079 狐と神狼、相まみえる
栗栖梨紅。
月城高校一年B組に在籍する生徒の中でも極めて優秀な。トップクラスで成績が優秀で素行も悪くなく、生徒のみならず、教師からの評判もすこぶるよい。恐らく月城高校創立以来の優良物件である。
彼女は恋をしている。
相手は同じ学校のクラスメイトであり、幼き頃に結婚の約束をして別れを一度経験し、もう一度出逢うことに成功した相手、今日は病欠で欠席している久遠かなたその人。
好き。
とにかく彼のことが好きで、好きで、好きでたまらない。
彼のためならばなんでもやる。そのぐらいの意気込みで彼が好き。
一途。
偏に。ひたすら。ともかく。
大好き。
彼のことはなんでも知りたいと思うし、自分のことを彼にすべて知ってほしいとも思う。だからこそ自分がクルースニクであることも話したし、クドラクとの関係性も全て吐露した。
普通なら引いてしまうような内容も彼はそれを受け入れ、共に宿命と戦ってくれると誓ってくれた。その言葉がすごく嬉しくて、ますます彼女の中で彼の存在が大きくなっていったのもまた、事実。
しかし。
そんな彼女には一つの悩みがあった。
それは。
彼が自分のことをいつまで経っても名前で呼んでくれないというものであった。
自分はもう彼のことを“かーくん”と昔の呼び方で自然に呼べるようになった。そのことをクラスメイトに聞かれた時は彼と幼なじみだということで周りも納得してくれた。優しい人たちだと梨紅は思った。普通ならからかいそうなものなのに。そういう意味では自分の周りの人間はいい人が多いと思う。
と、話を戻そう。
どうすれば彼は自分のことを名前で呼んでくれるのだろう?
いっぱい考えた。
朝も、昼も、夜も、寝る前も。
以前にも増して彼のことを考えるようになった。
だからこそ。だからこそだと思うが。
ものすごく気になっていた。
今日、彼は風邪で病欠。
彼の両親はすごくいい人たちであることはすでに知っているのだが、両親は共に喫茶店を経営していてそこで働いている。
つまり。
今、家に彼は床に臥せたままなのではないのか?
恐らくクドラクという少女が傍にいるかもしれないが。
ど~う考えでもあの子供が十分に彼の世話を出来るとは思えない。ついこの間まで身繕い一つしてこなった彼女がいきなり病人のお世話なんか出来るわけがない!
そう思うと。
居てもたって居られない!
思い込むともう誰にも彼女は止められない。
そもそも。
誰もかも、彼女が暴走するとは思いもしなかったのだ。
恋する少女は。
この日。
暴走した……!




