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第九十六話:王女リベリア

 テントの中で俺達は車座になり食事を取る。俺の横にはロイ、逆にはアリアが座っており、対面側にロゼッタ、アデリシア、リベリアさんという並びだ。

 中央には火に掛けられた鍋があり、俺達はロイとアリアが購入してきてくれた食材で味噌煮込みのような物を作り皆で突いている。


「アデリシア。体の調子はどうだい?」


 俺は器によそった煮込みを食べながら、正面に座るアデリシアの体を気遣う。日が落ちかなり気温が下がったので皆厚着をしているが、アデリシアは特に沢山着込んでいるように見える。まるで体の線を見せないようにするように……。


「ええ。お蔭さまで。病み上がりに暴れた所為もあって少し無駄な体力を消耗してしまいましたが、それ以外は概ね良好ですわ」


「そうか。それはいかんな。何があったか知らないが、調子の悪い時は安静にしておきなさい」


 俺はしれっとした顔でそう言う。


「本当にそうですわね。私とした事が失敗でしたわ。ああいう時は暴れず静かに後ろから刺しておくべきでしたわ」


 ウフフと笑うアデリシアだったが、目が全く笑っていない。

 やばい。まだ怒りが収まっていないように見える。ここは話を変えた方が良さそうだ。


「ところでロイにアリア。お使いご苦労様。何か変わった事とかは無かったかい?」


 俺は冷や汗を流しながら話題を変える。ロイは俺とアデリシアの様子を不思議そうな顔で眺めていたが、すぐに大体の事情を察したのだろう。即座に俺の話題変換に乗ってくれた。


「そうですねぇ……。買い物自体は問題無く済みましたね。変わった事と言えば……、そうだ。街で四人組の盗賊の事で注意されましたね」


「盗賊?」


「ええ。なんでもベルゼムからエルドリアにかけての街道で猛威を振るっている盗賊がいるそうです。一人は凄腕の魔法使いで、残りの三人はこれも凄腕の剣士らしいのですが、隊商や旅人を手当たり次第襲っているそうで、見つけたら街の警備隊に連絡して欲しいと頼まれました」


 盗賊か……。暗殺者だの盗賊だのどうにもきな臭い話が続くな。


゛これはあくまで我の推論じゃが。お主、生きる為に犯罪に手を染めていたのではないか?゛


 ふと以前の温泉でシェルファニールが発した言葉が脳裏を過ぎる。

 盗賊……。山賊……。もしかしたら俺も過去にそうやって多くの人を……。


 俺はぶんぶんと首を振ってその妄想を頭から追い出す。 

 その様子を見ていた皆が不思議そうな表情をするが、俺は気にせず話を続ける事にする。


「そうか。他に何か変わった事は無かったか? 変な視線を感じたとか、つけられた感じがしたとか……」


 俺の質問にロイもアリアも首を振ってそんな事は特に感じなかったと言って来る。

 流石に気の回し過ぎか? この世界には原始的な情報伝達方法しかないのだからいくら訓練された連中とは言え、的確にこちらを捉える事は難しいだろう。

 そう考えると、危険度はかなり減るな。多少の変装である程度敵の目をごまかせるかもしれない。

 俺はそう考えながら、視線をリベリアさんに向ける。

 彼女も自分の順番が来ると思っていたのか、俺と目が合うとコクリと頷いた。


「ではリベリアさん。貴方の話を聞かせてもらえますか?」


 俺の問いにリベリアさんは手に持っていた器を下に置くと、一呼吸して心を落ち着けている。 

 他の皆も興味があったのだろう。視線がリベリアさんに集中する。


「改めまして。私の名はリベリア・ドルギア・オルコットと申します。危険を顧みず命を助けて頂き本当に有難うございました」


 リベリアさんが深々と頭を下げてお礼を言う。


「……ドルギアって……」


 ロゼッタが驚いた表情で呟く。見るとロイやアデリシアも少し驚いた顔をしているのだが?


「……知っているのか?」


 そんな三人に俺は問いかける。三人の表情を見るに何らかの有名人なのだろうが、正直嫌な予感がしてならない。


「皆様のご想像の通り、私はドルギア帝国の王女です」


 リベリアさん、いやリベリア王女はそう言って薄らと笑みを見せる。その笑みが少し悲しそうに見えるのは気のせいではないだろう。一国の王女が僅かな護衛で砂漠に入り暗殺者に狙われる……。どう考えても厄介事のレベルがかなり高い。


「あー……、リベリア王女。なーんとなく想像がついてしまったのだが、何故そのような高貴な方がこんな目に遭っているのですか?」 


 俺の質問の仕方が気に入ったのか、リベリア王女の笑みから悲しさが消え少し楽しげな表情になる。


「リベリアで構いませんよ。なーんとなくのご想像通りと思いますが、私は帝位継承の条件で試練を与えられてここにやってきました。そして私の帝位継承を快く思わない者が暗殺を企てているのです」


 うーむ。最悪の想像が当たったか。

 正直あまり関わり合いになりたくない案件だな……。


「……ですが、私の記憶では、ドルギア帝国には確か王子がお二人いらしたと思うのですが? 年齢、継承順位共にリベリアさんよりも上だったかと……? 寧ろ失礼ながら私は貴方の事自体を知りませんでした。いえ、王女がいる事は存じていましたが……、その……、表舞台には殆ど姿を見せた事が無かったですよね?」


 アデリシアは若干言い辛そうにしながら問いかける。

 関わり合いになりたくないレベルが更に上がりそうだな……。


「アデリシアさんの言う通り、本来なら二人の兄のどちらかが継ぐ予定でした。ですが……、二人は少し前に続けて命を落とし……」


「それって……」


「長兄は事故で、次兄は病死です……。表向きはですが……」


 まあ、明らかに他殺ですよねぇ……。


「それでリベリアが継ぐ事になったと?」


「はい。ですが、私は女である事と母の身分が低いという事を理由に帝位に付く事に相応しくないと反対され……」


 ドルギア帝国では慣例で強き者が王位にという物があるらしく、女性が帝位につくという事は前例が無いらしい。


 「そこで条件として出されたのが竜を自らの手で倒し、その証として竜玉を持ち帰ると言う物でした」


 「竜玉?」


 なんかまたファンタジーで良く聞くアイテム名が出て来たな……。


 「はい。それを持ち帰る為に私は幾人かの護衛を連れてここへ来たのです」


 「成程ねぇ。ところで、済まないが俺はあまり知識が無くてね。竜玉って具体的にはどんな物なんだ?」


 イメージでは何かこう、竜の手に持ってる光り輝く玉とかそんな感じなんだが、実際そんなもの持ってる竜なんかいるのか? 


 「ぐ、具体的にですか? ……えっと、その……」


 何故だろう。リベリアは少し顔を赤らめて言い難そうにしている。


「ああ。さっきも言ったけど、俺には知識が少なくてね。個人的な興味で申し訳ないが教えてくれないか?」


 俺の再度の質問にリベリアは顔を赤らめて俯くと、


 「その、えっと、竜の、一部で……」


 小さな声でブツブツと呟いている。

 

『主殿よ。竜玉とはお主が想像しておるような宝玉的な物ではないぞ? 端的に言えば竜の睾丸じゃよ』


「はぁ!? リベリアはキンタマ取りに来たって事か!?」


 べちゃ!


「あ、熱いぃぃぃぃぃ!!! な、何か。何かハンペン的な熱い何かが俺の顔にぃぃぃぃぃぃ!」


 俺の発言と同時に目の下辺りにめちゃくちゃ熱い何かが投げつけられる。あまりの熱さに俺は悲鳴を上げて顔面を押さえながら地面に転がるとそのまま右に左にと転げまわる。


「最低ですわ! 言葉巧みに卑猥な言葉を言わせようとして、それが失敗すると自身で卑猥な言葉を投げつけるとか……」


「先生……。女として今の行動は少しどうかと思う……」


 どうやらアデリシアが俺に鍋の中身を投げつけてきたようだ。その横ではロゼッタが白い目で俺の事を見ている。


『お主はデリカシーと言う物が無さ過ぎるぞ……』


「わ、悪かったよ。でもそんなつもりは無かったんだ。ちょっと驚いただけで……」


 俺は少し火傷をした顔を手で押さえながら不満を言う。


「これ……。水で冷やしたから使って」


 そんな俺にアリアが冷やしたタオルを渡してくれる。


「うぅ……。有難うアリア。君は優しいな……」


 アリアの優しい気遣いに思わず涙が出そうになる。


「……ファックしたい?」


 アリアが可愛く小首を傾げている。


「あー。もう何かそれも悪くないかな……。アリアは大きくなったらいい女になりそうだし……」


 べちゃ!


「ぎゃぁぁぁぁ。く、首ぃぃぃぃ。首の後ろに熱いチクワのような何かがぁぁぁぁぁ。せ、背中に入ってきたぁぁぁぁぁ!」

 

 今度は俺の首の後ろに熱い何かが投げつけられる。またも俺は悲鳴を上げながら地面を転げまわる。


「今度は幼い子供に欲情ですか。とんだケダモノですわね」


「ヴェールでは子供に手を出すのは犯罪」


 二人が蔑んだ目で俺を見ている。


「じょ、冗談に決まってるだろ……」


「冗談に聞こえませんでしたわ」


 ドキッ……。

 

 アデリシアの言葉に俺は少し焦りを覚える。何気に心が揺れ動いていた事に気づかれたか……。

 しかし、こちらの心が弱っている所にスルリと入り込んできたアリア。そしてお決まりのセリフと可愛らしい表情のギャップ。

 もし二人きりだったら、俺はきっと冥府魔道ロリコンに落ちていただろう。


 アリア……。恐ろしい子!


 取り敢えず俺は上着を脱ぐと、背中に入り込んだ異物を取り除く。顔と首裏と背中の火傷を冷やしたタオルで癒す。病み上がりのアデリシアに回復魔法を使わせる訳にもいかず、シェルファニールは、


『これを機会にお主はデリカシーと言う物を覚えるがよかろう』


 と言って癒してくれないので仕方ない。ちなみに背中の火傷にはロイがタオルを当ててくれている。当初はアリアが当てようとしてくれたのだが、アデリシアがまた鍋から食材を装備しだしたので止めてもらったのだ。


「済まないリベリア。少し話が飛んでしまったな。こんな恰好で申し訳ないが続きを聞かせてくれるか? その竜のキン……、いやその竜の言葉にするのは憚られる部位を持ち帰れば君は帝位に付けると言う事なのか?」


「そ、そう言う言い方もちょっと……」


 リベリアが少し不満げに言う。

 だが、俺にとって竜玉のイメージは美しい宝玉なのだ。タマキンを竜玉と呼ぶのは美学に反する。

 しかし、妖精の粉といい竜玉といいこの世界は俺のファンタジー幻想をトコトンぶち壊してくれるな……。


「言ってはなんだが、キンタ……。その部位にそれ程の価値があるのか? 王女がキン……、それを「取ったどー!」って国民に大声で胸を張って知らせる事が出来るのか? 竜を倒す事が最重要なら、もっと恰好良い部位の方がいいんじゃないか?」


「あの……。出来ればキンキン口ごもるのも止めて頂ければ……」


 相変わらず顔を赤らめているリベリア。


「ねえ、ロゼッタ。あれもワザとかしら。遠回しに辱めているのならお仕置きが必要よね?」


「もう鍋ごと行ってもいいかも」


 やばい。二人が俺の殺人計画を話している。


「済まない。悪気は無いし他意も無い。誤解しないでくれ。今後は竜玉と言わせてもらう。俺の美学とかもう関係ない。竜玉だ。そう言うから許してくれ」


 俺はリベリアを向きながらも、横の二人にそう伝える。二人は少しジト目を向けながらも、鍋に動いていた手は引っ込めてくれた。と言うか、マジで鍋を投げるつもりだったのか……。


「力を示すために竜を倒す事も目的ですが、竜玉も必要としているのです。実は私の父、皇帝アルフレッドが現在病に伏しています。竜玉はその治療薬の材料の一つなのです」


 成程。一石二鳥という事か。


「それと……。今回の試練を乗り越えても、恐らくまだ認められる事は無いでしょう。この後も様々な試練を言い渡される事になると思います。これはあくまで最初の試練なんです……」


「恐らくって……。いくつ試練があるかも解らないのか? それってどれだけ試練を越えても認められないって可能性もあるんじゃないか?」


 俺の疑問にリベリアは少し悲しげに微笑むとコクリと頷く。

 こいつはそれも解っていて尚、試練に挑んでいるのか……。

 

「ハッキリ言って負け戦だよな。そうまでして危険を冒す意味があるのか?」


「……意地……のようなものです。勝ち目のない事は解っています。ですが、何の抗いもせず負けたくは無かったのです」


 死を覚悟した顔だな……。家畜のように生きるのではなく、獅子のように戦って死ぬ事を選んだのか。


「で、リベリアが死ぬか帝位を諦めたら今回の黒幕が国を乗っ取ると?」


「はい。宰相オズワルド。その孫オズベルドが次期皇帝となります。ですが、私が生きている限りは如何に権力を握っていても不可能です。皇帝家遠縁の血を僅かに引いてはいますが直系の私がいる限り彼が帝位につくには私が妻となるか死ぬ以外にはありません。」


「つまり、リベリアがそれを拒み帝位を望む限りは相手も好きには出来ないと」


「はい。そう言う事です」


 リベリアが笑顔でそういう。

 言うなれば嫌がらせというレベルの抵抗だが、リベリアは命をかけてそれをやっている。死んだ騎士達も同じ覚悟だったのだろう。


「で、でも今の状況でリベリアさんが死んだら怪しいのは宰相って事になりますよね。それで帝位に就くとか出来るのですか?」


「ロイ。権力ってのはな、黒を白と言うのは難しいが、灰色なら白に出来るんだ。リベリアの兄さんの死因が事故や病気になっているように、証拠が無ければ……、いや証拠があっても僅かな物ならなかった事に出来ちまうんだよ」


 この勝負はすでに宰相の勝ちが決まっている出来レースだ。リベリアのやっている事は、その勝負が始まらないように時間を稼いでいるだけに過ぎないのだ。


 さてと。取り敢えず状況は理解出来た。

 端的に言えば、勝ち目のないお家騒動。俺達のような下々の者には関係の無い雲の上の話だ。

 だが、関わってしまった以上このままにする訳にもいかない。

 それはリベリアの為では無く、俺達自身の安全の為だ。

 仮に今リベリアを見捨てて別れても、リベリアが殺された時点で口封じの為に狙われる危険性が付き纏う。僅かな芽を摘んでおこうと考える可能性は結構高い気がする。

 

 では如何すればいいか? 


 一番確実なのは宰相を倒してしまう事だが、話を聞く限り真っ当な方法では勝てないだろう。ならば、第二の方法としては、リベリアの竜玉探しを無事に終わらせてしまう事では無いだろうか? そうすれば、宰相側も今回の暗殺騒動に一区切りを入れる事が出来るから、その後にワザワザ俺達を狙う事も無いだろう。口を封じる必要が無くなれば、俺達のような小物を相手にする必要は無くなるのだから。


『なんじゃ。お主この娘には冷たいのじゃな。てっきり宰相を倒して王座を手に入れる手伝いをするとか言い出すかと思ったのじゃが?』

 

「さすがにそこまで無謀じゃないさ。リベリアの事を気の毒には思うんだけど、正直権力が絡んだ話には関わり合いになりたくないんだよ」


 俺だけならまだ良い。シェルファニールがいる限り余程の事が無ければ危険は無いのだから。だが、他の連中の事を考えると……。


「本当に申し訳ありません。命を救って頂いた上に、このような事に巻き込んでしまって……」


 俺の表情から思考を察したのか、リベリアが深々と頭を下げて謝ってくる。リベリアは王女でありながらも、腰は低く物腰も柔らかい。何より常識を良く弁えており、世間知らずのバカでは無い。

 

 国では相当苦労してきたのだろうな……。


 俺はリベリアをジッと見ながらそんな事を考える。


「まあ、それに関しては気にしないでくれ。今更の話だしな。それより今後の事なんだが……。リベリアが王女だろうが、帝国の権力争いがどうなろうが俺達には関係が無い。だけど、だからと言ってこのまま君とはいさようなら。って言う訳にも行かない。君がこの先の道中で暗殺されれば、俺達もその暗殺の事情を知る人間として狙われる可能性が出て来るからだ。俺達自身の身を守る意味でも、リベリアには竜玉を手に入れて国に無事戻って貰わないと困る。」


「そうですわね。私もその方が良いと思いますわ」


「それに僕達も竜の牙を手に入れる為にここまで来たんですから、リベリアさんの用事もついでに行けば良いんですしね」


「皆さん……。有難うございます……」


「ただし! いくつか条件がある」


「条件ですか?」


 俺の言葉に疑問の声を出すリベリア。そしてその言葉を聞いて、何故か鍋に手を掛けようとするアデリシア。


「……何故鍋を装備する?」


「……深い意味はありませんわ。ただ女性の弱みに付け込んで変な事を要求するような下種が現れるかも知れませんので念の為……」


 どうやら、リベリアの暗殺問題以前に、アデリシアの俺に対する信頼度をマイナスからプラスへ持って行く方が急務のようだ。


「別に変な事を要求するつもりは無いから……。まず一つ目は、悪いが俺達の目的を優先させてもらう。それが終わってから君を国まで送り届ける。これをまず理解してもらいたい」


「魔法武器の作成を優先させるという事ですの?」


「それは後回しでもいいのでは?」


 俺の要求にアデリシアとロゼッタが疑問する。


「いいや。まずはこちらから行く。戦力強化の意味で武装は欲しいし、行動を複雑化する事で相手の予測を外したい。ドルギアへ帰る道には待ち伏せが多いかも知れないからな」


「でもそうすればリベリアさんと行動する時間も増えますから、襲われる危険性は増えるのでは?」


「ああ。だから要求その二だ」


 俺の言葉にまた鍋を装備しようとするアデリシア。


「だぁぁっ。エロい事じゃねぇよ。まったく……。あー、リベリア。済まないがその服を脱いで欲しいんだ……って、まてアデリシア! 違う、エロい意味じゃない! 鍋を持ち上げるな!」


「着替えろという事?」


 俺とアデリシアの攻防が続く中、ロゼッタが俺の意図を察してくれる。


「そ、そうだロゼッタ。服はアデリシアかロゼッタが貸してやってくれ。あとその長い髪も切ってくれ。君の姿は敵に詳しく伝わっているだろうから、見た目を大きく変えて欲しいんだ。そうすれば少しでも敵の目を誤魔化せると思う。そう言う意味だ。だから鍋を下ろせ、アデリシア! 病み上がりで暴れるんじゃない!」


「ま、紛らわしい言い方をしないで頂きたいですわ……」


 鍋を下ろして荒い息をつきながらぼやくアデリシア。


「解りました。お二人が宜しければ」


「良ければ髪は私が切ってあげる。小さい子達の髪を良く切ってるからそれなりに手馴れているわ」


 アリアの提案にリベリアは宜しくお願いしますと頭を下げている。


「後、アリア。出来ればエルドリアへは行かずに直接ベルゼムに向かいたいんだが行けるか?」


「問題無い。ただ少し遠回りの道になるけど構わない?」


 アリアの返答に俺はそれで頼むとお願いする。

 街に寄ればそれだけ敵に見つかる可能性が上がる。ならベルゼムまでの道ぐらいは襲われる危険を減らしたい。ベルゼムに着いた後も変装で誤魔化せれば敵に気づかれず先に進めるかもしれない。この世界の情報伝達レベルなら案外バレないような気もする。


「皆さん。本当に有難うございます。これから宜しくお願いします。」


「まあ、ここで出会ったのも何かの縁だしな。こちらこそ宜しく頼むよ」


 俺の言葉にリベリアはとても良い笑顔を見せてくれたのだった。


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