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第57話 妹と映画館ってのは久しぶり!

「兄貴ー。今日暇?」


 俺たちの学校が春休みに入った。そんな時の朝、すみれが部屋に訪問してきたのだ。


「暇だけど。どうした?」

「ならさ、久しぶりに2人で映画でも見に行かない? 映画の特別鑑賞券をお母さんが懸賞で当てたんだけど、お父さんが興味ないからって事で、行かなくなったみたいなの。だから2人分あるし、どう?」

「良いね。そう言えば映画とか、すみれと行くの久しぶりだし」


 渡された鑑賞券を一度テーブルに置き、支度の準備を始める。


「すぐに出かける準備するから、少し待っててくれ」

「うん、じゃあ支度を終えたら言ってね。私夜の配信の準備とか、その間にしておくから」

「おっけー」


 そう言う事で外出する為の支度を済ます。しばらくゲームの収録や彩夏ちゃんの事、竹中の事で色々忙しかったが、こうやってすみれと出かけるのはいつ以来か。財布や携帯をコートに入れて、忘れ物がないか確認する。鑑賞券も忘れていない。よし、問題ないな。


 すみれの部屋の前に行き、出かける支度が完了した事を伝えるとしよう。


「すみれ。準備終わったぞ。行くか」


 俺の呼びかけにすぐ反応が返ってきた。


「了解ー。すぐ行くよ」


 言うよりも早く扉が開き、すみれが出て来た。今日は白いダウンコートを着こなしている。しっかりとマフラーと、頭にもベレー帽を被っていた。防寒準備はバッチリと見える。


「じゃ、行こっか」


 こうして俺たちはバスで映画館へと向かった。目的の映画館が入っている複合施設に到着すると、休みなのか学生が多い。今の時期に上映されている映画は、年末だけあって有名なシリーズの続編もあり、なかなか興味の引くタイトルが並んでいる。


「突然来たから何を見るか決めてなかったけど、何かすみれが見たいのあるか?」


 多くの客たちが映画館にある売店で、様々なフードやドリンクを注文している。


「ん~、そうだなぁ。色々あって迷っちゃうね」


 上映する時間によってはかなり待つのもあるし、すぐに見れるものもある。デモ用のディスプレイや、壁に貼ってあるポスターを見比べて、すみれは迷っている。アクション映画、アニメ映画、サスペンス映画、ファンタジー映画と、どれも面白そうだ。


 ただ、最近流行っている漫画、アニメ化された作品の劇場版が映ったディスプレイを、すみれが見つめている。もしかしたらこれが見たいのか?


 スマホで時間を確認すると、その映画なら30分後に上映する予定だ。


「その映画見たいのか?」

「えと、まぁ、うん。見たい……かな」


 一瞬ちらりとこっちを見て、素直に頷く。結局それが目当てだったのか。そう言えば、その漫画もアニメも好きだって言ってたっけ。


「じゃあ、これ見るか。時間も丁度良いし、すぐに窓口に行くぞ」

「え、良いの?」

「興味ない作品見るより、好きな作品見る方が良いに決まってるだろ。ほら、席なくなるぞ?」

「う、うん。そうだね」


 急ぎ2人で窓口へ向かい、特別鑑賞券を渡しチケットに交換してもらう。座席は後方が空いていて、隣同士座れた。映画自体の公開日から少し日が経っているので、良い席が当日でも取れたが、これが公開したばかりなら、そうはいかなかっただろう。


「よし、無事に席も取れた事だし、上映まで少し時間あるな。今の内に食べ物でも買うか?」

「うん。ちょうど小腹空いたしね」


 揃って売店の前に行くと、にこやかな笑顔で店員さんが注文を聞いてくる。ざっとメニュー表に目を通すと、定番のポップコーン、ホットドッグ、チュリトス、ポテトがある。ドリンクも炭酸からコーヒー、タピオカ系ドリンクと様々だ。


「兄貴は何にするの?」

「んー、そうだな。ここは定番の味噌バターポップコーンセットにするわ」

「え? それって定番とは言わないと思うけど。まぁ人の食べるものにケチつけるのもあれよね。私は、そうね。チュリトスセットかな」


 2人で店員さんに注文する。俺はポップコーンと、カフェラテ。すみれはチュリトスとタピオカミルクティー。まさに甘々なコンボだ。見るだけでカロリーが凄そうだが、本人は楽しみにしていて、頬を緩ませている。


 売店で注文した品を受け取り、時間を確認すると、開場時間が来ていた。


「もうそろそろ、入って良いみたいだな。中に入るか」


 すみれに聞くと頷き返してくれた。という訳で指定席へと移動する。席に着くとちらほらと観客が入ってきた。少し旬が過ぎたと言え、まだ人はいる。そしてしばらくすると照明がうす暗くなり、映画館特有の長いCMが始まる。


『劇場内での撮影や、写真は~』


 いつもながら何でこんなにCMが長いのか。いくら映画館の収益としての広告とは言え、長いよなぁ。


 これを見ている間に、フードを食べつくしていた友人が俺にもいる。いや、今は恋人だな。よくこの時間で食べ尽くしていたのを思い出すと、つい思いだし笑いしてしまう。


 ようやくCMが終わる。本編である映画が始まり、俺達は夢中で約1時間40分、劇場で過ごしたのだった。






 映画が終わり、薄暗かった照明が明るくなった。俺は座りっぱなしだったので、背中を伸ばす。隣を見ると、すみれも同じように背筋を正していた。


「う~ん! はぁ~。結構迫力があって面白かったね」

「そうだな。劇場版なだけあって戦闘シーンの描写は丁寧で、綺麗だったと思う」


 2人で席を立ちスクリーンを後にした。さてと、映画は見たものの、まだ時間はある。せっかくすみれと一緒な訳だし、このまますぐに返るのはつまらない。


 複合施設内のホールまで移動して、中のベンチに2人で座る。俺はこの後どうするか、話を切り出そうかと思っていたら、


「ねぇ兄貴。まだ時間あるし、この後どうしよっか?」

「考えていた事は同じだな。俺も今それを聞こうとしていたんだ」

「そっか。だよね。まだ時間あるしさ、ここ確かゲーセンあったよね。ね、行かない?」

「おっ。良いな。ここのゲーセンは色々な筐体が揃ってるし。そう言えば昔はお化け屋敷にも行ったのを思い出すな」

「変な記憶だけしっかり覚えなくても良いわよ。恥ずかしいんだから、もうっ!」


 羞恥心で顔を赤くして、すみれがいきなり駆け足でエスカレーターに乗り、ゲーセンのある上の階に向かう。俺はそれを急いで追いかけて行った。


「さ~って、どれからやるとしますかね」


 どのゲームをやるか見渡して考えていると、


「ねぇ、兄貴。ほら、あれやろうよ、あれ」


 すみれが指さす筐体は、オンラインで対戦できるクイズゲームだ。1人でやる時より、当然2人で協力してプレイした方が勝率は上がる。


「クイズゲームか。よし、2人でトップに行くか」

「私がいれば余裕だけどね」

「どうしてそんな強気なのかは分からんが、2人なら良い線まで行けるかもな」


 コイン投入口に100円を入れ、早速オンライン対戦モードに参加する。


「よーっし、かかってこい!」


 意気揚々とすみれが出題された問題を次々と頑張って答えていく。さすが優秀な妹。俺がそこまで答える事なく問題を解いていく。


「やるなぁ。まさかここまで知識が豊富とは」

「まぁね! 私を誰だと思っているのよ。これならトップに行けるかも」


 順調に勝ち続けていた俺達だったが、結果は最終ラウンドで負けてしまった。それでもここまで奮闘したのは、素直に凄いなと思う。


「うううう~。悔しい~。もうちょっとだったのに~!」

「おいおい、それでも二位だったんだし、凄いぞ。そんな悔しがる事じゃないと思うが」

「悔しいものは、悔しいの! はぁ~、まぁいいや。次よ次!」


 それから格闘ゲームをやったり、ガンシューティングをやったりして。最後はぬいぐるみが欲しいとすみれが言ったので、クレーンゲームで締める事にした。目当ては大きいクマのぬいぐるみのようだ。


「もうちょい。もうちょい! ちょっとこのアームの力弱すぎでしょ!」


 もう何回目だろうか。すみれは3000円分投入しても、ぬいぐるみが嫌がってるのでは? と、思ってしまうくらい取れなかった。さすがにちょっと可哀想だな。


「ヘタ過ぎだろ~。そのお金でぬいぐるみ買えちゃうな」

「なっ! そんな事言うなら兄貴が取ってよ。これがどれだけ難しいか分かるわよ」


 もはや怒っていると言うより、腹わたが煮えくりかえっている状態だ。


「分かった、分かった。俺が取ってやるからそこで待ってろよな」


 すみれを(なだ)めながら、コイン投入口に500円を放り込む。


 慎重に角度をチェックする。クレーンを横へずらし、上へずらし、ぬいぐるみをまずは引っ張る。しかしそう簡単に持ち上がらない。そこで残りの回数を考えて、後は先程のすみれのプレイを参考に戦略を立てる。


「ほらほら、やっぱり難しいでしょ?」


 すみれの言葉は無視して集中だ。まずは一気に動かそうとせず、少しずつ排出する穴へと近づけて、最後に横に引っ掛けながら、斜めに重心を掛ける。後は上手くいけば勢いで落ちるはず。


「よし、やってみるか」


 そして先程考えたやり方でぬいぐるみは見事取れたのだった。


「ほら、取れたぞ!」

「うわぁ、ほんとに取れちゃった。何かズルい……」

「ズルいってなぁ。ちゃんと戦略立ててやれば取れるんだよ。もちろん運も必要なのはあるけどな」

「何よ、偉そうに。でもありがと。大事にするわよ。欲しかったしね」


 すみれは口を尖らせているものの、ちょっぴり嬉しそうに、クマのぬいぐるみを抱きしめている。俺はそんな妹の表情を見ていると、今日は来て良かったなと心の中で思うのだった。


「なぁ、今度はみんなで映画見に行くか。きっと楽しいよな」

「うん、そうだね。また今度誘って行きましょ。朱里も彩夏ちゃんも喜ぶよ」


 俺達はそうして映画を堪能して帰宅したのだった。

今日は17時過ぎにもう一話、最終回を投稿します。

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