第7話 ダンジョン探検
木霊とデスワームがいれば農業には問題がなさそうだ。
とりあえず、彼らを各1体ずつ追加で生成し、野菜を作ってもらうことにした。
これで、源素の残りは300になった。他にも使うだろうから今後の使いみちは慎重に考えよう。
「果物を探すついでに森の中を探索してみないか?」
昼食後、口の周りを拭いながら幸せそうな顔をしているラヴェンドラを誘い、午後は森の中へ行くことにした。
うっそうとした森には水が豊富に湧き出ており、元の世界では見たこともない植物や昆虫などの姿があった。
地面には苔が生え、巨樹の根が持ちあがるなど、歩くのも一苦労だ。
「ここは広いし、生態系が豊かでいいところですね! さすがカガセ様が作ったダンジョンです!」
ラヴェンドラは地形に手間取っている俺と違い、スイスイと歩きながら楽しそうに話している。
時間もあるし、気になっていたことを聞いてみるか。
「なあ、ラヴェンドラ。ダンジョンって何なんだ?」
「そうですね。ダンジョンはこの世界に時々現れる特異な地形のことです。ダンジョンは入口以外から中に入ることはできず、その中はモンスターが徘徊しています。ダンジョンの最奥にはダンジョンコアがあり、ダンジョンコアを壊すとダンジョンは消滅します」
なるほどな。俺がゲームで知っているダンジョンにそっくりだ。
「モンスターっていうと、木霊やデスワームみたいなものか。ラヴェンドラもモンスターなのか」
「いいえ。私は魔族になります。モンスターとは近しいものではありますが、魔の者の中でも上位の種族を魔族、下位の種族をモンスターと呼ぶのです。ダンジョン内では魔族とモンスターは回復力が上昇するのでダンジョン内に魔族が住んでいることも珍しくありません。私が回復できたのは、木霊の能力に加えてダンジョンの恩恵もあったのだと思います」
ラヴェンドラがあの傷から回復したのはダンジョンの中で回復力が上がったということか。
「そして……。あちらをご覧ください」
ラヴェンドラが指さす先には、周囲の自然とは明らかに異質な木箱が置かれていた。
「あれは宝箱。ダンジョンにいつのまにか発生するものです。中に何が入っているかは開けるまで分かりませんが、大抵、人間用の薬であったりして、魔族やモンスターの役に立つようなものはあまり入っていません。ただ、人間には役立つものですので、人間の中には宝箱目当てにダンジョンに入ってくる者もまれにおります」
宝箱まであるのか。開けてみたいが毒ガスが出てきたりするのは嫌だな。
「開けてみてもいいか。罠とかないよな」
ゲームの中でもRPGが好きだった者として、宝箱を見つけたからには開けなければならない。それはゲーマーの義務である。
「大丈夫だと思いますよ。まだできたばかりのダンジョンですし、アイテムのランクも低いと思うので、罠などはないと思います」
ラヴェンドラの説明に安心し、木箱を開けてみる。中には鈍色に光る鉱石が入っていた。
「何かの鉱石だと思うけど、ラヴェンドラこれ何かわかるか」
「うーん。おそらく銀の原石でしょうか。このダンジョンではかなり当たりのアイテムだと思いますよ。魔族でも金属の精錬を行っている種族もいますし」
結構いいものが拾えたみたいだな。そのうち何かに使えるかもしれない。
その後しばらくラヴェンドラと森の中を歩いてみたが、追加の宝箱などはなかった。
だが、森はおおよそ円の形をしており、ダンジョンコアはその中央にあることがわかった。また、ダンジョンコアから森の端まで歩いて15~20分程度かかったことからおそらく半径は1キロ程度だろうと思われた。
大体の探索を終え、果物を採取してダンジョンコアまで帰還しようとしていたその時だった。
ーーズシッ……
正面の巨大な樹の陰から、俺の遥か倍以上の体長はあるであろう動物が姿を現した。
それは、鹿のようであったが、異常に大きな角と筋肉質な6本の脚を持っており、今にも襲ってきそうな様子だ。
「ここはお任せください」
そう言うとラヴェンドラは俺の前に歩み出、巨大鹿と対峙した。
しばらく静寂が流れた後、巨大鹿がラヴェンドラに向かって猛烈に突進した。
「危ないラヴェンドラ!」
咄嗟に俺がそう叫んだ時だった。
ラヴェンドラの周囲の地面から銀色に光る粒が空中に浮かび上がっていた。
「白銀舞う世界!」
ラヴェンドラの声が聞こえたと思った瞬間、銀色に光る粒が集まり白銀に輝く剣の形を成し、巨大鹿の首を両断した。
俺が目の前の出来事を理解できずにいる中、巨大鹿の体は地響きを立てて崩れ落ちていった。
すでに剣は消えている。
「ラヴェンドラ、今何をしたんだ」
ラヴェンドラは何ごともなかったようにあっけらかんとしている。
「今のはわたしのスキル『七曜』の技の一つです。周囲の金属を自在に操る能力で、今回は剣を錬成してみました。他にも槍や盾みたいにもできますよ」
ラヴェンドラはそういうと、自身の周りに生成した白銀の剣を浮遊させて見せた。
そういえばラヴェンドラは竜だった。最近は大食いの少女のイメージだったが、やはりその能力はかなり高いのであろう。
「今言っていたスキルって何のことだ?」
「この世界の魔族や一部のモンスターは種族ごとに特別な能力を持っているのですが、その能力のことをスキルと呼んでいます。例えば木霊のヒーリングもスキルの一つですね」
俺のダンジョンマスターの力もスキルなのだろうか。
「この世界の人間もスキルを使えるのか?」
「いいえ。人間は基本的にはスキルは使えないはずです。ただ、まれに特別な力を有する者が生まれるとは聞いていますが詳しいことは存じ上げません」
そうだとすれば、この世界で人間はあまり強くないのかもしれないな。
だが、ラヴェンドラはその人間の勇者に敗れている。
「それにしても、よかったですね! カガセ様!」
「ん? 何が」
「今日の夜ご飯は鹿の丸焼きですね!」
尻尾を大きく揺らし目をキラキラと輝かせながら、彼女は幸せそうに獲物を運ぶのだった。




