませんが」


 そう言う二人の前では、いつの間にかリリアンのドレスが色を変えていた。アルベルトが石を使い、オーロラを出していたのだ。

 それを見て、マクスウェルは単純に関心してしまった。確かにその変化はこれまで見た事がない効果で、リリアンにとても良く似合っていて美しい。あれほどのドレスでなく、似たようなものを求めてもおかしくなさそうだ。


「量産できそうなものでもなさそうだけどなぁ」

「仰る通りで……。ですが、今後はアズール家との連携がスムーズになりそうです。セレスト嬢のお陰ですね」

「セレスト嬢? ああ、なるほどな」


 弟の婚約者の名前が出た事に驚いたが、そう言えばその弟の救出時に約束を交わしていたのを思い出す。

 それでか、と納得していると、リリアンがこちらを振り返った。


「ドラセナ、布と糸をたっぷり用意してちょうだい。セレスト様にお礼がしたいの。こんなに素敵なドレスを作って頂いたのだもの」

「リリアン様のお望みの通りに」


 お願いね、と言うリリアンは嬉しそうだった。そういう時のリリアンは周囲の雰囲気を引き上げるのだ。

 アルベルトがまた湧き立ち、がたりと前のめりになる。


「リリアン、ドレスを考案した私には、何かないのか!?」

「まあ。わたくしが隣にいて、お父様はこれ以上を望まれるのですか?」

「……! り、リリアン……!!」


 途端、アルベルトは目を見開く。


「そ、そうだった。間近でリリアンを感じられる、成長を見られるという奇跡と幸福、それを忘れるとは……! 目の前の利益にそれを忘れるとは、なんて浅はかな。お父様を赦してくれリリアン……!」


 何か反省しているようだが、それが全部声に出ている。

 優しいリリアンはそれを指摘したりしなかった。マクスウェルもそれには触れない。代わりに言いたいことがあるからだ。


「めっちゃ手玉に取られてるじゃん」

「しっ。だめよマクス、気付かせては。あれでいて貰わないと」

「母上、そうは言っても」


 どうにも気になる事象である。が、父親も黙って首を横に振るから、それもそうかも、とマクスウェルは考えを改める。

 アルベルトがリリアンに注視している限りは平和なのだ、ならこれは放っておくべきだと施政者の勘が囁く。

 国王一家の意見は完全に一致し、結果、思っている事が全部口に出るアルベルトが出来上がる。

 さすがのヘレナもそれには触れられず、クラベルは見て見ぬ振りをし、レイナードはリリアンしか見ていないというか、父親の事は無視している。ゴットフリートとフリージアはさすがは年の功、息子は完全に視界に入れていない。

 今年もまったく、例年通りだ。マクスウェルは半目でそれを確認した。



 その夜、リリアンを中心とした晩餐会には実に豪華な食事が並ぶ。ヘレナが居るからか、トゥイリアース王国の料理が多かったが、そこはさすがヴァーミリオン家、洗練されたものばかりだ。

 それに舌鼓を打ちながらもリリアンを称える言葉は止まらず、賑やかに、和やかに時間は過ぎていった。


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