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66話 息吹による快楽と海を渡るかつての英雄

 東の竜の国からルーサーの領地へと帰還した俺を待ち構えていたのは、言うまでもなく、この世で最も甘くて恐ろしい、副魔王イリスのお出迎えだった。


 「おかえりなさい、私のミア。……ずいぶんと濃密な時間を過ごしてきたみたいね?」


 出迎えるなり、お姉さんは有無を言わさず俺の脇の下に手を入れて、軽々と持ち上げた。

 そのまま抵抗を許さず、ルーサーの屋敷の別室へと連行される。扉がバタンと閉まり、鍵がかけられた。


 「うぅっ!? あ、んんっ……!」


 ベッドに放り出された俺に、お姉さんが覆い被さってくる。

 そこからは、言葉による尋問と、肉体への快楽責めの同時進行だった。

 耳たぶを甘噛みされ、敏感な脇腹や太ももを執拗に撫で回されながら、竜王との謁見で何があったのか、根掘り葉掘り聞き出される。


 「あ、ぁんっ……りゅ、竜王は……船団が来るから、対処しろって……っ!」

 「へぇ、あの古トカゲがそんなことを。……他には? 道中、何か変わったことはなかった?」


 お姉さんの指先が、服の上から俺の胸の先端をピンポイントで弾いた。


 「ひぃっ! な、なにもっ……!」


 俺の脳裏に、路地裏におけるカーミラとのインモラル過ぎる吸血の記憶がフラッシュバックする。

 全身で触れ合いながら、血を吸い合う、淫ら過ぎる行為。


 (言えない! あんなこと言ったら、俺もカーミラもどうなるかわからない……!)


 お姉さんの鼻は、俺に染みついたカーミラの血の匂いなどとっくに嗅ぎ取っているはずだ。彼女の目は完全に笑っていない。

 それでも俺は、必死に唇を噛んで快感に耐え、カーミラとのことだけはギリギリ隠し通そうと努めた。


 「……ふふ。まあ、いいわ」


 数分に及ぶ尋問のあと、お姉さんは不意に手を止めた。

 俺が必死に秘密を守ろうと耐えたその健気な努力に免じて、今回はあえて騙されてくれるらしい。


 「今日はこれくらいで解放してあげる。……でも、最後に一つだけね」

 「えっ……んぐっ!?」


 お姉さんの指が、俺の鼻をつまんだ。

 息ができなくなり、俺は反射的に口を開けて呼吸しようとする。

 その開いた口へ、お姉さんが自らの唇を重ね──思い切り、息を吹き込んできたのだ。


 「かぁっ……!? あ……っ!」


 肺の奥まで強制的に他者の熱い息が侵入してくる異常な感覚。

 それと同時に、お姉さんの呼気に含まれた濃密な魔力が俺の体内を駆け巡り、一瞬で全身の神経がショートした。

 ガクガクと俺の体は痙攣してまったく動けなくなる。


 「んちゅ……れろ……」


 抵抗できなくなった俺の口内に、お姉さんの柔らかな舌が侵入してくる。

 俺の舌を絡め取り、舐め回し、存分に感触を楽しむと、今度は甘い唾液を直接喉の奥へと流し込んできた。


 「ううんっ……ぁ、ぁん……っ、はぁぁ……♡」


 俺の口から、自分でも信じられないほど甘く、蕩けた喘ぎ声が漏れてしまった。それはもう、完全に男の原型を留めていない声だった。


 「……っ」


 その声を聞いた瞬間、お姉さんの瞳の奥で何かが赤く燃え上がった。


 「ごめんね、ミア……あなたが可愛すぎるのがいけないのよ」


 うずうずとした衝動を抑えきれなくなったのか、お姉さんは解放するどころか、さらに深く舌をねじ込み、自分の唾液を何口も何口も飲ませてきた。

 結局、俺が完全にのぼせて気絶寸前になるまで、その濃厚な儀式は終わらなかった。


  ◇◇◇


 翌日。まだ腰の辺りが砕けていてふらふらな俺は、レジエの背中に力なく乗せられ、全員で南東の港町へと向かっていた。

 その港町の名前はリヴィラ。

 上空から見下ろすと、かつて栄えていたであろう巨大な港の残骸が広がっていた。

 朽ち果てた造船所の廃墟、壊れたまま放置された巨大な防波堤の施設。

 現在は、その広大な敷地のほんの狭い範囲でだけ、人々が細々と活動しているに過ぎない。


 「取り壊して更地にするのにも、莫大なお金がかかるからね。放置しているのさ」


 一緒に同行してきたルーサーが、肩をすくめながら廃墟を指差した。


 「一応、ここから海路を使って、君の領地の東西を海で繋ぐ計画も立てられないことはないけど。……港を再建して航路を開拓するとなると、年単位の事業になるね」

 「それなら、今は置いておこう」


 俺は港に降り立つと、レジエに指示を出した。


 「レジエ、軽く空から海の方を見てきてくれないか? 船団の影がないかだけでも」

 「うん、わかった」


 火竜の姿で沖合へと飛んでいったレジエは、しばらくして戻ってくると報告した。


 「……大船団は見えない。でも、数隻の船が、東の海を北上していくのが見えた」

 「竜の国へ向かう密貿易の船だな。やっぱり、細々と続いているのか」


 さらに沖合の遠洋まで出て調べるかという話になったが、万が一海上で何かあればレジエといえども危険なため、今は保留とした。


 「ミア、いい知らせだよ」


 少しすると、ルーサーが港の酒場から戻ってきた。


 「南の大陸の船乗りから、直接情報を得られた。連れてきているよ」


 ルーサーによると、強力な海の魔物が存在するため、安全な沿岸部以外、遠洋に出る船は極めて少ないらしい。


 (海の上じゃ、対処するにも限度があるし、そりゃそうなるか)


 一体とかなら、どうにでもなるだろう。でも、大量の群れが相手なら?

 大陸間を行き来するような長距離航海に出るのは、密貿易で一攫千金を狙う命知らずな者ばかりだという。

 それを聞いて、俺はふと疑問に思い、隣を歩くお姉さんに尋ねた。


 「なあ。もし仮に、お姉さんが裏切らなかったとして……先代魔王って、本当に世界征服なんてできてたのか? 海を渡るだけでも相当な被害が出そうだけど」


 お姉さんは軽く手で口元を隠し、少し考え込んだ。


 「うーん……そうね。人間が多数派な南の大陸を支配するところまではいけたと思うわ。でも、それ以上はわからないわね。海は魔王の力でもどうにもならない部分が多いもの」


 あの強大な先代魔王ですら、海という大自然の脅威は一筋縄ではいかないようだ。

 そうこうしているうちに、ルーサーが件の船乗りを連れてきた。

 潮焼けした顔の、いかにも荒くれ者といった風体の男だ。


 「へへっ、金がもらえるってんなら、知ってることは何でも話しますぜ」


 周囲の威圧感など気にする様子もなく、男は金貨を受け取るとペラペラと喋り始めた。


 「もうすぐこっちに向かってくる大船団……あれを率いてるのは、ただの商人じゃねぇ。人間の軍隊だ」


 船乗りは声を潜めて言った。


 「噂じゃあ、率いてる総大将は、昔死んだ勇者の……当時仲間だった奴らしいぜ」

 「勇者の仲間!?」


 俺は思わず声を上げた。


 「ああ。勇者本人は、何年か前に年取って死んじまったらしいがな。……当時のパーティーだった、騎士か、魔女か、僧侶の誰かが、船団を率いてるって話だ。誰が来るかまではわからねぇがな」

 (……四人パーティーで魔王に挑んだのか)


 俺の頭の中に、前世でプレイしたRPGの王道構成が浮かび上がった。

 お姉さんの言葉によれば、その勇者たちは先代魔王を滅ぼした張本人たちだ。それが、数十年の時を経て、再び魔界の大地に足を踏み入れようとしている。


 「……戦いになるのか?」


 俺が緊張して聞くと、船乗りは首をかしげた。


 「さあ? もちろん、戦いになっても大丈夫なように、ガチガチの武装はしてると思うが……最初から戦争を前提にして船を出してるわけじゃねぇはずだ。何か別の目的があるんじゃねぇか?」


 なんとも不安になる答えだ。

 話し合いで済む相手ならいいが、魔族を親の仇のように憎んでいる連中だったら、問答無用で戦争になる。

 どう対応すべきか、港町で軍議を開こうとした。

 だが、悠長に悩んでいる暇は与えられなかった。

 たった二日後。

 リヴィラの港から見渡す水平線の彼方に、白波を立てて進む無数のマスト……人間の大船団の影が、はっきりとその姿を現したからだ。

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