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74話 少女になった魔王の誘惑と棺の中の密約

 先代魔王の復活という魔界最大の禁忌は、なんとも言えない奇妙な空気の中で話し合いへと移行していた。


 「……世界征服を当面見送ることには、同意しよう」


 金髪の少女の姿となった魔王は、台座の上で不機嫌そうに腕を組んだ。


 「だが、それはそれとしてだ。このような非力な少女の体で復活させたことについては、きっちりと仕返しをさせてもらうぞ、魔女」


 凄む魔王だったが、対するティエラはまったく怯えていなかった。

 むしろ「さあ、どんなお仕置きでもドンと来い!」と言わんばかりに両腕を広げ、下心満載の顔で待ち構えている。

 その変態的な態度に、魔王は心底嫌そうに顔をしかめ、舌打ちをした。

 そして魔王の視線は俺の方へと向けられた。


 「……考えてみれば。この厄介な二人がここまで来られたのは、南部の魔王であるお前が手引きしたせいでもあるな?」

 「えっ!?」


 いきなりターゲットが自分に向き、俺はビクッと肩を跳ねさせた。

 いやまあ、エドガーなどを騙して入ったけれども。

 魔王は何かを思いついたように、薄く笑った。


 「イリス、魔女。お前たちは少し外に出ろ。……ミアと個人的に話がしたい。エドガー、お前は外で見張りをしろ」

 「はっ!」

 「えー、私もミアちゃんと一緒に残りたいのにー」

 「……おいたが過ぎるようなら、扉ごと吹き飛ばすわよ?」


 不満げなティエラと、殺気を放つお姉さんだったが、俺が「大丈夫だ、少し話すだけだから」と目配せすると、渋々といった様子で地下室から出て行った。

 残されたのは、俺と、壁際に控えているカーミラ、そして金髪美少女の魔王だけだ。


 「あの……そこの吸血鬼は、残してもいいのか?」


 俺が尋ねると、魔王は台座からゆっくりと降りながら答えた。


 「あいつには見届け人となってもらうため、残ってもらった。……さて」

 「な、何を!?」


 素肌にローブを羽織っただけの魔王が、俺に近づくなり突然腕を掴んできた。

 そのまま強引に引っ張られ、あろうことか、部屋の中央にある巨大な棺の中へと一緒に引きずり込まれたのだ。


 「ちょ、まっ……!」


 ドサッと棺の底に倒れ込んだ俺に、魔王が上から覆い被さり、抱きつくように密着してきた。

 ローブの隙間から、魔王のひんやりとした素肌が直接触れる。


 「……先ほどお前の記憶を覗き見て知ったが。イリスに作られたその体、ずいぶんと強力なようだな」


 魔王の顔が、俺の耳元に寄せられた。


 「魔法の器として、底知れぬ発展性があると言うべきか。……ミア、お前が私のものになれば、いずれ私に力を還元し、再び人界への侵略を再開できるというものだ」

 「なっ……」


 ささやきながら、魔王の手が俺の体をいやらしくまさぐり始めた。

 お姉さんのようなねっとりとした甘さはない。もっと荒々しく、強制的に快楽を得る部分をこじ開けるような、力強い触り方だ。


 「んんっ……あ、ぁ……っ」

 「どうだ? イリスを裏切れ、と言っているのだ」


 首筋を這う指先と、支配的な言葉責めが合わさって、サキュバスの体は意思に反してびくびくと快感に震えてしまう。抵抗しようにも、指先から流し込まれる魔力が体を痺れさせていた。


 「裏切って、私のものになれ。……お互い、以前は男だったが、今はこんな可憐な少女の姿だ。慰め合うにはちょうどいいだろう?」

 「ミア様から離れなさい!」


 主君の危機に、壁際にいたカーミラが激昂して飛び出してきた。鋭い爪を立て、魔王へと迫る。だが……。


 「邪魔だ」


 魔王はカーミラの方を振り向きすらせず、片手を軽く向けただけだった。


 ドンッ!


 「きゃあっ!?」


 放たれた不可視の魔力の塊がカーミラを直撃し、彼女は木の葉のように吹き飛ばされ、壁に激突して気を失った。


 「見ろ」


 魔王は俺を見下ろし、傲慢に微笑んだ。


 「以前の肉体と比べれば、今はずいぶんと弱くなっている。だが、それでもそこらの有象無象を倒すには事足りる。……それに、数十年も鍛え直せば、かつての実力などすぐに取り戻せる」


 そう言って、魔王は俺の首筋にそっと息を吹きかけた。


 「ひゃっ……!」


 さらに、彼女の長い金髪がサラサラと俺の頬や首をくすぐり、得体の知れない快感を生み出す。


 「……く、そ……っ。誰が、あんたの提案になんか……乗るか……っ」


 俺は奥歯を噛み締め、必死に耐えた。

 すると、魔王はにやりと嗜虐的な笑みを浮かべた。


 「いささか乱暴になるが、許せよ」


 言うが早いか、魔王は俺を棺の底に仰向けに寝かせ、その上に馬乗りになった。

 そして、自分の膝を、俺の平らなお腹の中央……子宮のあたりに押し当て、ゆっくりと体重をかけて圧迫し始めたのだ。


 「ぐっ……あ……えっ?」


 痛くは、ない。

 小柄な少女の膝で、じわじわとお腹の奥を押し潰される圧迫感。

 それが、サキュバスの特異な神経を直接刺激し、おぞましいほどの快感となって脳天を突き抜ける。


 「あ、ぁぁっ……! や、だ、だめ、そこ……押しちゃ……っ♡」


 少しずつ膝の力が増すたびに、俺の表情はだらしなく崩れ、快楽に歪んでいく。


 「ずいぶんと気持ちよさそうだな、変態」


 魔王が冷たく見下ろして笑う。


 「なっ、だ、誰が……変態、だ……っ!」

 「お前だよ」


 魔王は意地悪く膝をぐりぐりと動かした。


 「ひぐっ……」

 「十代半ばの、こんな非力でか弱い可憐な少女の姿をした私に、お腹を押し潰されただけで……そんなにも快楽を味わい、蕩けた声を上げている。ミア、お前のことだ」


 言葉のナイフが、男としてのプライドをズタズタに切り裂いていく。

 こんな子どもみたいな体の相手に、いいようにやられて快感を感じているなんて。


 「ち、ちが……俺は……っ」


 それでも首を振って認めない俺に対し、魔王は片手を振り、空中に魔法の鏡を作り出した。


 「ほら、見てみろ」


 鏡に映っていたのは。

 頬を真っ赤に染め、瞳を涙で潤ませ、口を半開きにして熱い吐息を漏らす……快楽に完全に負けきった、変態サキュバスの顔だった。


 「……これが、俺?」


 あまりにも堕落した自分の顔に、俺は絶句した。

 俺が自分の現状を認識したのを見計らい、魔王は完全に俺のお腹の上に腰を下ろして座り込んだ。

 重みで身動きが取れなくなった俺の口元に、魔王の細い指が伸びてくる。


 「んぐっ……」


 強引に口角に指を引っ掛けられ、無理矢理に笑顔の形を作らされる。


 「ほら、笑え」


 数秒後、指が離される。だが、強制されたはずの笑顔は、脳髄を支配する快楽のせいで、蕩けた笑みのまま顔に張りついてしまっていた。

 鏡の中の、快楽に酔いしれて笑う自分の顔。


 (……なんだこれ。やばい、すごく……可愛い……)


 男としての根幹が揺らぐ。このまま、この強い力に屈して、快楽に身を委ねてしまえばどれほど楽だろうか。


 「……負けにゃい……っ」


 舌足らずな、情けない声が漏れた。

 それでも、俺は瞳の奥の反逆の炎だけは消さず、魔王を睨み返した。

 あくまでも、屈服だけは拒絶する。

 その視線を受け、魔王は少しだけ驚いたように表情を変えた。


 「……ふっ。意外と強情だな」


 魔王はお腹の上の圧を少しだけ緩め、面白そうに目を細めた。


 「だからこそ、あのイリスにも完全に堕ちきっていないわけか。なるほど、面白い。……ならば、今のところは手を貸そう。異界の魂よ」

 「え……?」

 「力を取り戻すまでの、長い、長い準備期間だ。利用できるものは利用させてもらう」


 魔王の吐息が、ふーっと俺の敏感な耳の裏に吹きかけられ、ビクッと大きく体を跳ねさせた。


 「んあっ……」


 一応、世界征服を保留にし、協力関係を築くという密約は交わされた。

 だが、魔王は俺の快楽に弱すぎる反応を見るのがすっかり楽しくなってしまったらしい。


 「……さて、あの吸血鬼が目を覚ますまで、もう少し時間があるな」

 「ま、待って、もう話は終わっただろ……っ!?」

 「交渉はな。だが、お仕置きはまだ終わっていない」


 カーミラが意識を取り戻すまでの十数分間。

 俺は棺の中で、金髪の少女な魔王から、言葉責めと物理的な刺激による快楽を、休む間もなくたっぷりと送り込まれ続ける羽目になったのだった。

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