表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/21

【第9話】“共感”という単語をまた検索する

俺は考えた。


“共感”って、そんなに重要なのか?

婚活もダメ、冒険者もクビ、推しには条例で接近禁止──そして神にすらBANされた。


でも、俺の何がそんなにまずいのか。

具体的に、共感ってどうすればいいのか。

もしかして、ちゃんと勉強すれば、俺にもできるんじゃないのか……?


というわけで俺は、王立図書館に向かった。


入館ゲートをくぐった瞬間、音が鳴る。


「ピンポーン。遮断者が入りました」

「遮断者が入りました」


魔導センサーが俺を感情警報対象として検出したらしい。


俺が足を踏み入れると、精霊司書たちが逃げ出した。


「心のノイズが……脳に刺さる……!」

「スキャン距離取って! その人、Wi-Fiじゃなくて“情緒ジャミング波”!」


俺は、図書館の中で電子機器より嫌われる存在になっていた。


それでも俺は諦めなかった。

古文書フロアのすみっこで、ようやく1冊の本を見つけた。


タイトルは『なかよくしようね! きみのこころ、よんでみよう!』

対象年齢:6歳未満。表紙にニコニコ顔のスライム。


中身は、でかい文字と手書きイラストで描かれた“情緒の入門書”。


・「おともだちと えがおで あいさつしよう」

・「かなしいときは “かなしい”と いってみよう」


……なるほど。わからん。


俺の脳が全力で拒否していた。

「いや、それ義務なのか?」「合理性は?」「感情ってコスパ悪くね?」


ページをめくるたび、感情ログが軋む音がした。


本の裏表紙には“読者感応度自動記録欄”がついていて、読んだ後に俺の感情反応が出力された。


【読者名:志無野 睦夫(49)】

【理解度:4%】

【感情発芽:未確認】

【読書中のつぶやきログ:

・“わかるようでわからん”

・“これ、本当に効果あるのか?”

・“スライムがなぜ笑ってるのか謎”】


司書が遠巻きに言った。


「……スライムより反応鈍い……いや、スライム以下……」


俺は黙って本を閉じた。


帰り際、図書館の出入口に立て札が出されていた。


『【注意】感情遮断者が本日入館しました。情緒が揺さぶられた方は、共感ヒーリングルームへ』


俺の存在が、図書館に“心の警報”を生んだ瞬間だった。


第9話、終了──俺、“なかよくしようね”というフレーズに拒否反応を示した初の読者に認定される。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ