第8話 侵入者
突然俺の頭の中に平穏を破るアラート音が響いた。
何かあったのか。
急いでユグドラシルを起動するとマップ上に「侵入者」と表示されている。
「侵入者!? このダンジョンに誰か入り込んだのか」
マップには南側の入口付近にこれまでになかった点が表示されている。
ラヴェンドラは以前人間が宝箱目当てにダンジョンを探索すると言っていたが、もしかしたら人間が入ってきたのだろうか。
「ラヴェンドラ、ちょっと来てくれるか」
ラヴェンドラは木霊との遊びを中断し、俺のもとに駆けつけてきた。
「どうかされましたか?」
「どうやら、このダンジョンに侵入者が現れたみたいだ。すまないが一緒に確認に行ってもらえるか」
「侵入者!? わかりました。木霊達も連れて行っては如何でしょうか。何かの役に立ってくれるかもしれません」
「わかった。そうしよう」
俺は木霊とデスワームを1体ずつ連れ、ラヴェンドラと共にダンジョンの入口にまで急いだ。
ーー「いた。あれだ」
入口から少し進んだところで1人の人間を発見した。
俺たちは人間から見えないように茂みに隠れながら、遠巻きに動向を観察することとした。片手に剣を構えたその男は、鎧などはつけておらず恐る恐る進んでいるようだった。
「やはり人間のようですね。宝箱を目当てにきたのでしょうか」
おそらくラヴェンドラの言うとおりだろう。
剣を構えてはいるものの、動きは緩慢であり、探索に慣れている雰囲気はない。駆け出し冒険者といったところか。
異世界に来てから人間を見たのは初めてだ。声をかけたいところだが、あの人間がどのような者なのかわからない以上、ラヴェンドラ達のことを知られるわけにはいかない。この場は穏便に済ませたいところだ。
「デスワーム、あの人間の進んでいる先にある茨の前に落とし穴を作ることはできるか。這い上がれないほど深くなくていい」
了承したというように頭を振ったデスワームが土中に潜っていく。
「木霊は落とし穴の先の茨の前で光を出してくれ」
木霊がふわりと離れていく。
落とし穴に落ちることで諦めてくれるといいが。
「カガセ様。わたしにも何かご命令ください」
ラヴェンドラがうずうずしている。
「今はまだこのダンジョンのことはあまり知られたくないからあの人間には穏便に帰ってもらいたいと思っている。直接攻撃したりしないで追い返してほしいんだ」
「わかりました! お任せください!」
ラヴェンドラは役目を与えられて嬉しそうだが、そのぶんぶん揺れる尻尾は抑えてもらいたい。
そうこうしているうちに冒険者風の男は木霊の発する光に気づいた様子で落とし穴の前まで進んできた。
さて、どうなるか……。
ーードンッ!ーー
「うわあああっ!」
冒険者風の男は悲鳴と共にデスワームが作った落とし穴に冒険者は見事にハマっていた。
落ちた冒険者が大きな声で何か騒いでいる。
その後何とか落とし穴をよじ登ってきたようだったが、彼の目の前には大きな茨が繁茂している。その時ラヴェンドラが何かを唱えた。
「幻惑の水」
ラヴェンドラの言葉を合図に冒険者風の男の周囲に霧が漂い始め、みるみるうちに前も見えないほどの濃霧になっていく。しばらくすると冒険者風の男は意気消沈した様子で来た道を戻っていった。どうやらダンジョン攻略を諦めたようだ。
「あの霧はラヴェンドラが出したのか」
「はい! 『七曜』の技の一つです。わたし達竜は古来より、周囲から隠れて生活していますので、ああいったこともできるんです」
「すごいな。ラヴェンドラがいてくれれば百人力だ」
そう言って俺は誇らしそうにしているラヴェンドラの頭を撫でた。
「え、あ、えへへ。ありがとうございます」
先ほどまでの精悍な顔と打って変わり、ラヴェンドラはニヘニへと蕩けた顔をするのであった。




