【後日譚】記録削除のち、最初からログアウト処理
──名前が、消えた。
“志無野 睦夫”というログは、
情緒インフラ上から完全に削除された。
異世界カレルディア、感情記録局の中央端末に表示された通知。
【サンプルA99-ZLog0:記録削除完了】
【アクセス件数:0】【共感履歴:該当なし】
【接続記憶:0件】【必要性評価:未満】
俺は、いなかったことになった。
いや、いた。確かに存在はした。
推しを追い、愛を叫び、理解されず、拒絶され、消えた。
神にも国家にも拒まれ、スキャンすらされなくなった存在。
隔離区域の片隅、誰もいない小屋の中、
俺は最後のログを、魔導水晶に残した。
「……誰かに必要とされたかった」
「それだけだったのに」
もはや、届ける相手すらいない。
スキャン不能。視界外。通信不可。
けれど──
その瞬間、ふと、小さな反応が返った気がした。
それは、広場の風の揺れか、微かに震えた水晶か。
誰かの心が、ほんの一瞬だけ、軽くなるような気配があった。
まさか──
俺が“消えたこと”によって、
誰かが「安心」したのだろうか?
それは、皮肉でしかない。
でも確かに、俺がこの世界に与えた唯一の影響だった。
魔導水晶が最後の通知を表示した。
【ログアウト処理完了】
【あなたの感情ログは初期化されました】
【転生スロット:空席】
画面に、無音の文字が浮かぶ。
──“次は、うまくやってくれ”
外の世界では、誰かの人生が続いていく。
共感できる者たちが、つながりを持ち、癒やし合い、育まれていく。
俺には、その方法が分からなかった。
最後まで、分からなかった。
それでも──
きっと誰かは、分かるはずだ。
次にこのスロットにログインする誰かが、
今度こそ、世界と“つながれる”ことを祈って。
俺は静かに、データベースの底から、ログアウトした。
【志無野 睦夫──削除済】
【共感値:0.0(記録終了)】
──志無野伝説、ここに完結。




