最終話 そして新しいステージへ!
桜の季節。待ちに待ったすみれ達の出演するゲーム、『VTuberは僕のヒロイン。~8人の軌跡~』が無事にゲーム市場から発売した。発売までが駆け足だったが、綾那さん達の作業量の速さが本当に凄いと思った。
みんなが一生懸命、声優として演じてやってきた結晶のゲーム。俺も最後までバイトとしてデバッグで参加して、もう発売する前からシナリオを知ってしまっていたが、それでも発売するとなると嬉しくてたまらない。
俺と竹中、いや、朱里とは恋人同士仲良くやっている。結局名前呼びを強要されて、今は朱里と自然に呼ぶようになった。最初は抵抗があったものの、案外続けていけば慣れるものなんだと分かる。
そして彩夏ちゃんとの関係も、とても良好に続いている。最初はどう接しようかと思ったが、向こうはいつもと変わらない態度で接してくれているのだ。あの日の涙を見た瞬間はどうしようかと、気がかりだったが、それを考えさせないくらい、今までと一緒だ。
彩夏ちゃんは思っている以上に、ずっと大人だ。
そして今日。サイバーユリカモメに俺達全員は、綾那さんに呼ばれていた。以前朱里が言っていた重大発表を教えてくれるとの事だ。もちろん、俺以外の3人はその内容を知っている様子だった。
会社内の会議室に集まると、既に綾那さんと上野さんが待っていてくれていた。
綾那さんが俺達に向けて一度咳払いし、話しだした。
「みんな今日は来てくれてありがとう。もう彩夏を含め知っていると思うけど、渉君には話して無かったので、良い機会だから集まってもらいました。と、その前にゲームの発売だけど、みんなのおかげで無事発売できて、正確な販売本数はまだ把握出来ていないけど、ダウンロード数の売り上げも含めて、良い調子なのは確かです。これもみんなの頑張りのおかげだと私は思っています」
その言葉にみんな喜びを隠せないみたいで、嬉しかったり、ホッとしたりとそれぞれの反応をしている。
「良かった~。ネットの評価もそんなに叩かれてなかったし、私ちょっと不安だったから」
すみれは胸を撫で下ろしている。俺もあまりにも批判が多かったらと、一抹の不安はあった。そうしたらVTuberとして活動している本人達にも、精神的にもかなり影響があるだろうから。だけど概ねそんな悪い評価はなく、だからと言ってすごく良い評価が多い訳でもない。ぼちぼち良好、それがこのゲームの評価となる。
個人的に1人のファンの意見からしたら、出ているVTuberのイメージが損なわないのが一番重要で、後は演技力が伴っているか。他にキャラクターのCGが綺麗なり、シナリオが良いかに限るだろう。
シナリオは俺がデバッグでやった時に思ったのは、まぁありふれたAVGゲームと一緒だ。ただ、テンプレなシナリオとは言っても普通にVTuberの個性に合わせたシナリオで面白かった方だと思う。
星野宮きらりの話は、設定上宇宙飛行士を目指す事になっているので、それに関連した話。雷桜つばきの話は、人と鬼との恋愛をテーマにした話。夢坂リリムはお嬢様と、執事との禁断の恋愛話。内容はどれも魅力的で、ファンで推しなら嫌いじゃないと思う。
そういう観点から見て、全体的には悪くない。きちんとしているゲームだ。しっかりとVTuberのキャラクターを分析していると思う。シナリオライターの人達は途中、実際に演じている本人達のLiveを見たり、トレーニング時に交流もしたりと、プロ意識は高い人ばかりだ。
「でも無事に発売出来てよかったですの。わたくしもゲームを出したいって言いだした手前、不安でしたの」
「でも、そのおかげで私達はまた新しいステージに移る事が出来たんだよ、彩夏たん!」
朱里が彩夏ちゃんをぎゅっと抱きしめる。
「恥ずかしいですの、朱里さん。でもわたくしがこうやって最後まで頑張れたのは、すみれさんや、朱里さん、上野さん、それに渉さんのおかげですの」
気恥ずかしそうに彩夏ちゃんは照れ笑いを浮かべている。
「だけど頑張ったのは彩夏ちゃん自身だと思うよ。意外に企画とか向いているんじゃないのかな」
「そ、そうですの? そう言ってもらえると嬉しいですの」
そこで綾那さんが一歩前に出て来た。
「色々とスケジュールは大変だっだと思うけど、みんなが頑張ったのは間違いないわよ。そして渉君には伝えてなかったけど、今日を機に3人にとって、新しいステージに移動する事になったわ」
そうだった。発表する事があると聞いている。
「新しいステージですか?」
俺が聞き返すと、綾那さんが頷く。
「そう。妹の彩夏を含めた3人のVTuber活動は、個人なのは知っているわよね」
「ええ、もちろんです。どこの企業にも所属していないVTuberですよね」
そこで綾那さんは後ろにある、事前に用意していた脚付きホワイトボードを、思いっきりひっくり返した。そこにはデカデカと、見慣れない英語が書かれている。なんちゃらライブ?
「その通り。そこでこの春、我が社で新しいVTuberプロダクション事業を立ち上げたの。プロダクション名は『TwinkleStarLive』。3人はその1期生として正式に契約して所属する事になりました! はい、そこ拍手!」
バンッとホワイトボードを叩く。ちょっとドヤ顔なのはどうしてだろうか。
「お、おお。そうなんですね」
俺は1人乾いた拍手を小さくする。恥ずかしいんだけど。
「もー、どうしたのよ。もっと反応があっても良いのに。まあ、そう言う訳でこれからは私達がバックアップして、色々な活動が出来ると思うわ」
上野さんがいそいそとホワイトボードを戻していく。
「そう言う事ですの。私達は今日からTwinkleStarLiveとして活動していきますの」
「私達以外にも個人で活動していた人も含めて、最初は4人だけどね」
すみれが補足を入れてくれる。これからはみんな個人で活動するのではなく、正式な企業のVTuberとなるのか。世の中には個人から企業に入ったVTuberもいるし、何もおかしくはない。それにしても、このタイミングで世間に発表をするのは、事前に準備していたのかも知れない。
何にしても、これからこの3人の活躍の場が増えるし、社員の人がマネージャーとしてサポートしてくれるのは良い事だ。学業とVTuber活動をやるのは大変なのは、近くにいる俺が良く分かっているつもりだから。
「びっくりした、渉君? これからは私達もっと頑張るよ~!」
「まぁな。これからはもっと忙しくなりそうだな。企業に入れば、他のVTuberとのコラボもやると思うし、3D配信もあるだろうし」
「でも、これなら登録者数100万人も全員で目指せるよ」
「後輩も出てくるかも知れないしな」
そっか。これが新しいステージだったんだな。嬉しいような、少し寂しいような、ちょっと不思議な気分だ。でもまた新しい一歩を歩んでいくのは素晴らしい事だから、素直に1人のファンとして応援していかないとな。
「後輩ですの? 何だか良い気分ですの」
「彩夏ちゃんってば、もう後輩って気が早いんだから。兄貴もそんな事言わないでよ。私達1期生がこの先頑張らないといけないのよ?」
「まぁまぁ、そんな気負いしすぎたら良くないよ、すみれ。みんなでこのTwinkleを盛り上げて行けば良いんじゃん。気楽に行こうよ」
朱里がすみれの頬を、プニプニとつつく。
「そうそう。すみれも気楽にやっていけば良いんだよ」
「そんな無責任な事言って兄貴は……。知らないからね?」
すみれが俺に向ってため息をつく。可哀想に……。憐れそうにこっちを見てくる。何だ、何かあるのか?
「あっ、そうだった。伝えるの忘れてた!」
朱里が今になって、重要な事を思い出したみたいな反応をする。そして上野さんが俺の前に来た。
「あらら、そうでしたか。では私がお伝えしますね。実は渉さんにも新しく男性VTuber枠で、こちらに登録して頂きたいと思ってまして。その事は渉さんの家族からも、すみれさんからも了承を頂いています。ですので、これからは1人の男性VTuberとして、私達と頑張りましょう」
続けて綾那さんも説明をしてくれる。
「アバターは私達の方で作っているから。朱里さんのセバスチャンを改良して、そちらで本格的に活動してもらう事になっているわ。だからよろしくね、渉君」
え、何も聞いていないんですけど?
「はい? マジデスカ?」
「渉君はみんなとセバスチャンで何度かコラボした仲だし、やりやすいでしょ?」
しれっと綾那さんと上野さん達が言ってくる。いきなりの事に脳の理解が追いつかない。
「渉さんこれからもわたくし達と一緒に頑張りますの!」
「まっ、そう言う事だから、これからもよろしくね兄貴」
「もう私達は仲間よ、仲間。今さら逃げようなんて言わせないよ。これからもよろしくねー、渉君」
あれよあれよと言う間に、話がトントンと決まっていたとは。
「ははは……。まさか俺もまだVTuberとして頑張らないといけないとは。これは酷いオチだ」
「心配しなくても大丈夫ですの。基本的には裏方担当ですの。わたくしと企画を一緒に考えたり、私達のマネージャーもやってもらったり、後はメンタルケアもやって頂いて、後は後は」
「いやいや! 俺はここで何をやらされるの~!?」
それから俺達は新しい一歩を歩き出した。みんなのVTuber活動は順調にいき、たくさんのコラボや、他社との企業案件、イベント、物販、たくさんの事をしていった。
みんなが登録者100万人を超えるのも、そう遠くないだろう。そして俺がみんなの永遠のファンである事はずっと変わらない。
妹がVTuberを始めて、その様子を目撃した事が切っ掛けだった。始めは色々な事に振り回される事が多かったが、そのおかけで、こんな幸せな未来は来なかったと思う。本当にすみれと朱里、彩夏ちゃんには、感謝してもしきれないなと俺は思うのだった。
これでこの作品は完結となります。
ここまで読んで下さった読者の皆様、ありがとうごさいました。投稿頻度も落とさず出来たのも、皆様のおかげです。
ブクマ、評価、コメント、誤字報告などをしてくれた方、圧倒的感謝!
それでは失礼します。




