096 晴れのち再会、ところによって湯気
「……変なにおいがするぞ?」
駅に到着するなり、クドがそう言って鼻を抓む。
何のことだろう?
と、思ったが、すぐにその正体に気が付く。
駅を降りてすぐ、温泉街が目の前に現れた。温泉街は結構栄えていて、賑やかな温泉宿が軒を連ね、仄かな硫黄の匂いと生暖かな湯気が立っていた。
恐らくクドが変な匂いといったモノの正体はこの硫黄独特の香りのことだろう。
確かに初めて硫黄の匂いを嗅いだ時には変な匂いと思ったこともあるが、それにしてもすごい嗅覚だ。ここは温泉街の一角ではあるが、温泉街の入り口付近である。そのため、硫黄の香りはよく注意を凝らさないとあまり気にならない。
「硫黄の匂いだよ。なんていうか……温泉の匂いって言えばいいのかな?」
「温泉の?」
「そそ。でも……よく分かったね。この匂いってば、まだ仄かにしか香らないのに。鼻がいいんだね」
「う~ん?」
言葉の意味がよく分からないみたいにしてクドは首を傾げた。
改めて温泉街に目をやる。
気持ちのいい晴れ。
軒先から青い空が広がっている。
観光地なだけあって客の姿は多い。
ゆったりとした浴衣を着た湯治目的の客や泊りがけでこの地を訪れた宿泊客がのんびりと土産物屋や温泉街ならではの食べ物屋などを闊歩していた。
「えっと……」
駅に置いてあったパンフレットを開く。
パンフレットは無料にしては分厚く、軽く三〇ページ近くはある。ぱらぱらと捲っていくと目当ての温泉宿のページを発見した。
どうやらその温泉宿はここからバスに乗らねばならないようで。
僕は辺りをきょろきょろと見回すと駅の近くでバス停を目視。
「あれか。クド。こっち。バスに乗らないといけないみたい」
僕が声をかけるとクドが後ろについてきた。
さながらその光景は兄と妹がちょっとした小旅行に出かけているみたいで傍から見ると結構微笑ましかったりする。
と、そこへ。
ブロロロロロ~。
ちょうどバスがやってきた。
乗降口からバスに乗り込んでみると、その中には乗客の数が少ない。
「ん?」
少し気になる。
バスの中から外を見た。
バスの外。つまりは駅前近くの温泉街。
外には人の数が多いのに、バスの中は場末感が漂っているようにして乗客の姿があまり見受けられなかったのだ。
首を捻る。
「……なんだろう?」
少し違和感を覚えた。
だが、その違和感の正体が何なのかを確かめるよりも先に、
「お~。これも走るのか!」
と、クドが嬉しそうにしながら窓の外に向かって手を振ったりしている無邪気な姿を見て、些細な疑問は霧散する。
どーでもいいや。
と、砕けて言ってしまえばそう思った。
ほどなくして。
バスはエンジンを掛けなおして、僕とクドを乗せて大きく揺れ動き、出発。




