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ヴァンプライフ!  作者: ししとう
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053 かなた、狐と遭遇す

 夜道。

 僕は酔い潰れた栗栖さんを背負って街灯と月の灯りだけを頼りに歩いていた。なんだかこんなこと、前にもあったような気がする。

 少し思い出し笑い。

 クドラクとクルースニク。

 正直、僕には分からない世界だ。

 背負ったまま栗栖さんの横顔を見る。

「むにゃ……」

 幸せそうだ。

 この顔だけ見ればこの子が辛い宿命を背負っているなんて思えない。むしろ少し可愛いだけの普通の女の子にしか見えない。

「よ、っと」

 少しバランスが崩れて背負い直す。そしてまた歩く。

 一応家には向かってはいるけど、ぶっちゃけ、

(早く起きないかな~)

 と、思っている。

 このまま眠り続けると僕の家に栗栖さんを泊めるハメになる。別に泊めること自体は問題ない。父さんと母さんの性格上、何の疑問も抱くことなく栗栖さんを我が家に迎え入れるだろう。

 問題は。

 むしろ明日の教室である。

 僕たちは同時に授業を抜け出し、そのまま帰ってこなかった。何か噂が立ちそうなフラグではある。しかも酒を呑んで、こうやって酔い潰れた栗栖さんを背負っている。

 とにかく祈るしかない。

 クラスの誰か、もしくは学校の関係者に出逢わないことを。

 それにしても……。

 歩きながら空を眺める。

 月明りだけが妙に明るい。

(好き……か……)

 酔った勢いとテンションでつい漏らしてしまったのだろうが、正直困る。

 あ、勘違いしないでもらいたいが。僕は決してセラさんの望むような性癖ではない。ノーマル。女の子が好き。

 ちろりと栗栖さんの横顔を見やる。

(可愛いよなぁ……この子)

 この子(ヽヽヽ)

 あえて、この子と呼ぶ。

 栗栖さんごめんね……。

 と、心の中で謝る。

 僕……正直、覚えてないんだよね。キミのこと。

 唯一覚えているのが『りっちゃん』という名前と『炎』。この二つだけ。

 思い出そうとはしているんだけど……何かもやがかかったみたいに、思い出すことが上手く出来ない。

 それに……。

 告白されて嬉しかったのは本当。

 僕なんかみたいに取柄が何一つない僕のことを好きだと言ってくれて本当に嬉しかった。小躍りしたくなるぐらいには嬉しかったよ。

 けど。

 僕はそこで顔を暗くする。


 僕は誰かの想いに(ヽヽヽヽヽヽヽヽ)応える訳には(ヽヽヽヽヽヽ)いかないんだ(ヽヽヽヽヽヽ)……。


 どうしてかは自分でもよく分からない。

 でも、なぜかそう思う。心の底から。

 恋。

 明確に言えば恋。

 僕はそういうものにうつつを抜かす資格がないと本気で思っている。

 なんでだろう?

 答えは出てこない。

 恋愛アンチという訳ではない。むしろ誰かが恋をしたならば全力で応援するぐらいには恋が好きだ。健全な男子高校生並みの色気話は結構好きだ。

 だけど、それが自分に置き換えられると途端にノーになる。

 不思議だけど、本当に不可解だけど。

 よく分からない……。

 ごめんね……。

 と、もう一度眠っている女の子に謝ってから歩くスピードを元の速さに戻す。

 ま、このことはとりあえず頭の隅にでも置いておこう。今は自分が置かれている立場について考えてみることにしようかな。

 クドも、栗栖さんも。

 強いよな~。

 ひとまずの感想としては開口一番でこれが出てくる。

 とにかく凄まじいほどの実力の持ち主だ。

 魔力だの。霊力だの。

 氷と炎。

 僕は栗栖さんを背負ったまま左手を前にかざしてみる。

「か、かなたブリザード……」

 今度は少し小さめの声でそう言ってから、ふん、と力む。

 しーん……。

 やっぱり僕の手のひらからは何も出ない。

 誰もいなくてよかった。ものすごく恥ずかしい……。死にたい。

 左手をこっそりと元の位置に戻して、歩く。

 僕には何の力もない。

 あまりにも弱い。

 二人に比べて、はっきりと釣り合わないと思うほど。

 強い。

 何もないところから氷や炎を生み出す力。そういった力を目の当たりにすると自分の弱さが分かってしまって歯がゆい。

 力になるとは思っても力がなければ、果たして力になれるのだろうか。

「は~」

 大きなため息。

 と。

「え」

 何かの違和感を感じて、足元を見た。

 すると。


 不思議なことに僕の足を何かの生物が噛んでいた。


 がぶっと。

「いってえええええええええ――――!?」

 凄まじい絶叫をあげる。足をぶんぶんとやってようやくその生き物が足から離れた。

 初め、野犬か何かかと思った。目を凝らしてよく見る。

 その生き物と目が逢う。

 そして、

「わん!」

 と、狐が吠えた。

「き、キツネ!?」

 驚きの声をあげる。言葉の通り、僕の足を噛んでいたのは目の前でちょこんとおすわりをしている絵本みたいなきつね色の体毛の狐だった。

 狐はふんと人を小馬鹿にしているみたいに鼻を鳴らす。

「な、なんでキツネがこんなとこに?」

 周りを見る。

 今、自分がいる場所は住宅街の一角であり、山から下りてきた狐が迷い込んでいるという可能性は低そうだ。となると、どこかの家で飼っている狐という可能性。だが、周りにはこの狐を探しに来たような飼い主らしき姿は見えない。

「ほんと……どっから来たんだろ、こいつ」

 目を点にして、その狐を見る。

 再び狐は、

「わん!」

 と鳴く。

 僕は頭を掻いて、どうしたものかを考えた。だけど、答えはそう簡単には出なかった。

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