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第二話 縁 (2/3)

 目が合った。というよりかは、向こうの視線に合わせたのが私だった。

 取りあえず顔にも制服にも、脇に抱えているサッカーボールにも陰影があるし、身体に厚みがあって血色もいいから幽霊ではない。

 何より瞳が、自分を護るようなものでも、他人を否定するものでもなかった。


 ただ、スラックスとネクタイのデザインでわかる通り、その男の人は高等部の生徒のようだ。えっと、青地のネクタイって何年生だっけ?


 あからさまだと失礼かなと思ったから、私は窓にちょっとだけ背を向けて麦茶を飲んだ。すぐにここから離れるだろうしと、気にせずお弁当の包みを広げてみたものの、先輩はそこからなかなか去らなかった。

 圧迫感はないのだけれど、妙に意識させる存在感があって(つら)い。私は動物園にいる生き物の心理状態が、少しわかった気がした。


 何となく会釈をしてみた事がきっかけになったのか、先輩は私と同じように会釈を返すと駆け出して、図書館へと入って来た。


「やばー。涼しーな、ここ」


 先輩がそう言いながら胸元を扇ぐと、スクールシャツに付いた木漏れ日の模様が揺れる。

 私、サッカーボールを持って図書館に来る人なんて初めて見た。


「こんにちはっ、可愛い人っ。いつもここでお弁当食べてるの?」

「こ……こんにちは。食べるのは、今日が初めてです」

「そうなんだ。確かにここって飲食おっけーだし、校則にも禁止されてるわけでもないもんねっ」


 先輩は好奇心に満ちた笑みを浮かべながら、エントランスホールを見渡す。いいなぁいいなぁと繰り返す。


「あ、あの……?」

「あのさっ。俺もここで食べてみたいんだけど、いい?」


 言うと思ったけれど。私の許可なんて要らないのに、律儀な人なのだろうか。


「もちろん。私の専有スペースではないですから」

「やった……ありがと! じゃあ、ちょっとだけ待っててっ。すぐに戻ってくるから!」

「え?」


 先輩は固まる私に微笑み、颯爽と駆けていった。

 そんな先輩を見て、閉鎖的な図書館よりも、どこからも光や風を遮らない場所の方が似合うだろうなと思ったのだった。

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