勇者の講義
翌日、病院を退院した。当初かなりかかると思われた入院費は、パートナーの姫川さんのおかげでかなり安くなった。
というのも、この病院は、実は勇者やクエストの登録や管理を担当している『教会』が運営している。そして、Aランク勇者と認定されるほど『教会』、ひいては世界に貢献している勇者は入院費を九割負担してくれるわけだ。もちろん、その勇者のパートナーも対象内だ。これもあって姫川さんはパートナーを申し出てくれたのだろうか。いくら感謝してもしたりないくらいだ。
そして、姫川さんは退院祝いと称して俺をとあるカフェに連れてきていた。…ふむ、この街は初めてきたから右も左も分からないな。
「そういえば、如月さんは魔法をどのくらい習得していますか?」
姫川さんは実に的確にそれを尋ねてきた。
「…えーとね、魔法は…その…あんまり…」
「え?」
勇者という職業は、魔法と剣技をもって化け物と戦っていく職業である。大抵の新人勇者は、任命後勇者育成スクールに通うのだが、俺はどこか分からず迷っていたらお腹が減ったので、店で食べて飲んでいたら姫川さんと会ったのだ。
…まぁ、別の理由もあるんだけどね。
「だからね、魔法はからっきしなんだよね…」
チラッと姫川さんの顔を見ると…そんな馬鹿なという顔をしていた。…どういうことだよ?
因みに剣技の方には自信がある。とある人物と毎日のようにチャンバラをしていたからな。その相手がまた剣技に通じてる奴だからそいつに勝つために俺も独自の技を編み出し、それを磨いた。
しかし、奴との戦績は相も変わらず負け続きだった。あいつは今何をしてるんだろうか?
「…ま、まぁ習得するのは今からでも遅くはないですよ?」
「そうだよな。…姫川さん、パートナー解約するなら今だぞ」
スクールに通うと必然的に勇者の活動ができなくなる。それで姫川さんに迷惑をかけるからという提案と、心臓のための提案である。
「パートナー解約はしませんよ」
いきなりチェックメイトだよ。こう言われたら何も言えん。俺の方が立場低いからな。
「姫川さんがそう言うならいいけど、スクールに通うと勇者活動はできないんだよ?」
分かっているだろうが念のため言っておいた。すると姫川さんは
「し、仕方ありませんね。なら、私が魔法を教えましょう」
と言った。…え?
「こう見えて、私はスクール時代は常に主席でした!」
なんていうか、今更言われても驚かないな。流石美少女勇者。勇者の中でもホンモノと言われるだけはある。
「では、早速やりましょう!授業ではないですから実践に役に立たないことは切り捨てますよ!」
「は、はぁ。じゃあよろしくお願いします」
なんか、妙に張り切ってるんだけど、どうしよう。しかも押されてうんと言ってしまった…。
「もちろん、如月さんは魔法を使う元のマナについては知ってますよね?」
お、質問された。たぶん出題に近いのだろうが、質問に答えを返すというものが心地よいコミュニケーションだ。答えよう。
「たしか、大気中に存在していて昔の人間の機械とかが使えなくなった原因だったっけ?」
「正確には原因らしいです。ただ、人類はこの星ではどこでも魔法を使用できるので大気中にあるのではないかという考察と、地球とは違う物質がここでは混ざってるのではないかという仮説が立てられているだけで、まだ証明には至ってません」
へえ、まだ仮説の段階なのか。いきなり一つ学んだぜ。
「これ以上のことは図書館で学んでください。魔法の使用にはあまり関係ないので。ただ、大気中のマナを消費して私たちは魔法を使用しているくらいの認識は持っておいてくださいね」
「はーい」
「それで、魔法の種類は六つの属性に分けてあります。炎、水、風、土の四つに加えて闇、光の六種類です。この辺りは常識ですね?」
「うん、そうだね」
実際、日常的に魔法を使うならこのくらいの理解があればいい。夜に明かりを灯したり、水を沸騰させたりするのは簡単なことだからだ。しかし、勇者が使うような戦闘用の魔法は、一歩間違えれば自分や仲間に影響の及ぶものである…と聞いている。
それでですね、と姫川さんは続けた。おっと、聞かなければ。
「勇者や騎士の使うような戦闘用魔法は、一般には知られてないですが二属性魔法なんです」
「え?二属性魔法?」
聞いたことがないな。何せ俺も少し前というか、三日前までは、一般人だったからね。…という設定だからね。
「はい、そうです。もちろん単属性魔法もありますし、そちらの戦闘用魔法もあります。ただ、戦闘用魔法のほとんどは二属性魔法です」
…分からないけどわかった気がする俺だった。
「二属性魔法にはメリットがあります。やはりこれは戦闘用のものですから単属性魔法よりも威力があるということです。例えば雷ってありますよね」
「あぁ、あるな。それが?」
「雷は、辺りを照らす光と、熱を持っています。だから、こうやって炎属性と光属性を合わせると」
と言いつつ姫川さんは手を合わせた。俺が何をするつもりなのか考えていると、手を離した。すると
「このように雷が生まれます」
姫川さんの手の間にバチバチッと電気が走っていた。
「これは、威力が低めなので大して害はありませんが、威力を上げれば生き物を殺すことができます」
ごくり、と息を飲んだのか分かったのか姫川さんはにっこり笑い、
「大丈夫ですよ。これを扱える資質があるからあなたは勇者に選ばれたのです。ちゃんと練習して、ちゃんと習得したなら、害はありませんよ」
と言った。
一月四日更新!




