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副題「信じる者は救われる」

元来の心配性のせいか、俺は元々寝るのに苦労するタイプだった。

ベッドに入っても無為に数時間を過ごすということがデフォルトで、寝なきゃいけないという意識のせいで更に寝れなくなるという負の連鎖に(おちい)っている大勢の日本人の内の一人だ。

常に目の下に特大のクマを飼っている俺を見かねてこの間たった一人の友人が睡眠導入動画というのを紹介してくれた__これが予想に反してなかなかイケた。

ここ最近は、その動画を見ながら寝落ちすることもしばしばで昨夜の記憶はスクイーズがナイフで刻まれるところで途切れている。

だから、虚ろな意識の中でごりごりという音を聞いた時も、同じ系列の動画が自動再生されているのかなとしか思わなかった。


それはちょうど微睡(まどろみ)の中にいる心地だった。


視界には何もない。

と言うより、視覚__いや五感すべての存在自体が自分の中から消え失せ、ただただ意識だけがぽんと何もない空間に浮かんでいる__そんな状態で音だけが聞こえた。


__ごりごりという何かがこすれるような音、

蛇口から出しっぱなしの水があふれるような音、

もっと遠くのほうでも水の音がする__これは川か?

風の音も、枝木がこすれあう、かさかさかさ

かちゃかちゃと金属が触れ合うような音、

身動き、誰かが水だまりを踏んだようだ。

くぐもった何かの音。

また摩擦音、ずっと聞こえる水流、ざらざらざら

水流の音よりももっと近く上の方から音が聞こえる。

調整中のラジオが発せられるぶつぶつと途切れているような曖昧模糊(あいまいもこ)

突然、周波数が気味の悪いほどぴたりと合った。

「__ありがとう」


はっとして目が覚める。

じっと肌を湿(しめ)らす汗を感じ、よって失っていた五感と肉体の存在を知覚する。

自分の荒い息遣いが静かな部屋の中でやけに大きく聞こえた。

耳に刺さったままになっていたイヤホンを外し、顔の横にあった携帯を手に取った。

画面は黒かった。

しかし、あの音は確かに存在した。夢の産物ではない。

それぐらいに熱烈にあの音は耳に残っている。

__もしかしたら、音を聞いてからすぐに起きたと思っていたが、タイムラグがあったのかもしれない。

そう思って、youtubeの履歴を見返したが、それらしき動画はなかった。

けれど、確かにあの音はあった。

まだ耳に残っている。


××


「確定未来の音だね」

場所は、学校の特別棟__第2階段の下にある用具室だ。

ここが我ら非公認オカルト部の部室だった。

我らといっても、狭い用具室には二人しかいないし、内一人は別にオカルトなんかに興味はない。

ただそいつ__つまりは俺の唯一の友人が重度のオカルト信者でそれに付き合っているだけの話だ。

その友人がにやにやと相貌を崩して「やっぱり深夜の正夢は本当だったんだ」と呟いている。

「どういうことだよ」

「君はまさに超常現象の類を体験したってことさ__いや、超常現象という言い方は語弊がある。

単にそれは現代の科学じゃ説明できないだけの純然たる事実なんだ」

お得意の高舌を垂れるオカルト部部長殿に事の詳細を問いただすと、どうやら奴は俺を使って都市伝説の実証実験をしていたらしい。

「君に送ったあのURLはいわくつきの動画というやつでね。

意識がなくなるタイミングにあの音声を頭に流しておいて、その状態で寝ると、近い未来の音が聞こえるんだ。

ただ、その未来の音を聞いてしまった瞬間、それは確定未来となって、必ず訪れる。

シュレディンガーの猫と一緒だね。音を聞いた瞬間、それまで無数にあった選択がその音の聞いた未来という選択に絞られるんだ」


どうやら俺は思った以上に前世で得を積まなかったらしい。


「お前が俺に気を遣うなんておかしいと思ったんだ」

「おいおい、聞こえが悪いな。

僕みたいな人間がそばにいるから退屈しない人生を歩めるんだぞ、むしろ感謝してほしいものだ」

自分の欲求を神格化しているらしい友人の宣教を無視して、俺は机に無造作に投げ出された奴の鞄からはみ出ているノートを手に取り、ぱらぱらとめくった。

この真っ黒いノートは奴にとってのバイブルで、内容は実にばかばかしく荒唐無稽(こうとうむけい)胡乱(うろん)な目で取り組むこと推奨なのだが、この男は両眼(りょうまなこ)をかっぴらいて一文一文がコペルニクスの提唱なのだと鼻息を荒くして読む。おかげで、BOOK〇FFで購入された原価12000円の第18版は天地の余白どころか行間ですら細かい文字でびっしりと覆われている。


アステカが起因しているのでは?

言霊と発祥の関連性、生みだされる? そこに法則はあるのだろうか?

そもそも偶発性とは?後発的な現象は全く別次元のロジックがあると思う。けど、原子的にはやはり0か1に相対するものになるのだろう。

となると、両者はやはり相似性があり、トンネルでつながっているのだと思う。

ただし、問題はそれらが不可逆なのかという点だ。

そして矢印がどちらからどちらなのかという点だ。

それが第一の命題。


第二、2つ以上のそれは同時に存在できるのか?


__高2になってこれは中々やばいと思う。

睡眠障害を生じているせいで他人と交わろうという気力のない俺も俺だが、こいつは別の意味で俺の他に友人がいないのだろう。

「そういえば、来週末はどうなりそうなの?」

「…ん?」

「12日の!

ネットでUMAの目撃証言のある現場にフィードワークしに行くって言ったでしょ!」

「え、ぁあ、大丈夫だった。今月は忙しいらしくて帰ってこないって」

「はあ、マサコさんも大変だねぇ」

「人の母親を名前で呼ぶな

まあ、そういうことだから、付き合ってやるよ。ちなみに、今回はどこなの?県外だったりする?」


、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。


「ふふふ、ひ・み・つ

着いてからのお楽しみだよ~」

「すげえ週末に予定作りたくなってきた」

「お前の休みの日の予定なんて寝ることかネットサーフィンしかないじゃん」

「ああ、そういうこと言うのね?俺多分来週風邪ひくわ」

「わー!うそうそ!!

、、、なーんて笑

なんだかんだ言ってあきらは俺の言うこと聞いてくれるもんね!」

「俺たち友達だもんな!」とバカみたいに明るくそいつは言った。

俺が呆れて鼻を鳴らしたのを肯定ととったらしい。


あいつは双眸(そうぼう)を細め、とても嬉しそうに頬を緩めた。

「ありがとうね」


××


たっぷりとした水面に水が注がれていく。

蛇口は出しっぱなしにしてあった。

足裏からじんわりと湿り気を感じ、俺は左足をよけた。ちゃぷんと水が跳ねる。

大きな木桶からあふれた水はそれ以上広がらず、床下や壁のつなぎ目に吸収されているらしかった。

耳を澄ますと、確かに川の音、風の音が聞こえる。

あぁと落胆が改めて訪れる。

身じろぎ、床と靴がこすれる。金属製の音。

それから__

あえて、意識から追い出していた音の発生源に目を向けた。

2つの真っ黒な(まなこ)が平常じゃない感情を持って俺に向けられている。

「なんでだよ」

俺は友人に問いかけた。答えは返ってこない。

「これも検証ってやつなのか?

そこまでしてお前は証明したかったのか?

これも発展のために必要な犠牲って割り切るつもりだったのか?

お前は__ 」

__そこまで狂っていたのか?

くぐもった音が静かな山小屋の中で存在感を放った。

涙も出なかった。これから自分の身に起こることを思うと泣いてもおかしくないはずだが、不思議なほどに感情は平坦だった。ただ、濡れた布巾が気道から肺にかけて被せられてそれがやけにずっしりくる、そんな心地だった。


「なあ、俺を殺して一体、お前は何に会うつもりだったんだよ」

再度返答はなかった。そりゃそうだ、あいつのシャツがそれを封じている。

俺がやった。

あいつの頭から流れている血も直接的に手を下したのは俺だ。

しゃがみこんでボストンバックの中身を漁る頭に手にしていた金槌(かなづち)を振り下ろした。

だが、それらすべての原因はこいつ自身だ。

「本当、最悪だよ」

くぐもった声が何かを言い訳するように言葉にならない音を発する。

俺はこいつが用意していたのだろう壁に立てかけられたナタを手に取った。

「恨むなら、馬鹿な事を考えた自分を恨めよ」

絞首台に上がる囚人のような心地で友人だった男に近づく__そして、ふと立ち止まった。

「ああ、そうだ。確定未来だっけか」


俺は苦々しい思いで未来を口にした。

「智晴、今まで、、、ありがとう」


次は蛇足になるので本文にはなりませんが、もし何か違和感を持っていて

でも、その違和感の正体が不明瞭でもやもやするという方がいらっしゃたら、そのままつづきをどうぞ


読んでいただいてありがとうございました。

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