030 クドラクとクルースニクと許嫁と
あっという間に教室の中は静まり返った。
栗栖梨紅という優等生がもう授業が始まる直前だというのに、教室から走り去ったからだ。
当然どうしてだ、ってなる。
「うっ」
周りの視線は当たり前のように直前まで何やら話をしていた僕に向く。
「いや、僕は何もしてないよ!」
慌てて弁明。
しかし周りは耳を傾けることなくひそひそと囁く。
“泣かせた”
その言葉を皮切りに、
“マジかよ、久遠さいてーだな”
とか、何か色々言われる。
すぐさま否定。
「だから僕は何もしてないんだって!」
ってか、そもそも泣いてないし。
………………………………………………………………たぶん。
どうして栗栖さんが出て行ったのかっていうと。
クドの姿を見た栗栖さんが急に出て行ったのだから、僕がどーのこーの言われても困る。
え。
なんで?
何で栗栖さんはクドの姿を見て、教室を出て行ったの?
ってか、そもそもどうして栗栖さんはクドの姿が見えているの?
確か今のクドは常人には見えないはずなのに。
だからこその誤解なのだ。
周りのクズでも見るかのような目は。全てが見えていないからこそなのに。
「……」
視線が僕に集中する中、一人のクラスメイトが一歩前に出た。
「……」
前に出てきたにも関わらず、そのクラスメイトは多くは語らない。
ただ。
ただ、行けと思わせるような視線で栗栖さんが飛び出ていった教室の扉を見る。
「……」
僕はじっと動けなかった。
視線は相も変わらず痛い。
一応、念のため座ろうと思って椅子を引いてみた。
「……」
クラスメイトに椅子を足で止められた。
またもや語らず。
無言のプレッシャーは教室内を支配し始める。
「いや……だから」
その時、教室の扉が開いて全員がそちらを見た。
入ってきたのは数学の担当教師だった。
「はい、そろそろ授業が始まりますよー」
この教室にいる全員が新喜劇みたいにこけた。
「え? なになに、どうしたの?」
数学の教師は訳も分からずに教室内を見回す。
みんながそれぞれの席に戻る中、前に出たクラスメイトがぽんぽんと肩を叩く。
「は~……もう、分かった。分かったよ」
頭をがしがし掻いた。それから数学の教師に向かって、
「すいません、ちょっとトイレ行ってきます!」
そう言ってから教室を飛び出していった。
背後から、
「トイレは休み時間に済ませておきなさい!」
という教師の言葉が聞こえてきた。




