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魔導師と勇者の幼馴染の行く末


魔導師視点。



田畑や森ばかりしか目に入らない。人々は身を寄せ合いながら、協力して生きていくしかない。そんな村だから人々の心は温かだと、そう偏見があった。そんなの、ただの思い込みに過ぎなかったのに。

――都は物で溢れていた。足りないものなんて無かった。

この村、カルテスは無い無い尽くしだ。田舎で流通する物と言ったら都で既に流行が過ぎた物ばかりである。それらをこの村の若い者達は最先端と勘違いして、得意げになる。勘違いも甚だしい。都会の者から見れば皆、五十歩百歩だ。もっと極端に言えば、どの場所に住む者も同じ生き物に変わりないというのに。


「キーリアルさん、痛い」

「あ、…ごめん」


立ち止り、振り返れば自身の妻が痛そうに手を擦っている。息切れもして、苦しそうだ。しまった。憤慨しすぎて「怒りの理由」となる人を蔑ろにしては本末転倒だ。


「ごめんね、メルティアさん」


少し屈んで彼女と目を合わせて、謝罪する。余程強く握りしめていたのか、彼女の手首は赤くなっている。赤くなった部分を両手で包みこみ、癒しの力を込めて擦る。いつか、自分の差し伸べた手を握ってくれた手。それを、俺は――…。

苦虫を食ったような顔をする俺を見て、安心させる為かメルティアは軽く笑う。


「肉刺が潰れた痛さに比べたら屁でも無いわ。そんな事より、どうしたのよキーリアルさん」

「んー、新しい自分を発見して戸惑っているんだよ」

「…?あなたがキーリアルさん以外の何だっていうの?」


よく解らない、と呟きが聞こえる。本気でどうしたものか気にしているようだ。うん、そうだよね。君に会ってからから初めてこんな自分がいる事に気づいたよ。未だ俺に触れられている右手すら意識されなくて悲しい、とかさ。

決して白くは無い小麦色の肌、あたたかな血の通ったぬくもり、…俺よりも力仕事を知っている掌。お洒落に無頓着で、日々精一杯生活している。そんな彼女を構成するそれらを、侮辱された時点で切れた。それはもう、見事なまでに。


「ねえ、いつもあんな事言われるの?」


きょとん、とした顔をした後に眉を顰めるメルティアは「あんな事?」と聞き返してきた。


「ほら、「流行に遅れてる」だの、「太い指」や「勇者の幼馴染だから調子に乗ってる」とか、「俺を体で落とした」とか」


思い出したらムカムカしてきた。うわー、案外心狭いな。


「ああ、ラベールの言ってた事ね。何時もは言われないからただのやっかみでしょ」

「もしかして…メルティアさんがとっても男前で素敵な旦那さまを獲得したからかい?」

「でしょうね」


自分が原因か。情けない。


「別に何言われたって平気だけどね」


そう、無理矢理な笑顔を作ったメルティアを――思わず抱き寄せる。抱きしめたのは彼女の祖母が死んだ日以来だ。

あの時手を差し伸べたのは罪悪感と同情からだ。一目惚れしただの、アルサルトへの嫌がらせだの…そんな気持ちは無い。……いや、祖母が亡くなった際の力無き背中を見捨てられなかったのかもしれない。そんな動機で一緒になった。けどさ、一緒に暮らして「ただいま」、「おかえりなさい」とか、「いってます」、「気をつけてね」とか。何気無い言葉の応酬が嬉しかった。待っててくれる人が居て、帰る場所がある。そんな当たり前のことが、いとおしい。

最初は言葉だけで感動してたんだけど、段々と欲が出てきた。言葉と共に彼女の笑顔が欲しいと思うようになった。

腕の中の彼女の耳に口を寄せる。


「…泣けよ、メルティア」


びくん、とメルティアの肩が震えた。

お。泣くのか?と思って抱く腕の力を抜いた時。

力の緩みに気付いて、腕から彼女が素早く抜け出した。…正確には、抜け出そうとしたけど直ぐに引き戻す。

――少しだけ見えた顔は、真っ赤だった。


「どうしたの?」


また、耳に口を寄せる。今度は先程よりも近く。触れるか触れないか程の近さで。


「な、な…何でもない!」

「そうかな?何でもないなら、顔を見せて欲しいんだけど」

「無理よ!」

「おや、残念」


きっと、今の俺は口の端が上がっているだろう。意地悪な表情にはならないように、笑みは優しく、優しく。

やっと意識してくれたのだ。焦って、急に距離を縮めたら心の距離は遠ざかるだろう。

包囲網は、相手に気づかれないように敷かないと…ね?


「ところで、さっきから…」

「ん?」


言いにくそうにしているので、先を促す。顔が見えないのが残念でならない。

中々言い出そうとしないので、切っ掛けを与えようとわざと…名前を呼んだ。


「どうしたのかな、メルティア?」

「それよ!さっきから…名前」


切っ掛けを掴んで話を進めようとした彼女に、笑顔で一発。


「俺達、夫婦だよ?これからの人生を共にするのに、何時までも他人行儀なんて寂しいじゃない」

「!」


そ、そうね。って顔を真っ赤にしながら逃げていったメルティアの頭に「離婚」の文字は浮かんでいないであろう。夫婦の終焉を示す「離婚」も、選択の一つであると。でもね、離婚?しません、させません。考えさせもしません。

俺を新境地に目覚めさせたんだから、責任はしっかりとらなくちゃね?



―――彼は笑みを浮かべた。それは一人の女性を想う…幸せな、美しい笑みだった。




お付き合い頂きありがとうございました。


以下、ついでな裏設定を



魔導師は婿入りしてます。

畑はご近所さんの協力の下、ほぼメルティアが主体となって管理してます。

キーリアルは治癒や魔法を使って、人々の役にたってます。治癒はそのままだ。魔法は熊を追い払うやら、狩猟を手伝うやら、農作業の手伝い等に使うなど…活動はオールマイティー。最初は「メルティアちゃんにばかり畑をやらせるなんざ、男の名折れじゃー!」ってな感じに認められてませんが、自然とカルテスのおっちゃん達は「ひょろっこいけどやるじゃねえか!」ってな目になります。

途中出てきたラベールさんは財産や地位もカルテス一の男(結局は村長の子)と結婚したため、同世代に「いいでしょう!」と優越感に浸っていたのですが。

いざ、同世代のメルティアが「勇者の仲間=英雄の一人」、「金色の瞳=わりかし高貴な血筋」、「イケてる妙齢の男」、「都会のイケメン=スラッとした細身≠田舎のイケメン=体躯がよいガッシリ型」…、諸々な条件のキーリアルを婿さんとしてゲットしたために、きぃー!とばかりにハンカチをかんだ訳です。

まあ、彼女はメルティアに暴言を吐いたのできっちりとキーリアルに報復されます。犯罪にはならないギリギリのラインで。



その他、某RPG的なパラメーターも用意しましたが著作権を考えた結果、みなさまのご想像に任せる事にします。


それでは、此処まで読んでいただき、どうもありがとうございました。

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