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<ガイア>列伝  作者: 樹実源峰
はじまりの物語
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『バースト』

「ぅ…うぅ…痛い…です」


目が覚めると全身が痛かった。なぜ痛いのか、何があったのか、はっきりと覚えていない。…ゆっくりと思い出してみることにすると


「!あ、如月君!」


そうだ、ドラゴンに襲われて彼を庇った私は気絶してしまったのだ。しかし、そこで生きてる事を自覚し不思議に思った。レッドドラゴンが目の前の生き物を放っておくことなんてあり得るだろうか?


霞む目を擦って前を見ると、ちゃんと働く私の目は目の前の光景を鮮明に映し出してくれた。


「え…嘘でしょ?」


しかし、私はこの状況で、いやこの状況だからこそ、我が目を疑った。その光景とは、如月海斗とレッドドラゴンが戦っていることだったのだから。



レッドドラゴンは人間から見るととてもとても大きいものだった。普通の人間なら見た瞬間に戦意を喪失するだろうが、ドラゴンの目の前の人間は理性のタカが吹っ飛んでいる人間だった。


『バースト』…使用者の強い想いを糧に一時的に恐れをなくし痛覚をなくし理性すらも消え果て、まさに狂戦士と化す魔法。その特徴は対象が死ぬか、自分が死ぬかによってしか止まる事はなく、さらに魔力防御力治癒力物理攻撃力などが向上する。


ただし、使う人間によれば動物のような形になるものもいるし、体の一部が変化するものもいるとても謎の多い魔法なのだ。


この時の如月海斗にはドラゴンなど恐るるに足らず、ただ殺すだけの存在になっていた。その姿はどこも変化していない人型のままだったが。


しかし、ドラゴンにとっても目の前の人間はただの敵、ただの餌であり恐れる必要もない。容赦無く、そしてレッドドラゴンの代名詞ともなる焔のブレスを放った。


それに対して海斗は右手をドラゴンの方向へ向け


「ぐるぁ」


とても人間とは思えないような声を出して手から水を放つ。ただ、水と言ってもその勢いと量は濁流のように強くそして多い。ドラゴンのブレスを簡単に掻き消してそのままドラゴンに叩きつける。直後、怒りの咆哮をドラゴンが上げたが海斗は気にせずにドラゴンに次は氷の矢を撃った。翼の膜が破れ鱗は剥がれ角は折れていった。


しかし、満身創痍となっても相手は獰猛の代名詞たるレッドドラゴン。渾身の力を振り絞って焔を吐いた。


その焔は海斗の体に降り注ぎまさに絶体絶命だと思いきや、あえて海斗は焔の中に身を躍らせた。しかし、彼に傷はない。燃えてもいない。よく見ると全身を水の膜が覆っていてそれが焔を防いでいた。


そして、海斗はドラゴンへ跳び腰の剣を抜き、顎から頭を突き刺した。


当然それはドラゴンにとっても致命傷で、その後当然のようにドラゴンは最期を迎えた。


そうして終わりを迎えた敵を一瞥もせずに、如月海斗は糸の切れた操り人形のようにドサリと倒れた。


これが、如月海斗の勇者初日の活動にして、姫川優香が観測できたすべてである。



「う…あぁ…」


全身の痛みで目が覚めた。因みに痛みの感じ方からしてその痛みは筋肉痛である。


「痛つつ…」


なんでこんな事になったのかを思い出せないがとりあえず周りを見ると、まずここが病院であることが分かった。


周りを見渡すと壁際にちょっとボロボロの服があった。もちろん腰に刺してた剣も一緒だった。その隣には果物の詰め合わせがあった。そして最後にベッドの隣の椅子で眠っている姫川さんを見つけた。…あれ?


もう一度見る、服と剣と果物と姫川さん…よし。


「これは夢だ!」


バシンッ!気合一閃!俺の両頬を両手で叩いてやったぜ!…あれ?


「くそっ、くそっ、くそっ!」


バシンッ!バシンッ!バシンッ!何回も叩いてみるが一向に現実に戻る気配はない。


「な、何してるんですか?」


声の方向を見るとなんか少し怯えた顔をした姫川さんがいた。どうやら起きたようだ。


「いや、夢から目を覚まそうと思って。姫川さんが横にいるなんて、現実味ないじゃないか」


また、バシンッ!バシンッ!とやる俺。


「いえ、これ現実ですけど…」


「そうやって俺を夢から覚まさないようにするんだな、俺の夢!だが、残念だな!俺は夢から覚めることができるんだよ!」


ハハハ…と笑う俺。その目尻には涙が浮かんでたかもしれない。


そして、そこから姫川さんの説得を受け正気を取り戻すまでたっぷり三十分かかった。



「はぁ、俺がそんなことを…」


俄かには信じられない。ドラゴンを、よりにもよってあのレッドドラゴンを殺したねぇ…。


「やっぱり、記憶にはないんですね?」


「あぁ、まったくその通り。まったく困ったものだ」


俺は肩を落としてみせる。まぁ、それはどうでもいいのだが。大事なのは二人とも死なずに済んだという事だ。結果オーライ。終わり良ければすべて良し。


「それで…ですね…あの…」


ん?なんだ?またパーティを組めって?いいよ?別に?ハハッ。自由に使ってくれよ…


心の中に諦め切った俺の声が響いた。…少し、少しだけ虚しくなってきた。


「今度は、定期パートナー契約を結んでください!!」


くそっ…なぜだ、なぜそこまで俺の心臓は高鳴る!いい加減諦めろよ、俺!


因みに定期パートナー契約というのは、一ヶ月なら一ヶ月、二ヶ月なら二ヶ月と決められた期間、契約した勇者二人は互いに互いのクエストを手伝ったりする義務がある反面、税金が二人で一人分だったりクエスト受注金が半分になるなどお得なことがたくさんあるのだ。


「いやいや、姫川さん待って。少し考えてみなよ?」


これは普通、夫婦勇者とかカップル勇者とかがやることであり、まったく恋愛感情のない(俺からは一方通行である)俺たちがやるのは不適切だろう。たしかに強い人と組むっていう理由ならカップルでなくともやってるが、これ俺が強ければの話である。


「へ?なんでですか?」


また首をかしげる姫川さん。それだけでこのヘタレ勇者の心臓は高鳴る。本格的に心臓に悪い。


「いや、これは男女ペアの場合カップルとかがよくやるやつだよ?」


そう言うと、姫川さんは顔を赤らめて


「え?そ、そう見えますか?」


と言って頬を染める姫川さん。もう本当にやめて!俺を心臓麻痺とかで殺したいの?!


「いや、多分見えないだろうけどさ…?」


そう言うと、なぜか不機嫌な顔をしていた。そしてそれも可愛いことだから俺の心臓にさらに負荷がかかる。


「それで、するんですか、しないんですか」

言葉の端々に棘が見えるちょっと不機嫌モード。そんな顔も(以下略)。


「いや、もちろん始めたばっかの俺にとっては願っても無いことだし、姫川さんは可愛いからさらにいいとしても、姫川さんには明らかにメリットないでしょ?」


そう言うと姫川さんは少し困った顔をした。…ほぅ、なかなかにいじりがいのある顔をするじゃないか。じゃないじゃない。


「いや、これからも男女ペアの勇者でクエストとかが…」


「その度にパーティ組めば良くない?」


「え、えーと如月さんは強いですし…」


「いや、姫川さんの方が強いよ。まあそれはそれとしても、俺より強い男なんて沢山いるだろ?」


「腕は確かな人なら沢山いますが、如月さんのような方はいらっしゃいません」


半ば涙目の姫川さんがそう言った。ついついいじり過ぎたが、はてさて俺は強い人より確かな個性があったのか。


「…まぁ、姫川さんがやりたいなら、こっちとしては断る理由はないか」


若干褒められた気がした俺は気を良くしてそう言った。瞬間姫川さんはパアアアっと花が咲いたような笑顔になった。俺の心臓耐久大会がスタートする。


「では、宜しくお願いします、如月さん」

心臓のこと考えるとやっぱりマイナスだったのかな、なんてことを考えてしまう俺だった。

※一月四日更新!

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