097 晴れのち再会、ところによって湯気
バスに揺られること一五分。僕とクドの二人は目的地へと到着した。
共にバスから降りたクドは目を瞑り、鼻をくんくんとさせた。
「う~……やっぱり変なにおい」
どうやらクドはこの匂いが苦手なようだ。
「じきに慣れるよ」
バス停からはなだらかな坂道が続いていて、そこには土産物屋もある。澄み切った青い空と新緑が眩い木々。その間を埋めるようにして温泉地特有の硫黄の香りの湯気がいくつも立ち上っている。右手に視線を転じると、その先には湖が見え、貸しボート屋なるものが湖の吊り橋の先に見えた。温泉だけではなく、避暑地としても活用出来そうな場所だった。湖の近くには真新しいホテルの屋根が見え、幾軒かのホテルが並んでいた。
だが僕たちの目的地はホテルではなく温泉宿だ。
その温泉宿はこの坂道の先にある。
「さ、行くよー」
と、声をかけてから坂道を進んでいく。
その道中。
坂道の途中にある土産物屋で働いているおばちゃんが声をかけてきた。
それも。
どこか心配そうな顔で。
「おや? あんたたち。どこへ行くんだい?」
本当に心配そうな顔だった。
僕は、不思議ながら、
「えっと……この先にある温泉宿です」
と、答えた。
すると、
「この先って……もしかして『霧屋』かい?」
「あ。はい」
そう頷くと、
「は~変わった子たちだね~」
と、ひどく驚いたような顔をした。
「あそこの旅館はあまり女の子を連れていくような場所じゃないよ。悪いこと言わないから行かない方がいいと私は思うけど」
割と真剣な表情でそう言うおばちゃん。
(はて?)
この人は一体何を言っているんだろう。
おばちゃんの言っている意味がよく分からなかった。
はーっと大きくため息を吐いた後、やれやれと首を横に振る。
「さっきもね、おばちゃん。一人でその温泉宿に行こうとしている女の子のことを引き留めたもんだよ。あそこは温泉の設備は最高。料理も美味しい。サービスも充実。パンフレットにも書かれるぐらいだしね。でも、やっぱり女の子を連れていくのはあんまり関心しないね~」
「はぁ」
つい生返事をしてしまう。
おばちゃんは土産物屋の温泉饅頭を物欲しそうにつんつんとしているクドを見やって、
「ま~子供だし、大丈夫なのか?」
と、何かを納得したように、または。何かを諦めたかのように坂道の先を指差した。
「『霧屋』はこのまま坂を上っていけばすぐだよ」
打って変わって親切に道を教えてくれたが、僕は未だ困っていた。
何というか。
反応に。
「あ、あの……」
おばちゃんの真意を問いただそうかと思ったら、おばちゃんは別のお客さんに呼ばれて、
「はーい! ……じゃあ、まあ。その子、妹なんだろう? ちゃ~んと守ってあげなよ。混浴もあるからそこに入るとかさ」
と、爆弾発言をしたのち、去っていった。
僕は顔を真っ赤にしていて。
クドは、
「???」
きょとんとしていた。
困惑。
そして。
その時に気が付けばよかったのだ……。
とても。
とても、大事なことに……。




