79話 魔女の置き土産と火竜の捕食
白き竜王との密約、そして竜族の実質的な配下入り。
事後報告を受けたお姉さんとカーミラからの猛烈な小言は、同行していたズワルトが奇病の特効薬としての魔王の体液という事情を口添えしてくれたおかげで、ひとまずは落ち着きを見せた。
「事情はわかりましたが、問題があります」
「そうねえ」
だが、問題は体液をどう集めるかだった。
いくら俺が頑丈でしぶといとはいえ、竜族のために血を抜き続ければ、出血多量で干からびて死んでしまう。
かといって、涙や唾液といった別の体液は、そう都合よく大量に集められるものではない。
「……ならば、定期的に我らがこの地を訪れるか、そなたが竜族の土地へ赴き、その都度少しずつ血を採取するという形をとろう」
ズワルトはそう現実的な提案をし、「追ってまた連絡する。我はすることがあるゆえ、これにて失礼する」と、足早にオロネスの館を去っていった。
そして厄介な黒竜が帰った途端。
「さあて、ミア? 二人きりでお話ししましょうか♡」
「ひっ……!」
俺はお姉さんにガッチリと捕獲された。
さらに、どこからともなく「やっほー!」と現れたティエラも加わる。
どうやら竜族が配下となるのを聞いたあと、転移魔法を小刻みに何度も繰り返し大急ぎでやってきたらしい。
「ねえねえ、私も混ぜてよ。この子に言いたいことあるから」
そのまま俺はベッドのある私室へと無慈悲に連行されてしまった。
ドンッ、とベッドに押し倒される。
お姉さんは俺の上に馬乗りになると、退路を断つように両腕を押さえつけ、耳元で甘く、ひどく卑猥な声でささやいた。
「……血や涙をたくさん出すのは大変よね。でも、ミア? 血以外の体液なら……いくらでも、たぁーっぷり出す方法があると思わない?」
「うっ……や、やめ……!」
お姉さんの手が俺の下腹部、子宮のあたりを這い、服の上からねっとりとこねくり回し始める。昨日の喉の改造と合わさって、触れられただけで腰が跳ねそうになる。
「いや、それはさすがに……っ!」
「はいはい、イリス、待った」
俺が貞操の危機に必死に抵抗していると、ティエラがパンパンと手を叩いて割り込んできた。
「イリスがこの子をぐちゃぐちゃに貪ってしまう前に、まず私から話をさせて。……ねえ、ミアちゃんさぁ。竜族に対抗するために、私が水面下でいろいろしてた準備、完全に無駄になったんだけど?」
ジト目で睨んでくる魔女。
「そ、それは……その、戦争するよりは、戦争せずに済む方が被害も出ないし……向こうは配下になるって言ってくれたんだし……」
俺が言い訳をすると、ティエラは俺の頬を両手で挟み込み、むにむにと力いっぱい引っ張り始めた。
「ふぇぇっ! いひゃい!」
「まったく、この甘ちゃん魔王め。……まあ、何事もなく丸く収まったなら、それに越したことはないからいいけどね」
ティエラは頬を離すと、今度はぽんぽんと優しく俺の頭を撫でた。
「私はひとまず南の大陸に帰る。道中のんびりと観光しつつね。あ、船の甲板にあった宝石の塊は、約束通り粉々に砕いておくから安心して。……平和になったら、また会おうね。バイバイ!」
そう言うと、かつて勇者の仲間であった魔女ティエラは嵐のように去っていった。
だが、その数分後。
「ミア様。ティエラ殿に、ミア様の命令だということで軍資金からいくらかをお渡ししたのですが……こちら、確認のサインをお願いします」
カーミラが、とんでもない額が記された羊皮紙を持って部屋に入ってきた。
金貨だけで千枚以上。銀貨や銅貨なども含めると、とんでもない量だ。
「……は? 俺、そんな命令をした覚え、一切ないぞ!?」
「えっ? ですがティエラ殿は、魔王からの特別報酬だと……まさかあの魔女、騙しましたね!?」
カーミラが牙を剥き出しにして激怒する。
まんまとやられた。
ティエラはちゃっかり、オロネスの金庫から金をせびっていきやがったのだ。
そのあと大騒ぎするカーミラを宥めるのに少し揉めるも、結果として俺を襲う気が削がれてしまったのか、お姉さんはやれやれとため息をついて解放してくれた。
◇◇◇
「はぁ……疲れた……」
どっと押し寄せる疲労感と共に、俺はベッドにだらりと大の字になって横たわった。
今後のこと……竜族との自治権のすり合わせや、弱体化しつつも復活した先代魔王たるルカの動向などを考えていると、コンコン、と控えめに扉が叩かれ、返事をする間もなくレジエが部屋に入ってきた。
赤い髪に赤い瞳をした少女の姿をしているが、その実年齢はおそらく、前世の俺の年齢を軽く超えているはずだ。
「……レジエ、どうしたんだ?」
「んー、ミアに、言いにきた」
レジエはベッドに近づくと、俺を見下ろして言った。
「同族たちと戦争をせずに済んでよかった。……ミア、ありがとう」
「ああ。俺も、できれば誰も死なせたくなかったからな」
俺が微笑むと、レジエはこくりと頷き……その直後、なぜか着ていた上着をスルスルと脱ぎ捨て、薄着のキャミソール一枚になった。
「えっ、ちょ……」
そのまま、レジエは俺の隣に潜り込み、ぎゅっとしがみつくように抱きついて、添い寝の体勢に入った。
「ミアも、服を脱ごう?」
「いきなり過ぎるだろ……! まあ、あとでお風呂に入るつもりだったから、少しならいいけど……」
俺は文句を言いつつも、上着を脱いで薄い部屋着だけになった。
密着すると、火竜たるレジエの高い体温が直に伝わってくる。そのポカポカとした温かさと安心感に、俺はつい、彼女の細い背中をぎゅっと強く抱きしめ返してしまった。
「……ふふ」
レジエは俺の腕の中でニヤニヤと笑い、上目遣いで俺を見つめた。
「わたしが欲しい? 魔王様? ……いいよ」
そう言って、わざと体の力を抜き、無防備に身を預けてくる。
(くっ……中身はともかく、外見は美少女なんだよな)
至近距離で見つめられ、俺は緊張のあまり、ごくりと無意識に唾を飲み込んだ。
それがよくなかった。
「うっ!?」
唾液が喉を通り抜ける時のわずかな刺激が、お姉さんに改造された快楽のスイッチを押し、俺の体はビクッと小さく跳ねた。
(や、やばい……口内や喉が、まだお姉さんに弄られた影響で、何かを飲み込むだけで異常な快感を得るようになってる……!)
俺は慌てて首をすくめ、喉元を手で隠そうとした。
だが、そのわずかな反応と、俺の体から一瞬漏れ出た甘い匂いを、野生の勘を持つ竜族の少女が見逃すはずがなかった。
「……くんくん」
レジエは鼻をひくつかせ、俺が必死に隠そうとしている喉をじっと見つめた。
「ミア……そこ、どうしたの?」
「な、なんでもない! ちょっと咳が出そうに……」
「嘘つき」
俺が言い訳をするより早く、レジエは俺の喉元に顔を寄せ、その白い肌にガブリと軽く噛みついた。
「んぐぅ!?」
犬歯が肌に食い込み、歯が圧迫し続ける刺激。
改造された喉の神経が爆発し、頭の中がチカチカと真っ白にフラッシュした。
「あ、ぁぁっ……はぁ、ぁん……っ!」
声にならない、甘すぎる喘ぎ声が漏れる。
「……なるほど」
レジエの赤い瞳が、すっと細められた。
今まで被捕食者として俺に甘えていた飼い犬の顔が消え、完全に捕食者のそれへと変化する。
「ミア。ここ、すごく気持ちいいんだね?」
「ち、ちが……やめ、レジエ……!」
俺は涙目で抵抗しようと彼女の肩を押したが、快楽で弱った身では、竜の膂力に敵うはずもない。
レジエは俺の体を軽々とベッドに縫い留め、上から完全に覆い被さった。
「平和を優先してくれた優しい魔王様を……わたしが、いーっぱい気持ちよくしてあげる」
「やめろぉぉ……っ!」
俺の弱々しい悲痛な叫びは、再び喉元に落とされた熱い口づけと甘噛みによって、蕩けた喘ぎ声へと塗り潰された。
結局、お姉さんの魔の手から逃れた直後にもかかわらず、俺は竜族の少女に隅々まで“食べられる”ことになるのだった。




