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せいとさんは、103のきょうしつへ

瑠奈さんの言った通り、翌日も快晴の空だった。

俺が起きた時間には、瑠奈さんやあぐりさんはすでに自分たちの仕事へと出かけている。

でも、もうそのことに焦ったり無力感を覚えたりすることはない。

すでに準備してくれている朝ごはんをありがたく完食した俺は、昼の弁当を凪にお願いした。

「かまわないけど……洋くん、どこに行くの?」

手早く昨日の昼に出てきたような大きなおにぎりをタッパーに詰め、手ぬぐいに包んでくれた凪に俺は得意げに答えた。

「自分にできることを、やってみる」


正面の三角屋根が特徴の、二階建て校舎。

希望を胸に訪れ、失意のうちに後にしたフリースクールのグラウンドに俺は立っている。

玄関から入ってすぐのホールに置かれた手書きの立て看板が懐かしく感じる。

俺は靴を脱いで、持ってきた上履きに履き替えると103教室へと向かった。


教室のロッカーには使われなくなった掃除用具がそのまま置いてあった。

廊下にある水汲み場でバケツに水を張り、雑巾を絞る。

まずは学習机からだ。うっすら埃をかぶった机の表面を雑巾で丁寧に拭いていく。

それが終わったら机を運んで教室の端に寄せ、ホウキで床の埃を掃いて中央に集めた。

埃っぽかった教室に、開け放した窓から入る潮風が混じり合う。

拭き終わり、まだ水分が残る机の表面が初夏の陽光を反射して、キラキラと輝いていた。


そんな感じで掃除をしていると、教室の廊下側の窓から声をかけられた。

「おーい、是澤の坊主か。何しとん?」

顔を上げると、あのとき103教室で待ちぼうけしていた俺に、声をかけてくれた初老の男性がそこにいた。

「あ、おはようございます」

「おはよう。フリースクール、再開するんか?」

「いや、分からないです」

男性は奇妙なものを見る顔で首をかしげている。まあ、気持ちは分かる。

「分からんのに一人で何しとんぞ」

「はは。たぶんまだ再開はされないと思うんですよね。だったら、俺のほかに誰か生徒が来たときのためにここをキレイにしとこうと思って」

「ほお」

「そうすれば、再開したときにキレイな校舎でみんな勉強ができるでしょ?」

男性はしばらく目を見開いていたが、やがてにっこりと笑った。

「ほうかほうか、そんで朝から掃除しとんか。よいよ、覇気のない坊主やなと思いよったがええ子じゃないか」

「そんなことないです、ただ……」

俺はグラウンド側の窓から見える晴れ上がった空を見上げる。

「ただ、自分にできることをしたいと思って」


凪は4人に増えた同居人の生活を守る。

あぐりさんは援農の仕事で地域を支える。

瑠奈さんは遠い空の向こうまで続くネットワークでインフラを維持する。

それぞれ自分にできることを、責任持って取り組んでいる。

忙しい彼女たちの手伝いをすることもできるが、それは俺ができることとは少し違うと感じた。

かつて地区の子供たちが通い、今は俺のような生徒が学ぶ予定の校舎。

若い子供の未来を育む場所として、昔も今も希望の象徴であるはずだ。

ここをいつでも使えるようにピカピカにして、いつか活気ある場になるまで温めておくのが俺の仕事だと考えたのだ。


「学校全部キレイにするなら何週間もかかるぞ」

「うん。でも時間はたっぷりありますし」

「ほうかほうか、よう言うた。よし、もっと掃除が捗る道具があるけん、場所を教えようわい」

「ほんとですか? 助かります」

上機嫌で手招きする初老の男性に甘えて、俺は廊下へと出た。


もう一人ぼっちで天井を眺めることはない。自分は無能だと卑下することもない。

俺が動けば世界は必ず応えてくれる。できることをやっていれば、ここでは誰かが助けてくれる。

空っぽの校舎に、俺の足音が軽やかに響いた。

かつて絶望して眺めた遥か彼方の水平線は、今どこまでも青く透き通り、俺を祝福するように輝いていた。

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