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甲殻類アレルギーなのに新鮮なら死なない? 命がけの食事会と崩壊した婚約  作者: 品川太朗


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7/10

第7話:条件付きの“復縁”──事実上の絶縁宣言

いざ、敵の本拠地へ。 美咲は丸腰ではありません。弁護士監修の「特級呪物(誓約書)」を持参しています。


「何でもする」と言った婚約者。 「復縁したい」と言った義母。


その言葉、責任を持ってもらいましょう。 交渉(一方的な通告)の開始です。


 週末。私は再び、あの大野家の門の前に立っていた。


 前回は恐怖で足がすくんだ場所だが、今の私には戦場に向かう兵士のような冷静さがあった。

 バッグの中には、弁護士の友人に監修してもらった『誓約書案』が入っている。


 インターホンを押すと、すぐにドアが開いた。


「美咲ちゃん! よく来てくれたわね!」

「さあさあ、上がってくれ」


 義母と義父が満面の笑みで出迎える。

 その背後には、小さくなっている悠真と、不服そうに腕を組んで壁に寄りかかっている義姉・佐緒里の姿があった。


 家の中からカニの匂いは消えているが、代わりにジトッとした湿っぽい空気が漂っている。


 リビングに通されると、私は勧められたソファには座らず、立ったまま全員を見回した。


「座らないのかね? お茶も用意したんだが」


「いえ、結構です。長居するつもりはありませんので」


 私の冷たい声に、義父の眉がピクリと動く。

 義母が慌てて割って入った。


「そ、そうよね。まずは謝罪よね。ほら、佐緒里!」


 促された義姉が、ダルそうに一歩前に出た。


「……悪かったわよ」


 ふてぶてしい態度。目線は私ではなく、明後日の方向を見ている。


「私としては、ちょっとした冗談のつもりだったんだけどね。まさかそんなに大騒ぎすると思わなかったから。アレルギーなんて気合で治ると思ってたし」


「佐緒里!」


 悠真が咎めるように声を上げるが、義姉は「はいはい、ごめんなさい」と口先だけで謝った。


 ……予想通りだ。

 この人たちは、何一つ反省していない。

 「運が悪かった」「相手が神経質だった」程度にしか思っていないのだ。


「謝罪は受け取りました」


 私が淡々と言うと、義母が「よかった!」と手を合わせた。


「じゃあ、これで仲直りね? 結婚式の準備も再開しないと……」


「その前に、お話ししていた『条件』を確認させていただきます」


 私はバッグから書類を取り出し、テーブルの上に置いた。

 タイトルには『婚姻における誓約書および合意事項』と記されている。


「悠真さんは『何でもする』とおっしゃいました。お義母様も『復縁したい』と。ですから、私が安心してこの家と関わるための、最低限の安全策をまとめました」


 悠真が恐る恐る書類を手に取る。

 内容を目で追うにつれ、彼の顔色がみるみる青ざめていく。


「な……なんだこれ……」


「何が書いてあるんだ?」


 義父が横から覗き込み、次の瞬間、激昂して書類をテーブルに叩きつけた。


「ふざけるな! こんなもの認められるか!」


 その怒号に、私は眉一つ動かさずに答えた。


「どの条項にご不満ですか?」


「全部だ! 『大野悠真は川島籍に入り、婿養子となる』だと!? 悠真は長男だぞ!」


「ええ。ですが、私はあなた方に殺されかけました。大野家の人間になるということは、またいつ命を狙われるかわからないということです。私の身を守るためには、彼が私の家の人間になり、あなた方との縁を切るしかありません」


 私は淡々と、次の条項を読み上げた。


「第二条。『今後、悠真と大野家の人間は一切の接触を禁ずる。冠婚葬祭も含む』」

「そして第三条。『悠真の給与および財産は全て妻である美咲が管理し、夫には月額一万円の小遣いを支給する』」


「はあああ!? 月一万!? 高校生だってもっと貰ってるわよ!」


 義姉が金切り声を上げる。


「あら、安すぎましたか? でも、彼は私を殺しかけた“共犯者”です。その罪を償い、私に一生尽くすと誓うなら、これくらい当然の誠意ではありませんか?」


 私は冷ややかな目で悠真を見た。


「ねえ、悠真さん。あなたは『僕のために耐えてくれ』って言いましたよね? 今度はあなたが、私のために耐える番じゃないですか?」


「そ、それは……でも、実家と絶縁とか、婿入りとか……会社の手続きもあるし……」


 悠真は脂汗をかいてオロオロしている。

 本当に情けない男だ。自分の蒔いた種すら刈り取れない。


「ふざけるのもいい加減にしなさいよ!」


 義母が涙目で叫んだ。


「あんたねぇ、嫁に来てもらおうと思って下手にでてれば図に乗って! 長男を奪って、給料も奪って、私たちから息子を取り上げるつもり!? 鬼じゃないの!?」


「鬼?」


 私は思わず笑ってしまった。


「アレルギーの嫁にカニを無理やり食べさせようとした人たちが、よく言いますね」


 私の笑顔に、全員が押し黙る。


「……つまり、この条件は飲めない。そういうことですね?」


「当たり前だ!」と義父が怒鳴る。


「そうですか。残念です」


 私は書類を回収し、バッグにしまった。


「では、交渉決裂です。婚約破棄の手続きを進めさせていただきます。慰謝料については、後日弁護士から請求がいきますので」


「い、慰謝料!? 待て美咲!」


 悠真が慌ててすがりつこうとする。

 私はその手を冷たく払いのけた。


「触らないで。……吐き気がするから」


 その言葉は、比喩ではなく本心だった。

 かつて愛したはずの男が、今はただの汚物のように見える。


「悠真さん、最後に一つだけ教えてあげる」


 私は玄関に向かいながら、背越しに言い放った。


「あなたが守りたかった『お母さんとお姉さん』と、仲良く地獄に落ちなさい。それがあなたの選んだ道よ」


 背後で義母の泣き叫ぶ声と、義父の怒号、そして悠真の情けない呼び止めが聞こえたが、私は二度と振り返らなかった。


 外に出ると、空は澄み渡るような青空だった。

 大きく息を吸い込む。


 カニの匂いもしない、湿っぽい悪意もしない、きれいな空気。


「……終わった」


 いいえ、違う。

 彼らにとっては、これからが本当の地獄の始まりだ。


 私は知っている。悠真の会社での立場がどうなっているか。そして、この狭い町で「嫁殺し未遂」の噂がどう広まるか。


 私は軽やかな足取りで、駅へと向かった。

「仲良く地獄に落ちなさい」 言えました! スッキリしましたね。 彼らが一番大切にしていた「家族の絆」が、これからは彼らを縛り付ける「鎖」になります。


自分たちが蒔いた種(アレルギー無視)が、こうして自分たちの首を絞める。 これぞ因果応報です。


さて、美咲は自由になりましたが、彼らの転落人生はここからが本番です。 まずは、あの「新鮮信者」の元婚約者から。


次話、会社での公開処刑(第二幕)です。 左遷、そして孤独な末路が描かれます。


全話投稿済みです。 社会的なトドメを刺す第8話へお進みください!

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