第56話 改めて想いを込めて。
二月に入り俺はいつも通り学校の授業を受けていた。もうすぐ三月になれば卒業式が来る。
授業が終わると、竹中に一緒に帰ろうと提案すると、すんなり受け入れてくれた。
「赤坂君から誘って来て、急にどうしたのさ」
教室の自席で伸びをしている竹中は、少し眠そうだった。理由は昨日の夜遅くまで配信をしていたからだ。当然俺も見ていたから知っている。
「まぁ、その。今日さ良かったら俺の部屋に遊びに来ないか?」
今更何度も来ているのだが、それはいつも突然だったり、すみれとだったりして、こうやって直接誘う事はほとんどなかったと言える。
「ん~? そうだなぁ~。どうしよっかなー」
竹中はもったいぶる態度を取るが、
「もちろん行くよ。赤坂君からのお誘いを断るわけないじゃん」
「じゃあ、帰るとするか」
そして竹中と一緒に俺は帰宅した。
今日のすみれは用事でまだ帰りが遅い。話では綾那さんの会社に寄ってから帰るそうだ。
部屋に竹中と2人でいるのは、いつぞやの、すみれの事を相談したいと言った時を思い出す。部屋に来るなりコタツに入り、寛ぎだした。
「それで今日は私を部屋に連れ込んで、どうしたわけ~?」
ニタニタと悪戯な子どもみたいな調子で、コタツの上に置かれたみかんを1つ手に取り皮を剥く。
「いや、こないだですね。彩夏ちゃんとまじめに話して。きちんと話をつけてきて、それで彼女の気持に応えれないと伝えました」
すると、ピタリと竹中の手が止まった。
「……そっか。言ってたよね。彩夏ちゃんには私悪い事したかなぁ……。何かこれから話しづらいかも」
「多分、そんな事はないと思う。竹中の事はとても好きだって言ってたし。それに彩夏ちゃん、竹中の気持ちも気付いていた様子だったから」
「はぁ……、けど複雑だなぁ。私からしたら好きな人を奪った形になるって訳だし。彩夏ちゃんにも幸せになってもらいたいけど、これは私のエゴよね。赤坂君さ、本当は彩夏ちゃんの事好きじゃないの?」
竹中はコタツの中に身体を埋めていく。
「あのなぁ。去年の夏休み最後、いきなり告白してきたのそっちだろ。それに忘れたのか? あの時の返事はゲーム収録が終わったら、きちんとするって」
もぞもぞと、コタツの中で動いているのが分かる。そして身体を起こして俺の方に竹中は向き直った。
「忘れる訳ないじゃん。今日はその返事をするために呼んだの?」
「そうだな。そのために来てもらいました」
変な敬語になってしまう。言いながら段々恥ずかしい気持ちが湧きあがってくるからだ。
「家で? どうせならもっと雰囲気のある高級レストランが良かったなぁ~。もしくは車の中でとかさー」
「あのなぁ、俺たち高校生なんだぞ。家でだって悪くないだろ」
「冗談だって。冗談。別に気にしてないって。それに何となく分かってたしね」
何だかこれから俺が竹中に告白するって言うのに、まったくいつもと様子が変わらないのを見ていると、さっきまでの恥ずかしさと緊張が解ける。気を利かして、いつも通りにしているのか分からないが、そのおかげで俺の決心がつく。
「そうか。なら話が早い。この前の返事だけど。俺と付き合ってほしい。俺も朱里が好きだ」
ついに言ってやったぞ。あの夏祭りの約束を、ようやくここに来て正式に返事が出来た。何かホッとするような、実は断られるんじゃないかと、今でも心臓の鼓動が速くなる。
「うう。いざこうやってズバッと言われると、こう胸に来るのがあるね。ねぇ、もう一回言ってくれない? こう、イケボ風に、『俺も朱里が好きだっ!』って。ねぇ、ねぇ?」
「人が真剣に言ったのに、お前って奴はな~」
「ごめんって。だって、もう分かってるでしょ。私の返事なんて聞かなくても。もちろん、喜んでお付き合いさせて頂きますとも。渉君」
竹中はそう言うとボフンッと後ろに倒れて寝転がった。そしてゴロゴロと身体を左へ右へと回転させる。
「お~い。竹中さん、何やってるの?」
「呼び方。これから私の事は朱里って名前で呼んでよ。私も渉君って呼ぶからさ」
忙しそうにゴロゴロ回転させていたのをすぐに止め、腰を上げて俺の方に向き直る。急に恋人同士になったからなのか、呼び方まで変えるように言ってくるとは。
「……。いや、急に言われてもだな。そのうち機会があればそう呼ぶよ」
「もう、仕方ないなぁ。でもまぁ時間はあるし、ゆっくり私達の関係も進めれたら良いね」
無邪気な笑顔を俺に向けてくる。ふと、その時何かを思い出したのか、竹中は手元に置いてある自分のスマホを取ると、
「あっ、そうそう。私たちの出るゲームの事なんだけど、来週ゲームのデバッグ作業を綾那さんが赤坂君に手伝ってほしいって。人手が足りないからってさ」
と、結構大切な事を伝えてきた。
「そう言う大切な事はもっと早く言えっての。てか、何で竹中に伝言を頼んだんだ?」
「この前会社に行った時に、私もデバッグしたんだよ。自分の、雷桜つばきルートの。いや、あれは恥ずかしかったね。それでスタッフの人に頼まれたの。赤坂君も手伝ってほしいって」
なるほど。自らのキャラクターのデバッグか。そうか、すみれは今日それで向こうに行って、デバッグ作業を手伝っているのかも知れないな。後で上野さんに連絡して、デバッグ作業の手伝いが必要なのか確認しておこう。まさかゲームをやる前に、デバッグをするとは。
「確かにゲームのデバッグって時間掛るし、バイトで働いている人もいるし。呼ばれても変じゃないのか。分かった、後で上野さんに確認しておくよ」
「なら今度一緒に、私のつばきのデバッグを一緒にしようよ」
「そう言われて断る理由がないけど。多分他のキャラクターもやるだろうし」
デバッグするとゲームが純粋に楽しめなくなってしまうと聞くが、これは致し方ない事だ。自分が手伝う事で予定通り発売してほしいしな。それに自分がこのゲームに参加しているって、より実感して嬉しい。
「それでね、ゲームが発売したら重大発表があるんだよね」
「重大発表?」
「そ。今は秘密だけど、近いうちに分かるから楽しみにしててね」
重大発表が一体何かは気になるが、素直に楽しみにしておこう。それから俺達は2人でまったりしている間に、すみれが帰って来た。
すみれはすぐに俺の部屋に入って来る。竹中の靴があるのに気付いたのだろう。俺達の様子を見てすぐに察したのか、
「朱里を傷つけたら許さないから。それだけは覚えておいてね兄貴」
それだけ行って自室に戻って行った。どうやら俺達の関係を察したらしい。
「もしかして俺達が付き合うって事を、分かってたのか?」
「まぁ、色々私はすみれに相談してたし」
何だか今更ながら恥ずかしくなる。あんなふうに言ってるが、きっと俺と竹中が付き合う事に対し、理解を示しているみたいに思えた。
それから俺はサイバーユリカモメへ行き、ひたすらゲームのデバッグ作業へと没頭していく日々が続いたのだった。




