34.再度のお茶会
今日はラルス殿下の友人候補を募る王宮主催のお茶会。
私とユリアーナ(とおまけのカールハインツ)は、朝から準備に忙しくし、支度を終えるとすぐに馬車に乗り込んで出発した。
「今日はどんなお友達ができるかな」
緊張しつつも瞳を輝かせたユリアーナを見ているだけで愛しさが溢れてくる。
「沢山お話できるといいわね」
「はい! お茶会の人数が増えたらきっともっと楽しくなりますよね」
ラルス殿下のことは眼中に無いのが少し不憫な気もするが、これも全てユリアーナの幸せのためだ。今は友人作りを楽しんでほしい。
王城に辿り着くと、既に沢山の貴族たちが参集していた。
「ブランシュ公爵家です」
先程まで空気だったカールハインツが門番に名を告げる。最近はユリアーナしか目に入っていないから、彼の存在をうっかり忘れるところだったわ。
今さら甘い目をして見つめられても背筋が寒くなるだけだ。
私が厄災にならないようにそばにいるだけ。
根本的な解決策があればそちらを試してみたい。
神様もいくつかの選択肢くらい用意しておいてほしかったわ。
それだけしか選べないのが腑に落ちない。まるで私が折れないといけないみたいなのが腹立たしい。
──ああ、いけないわ。
カールハインツを見るだけで心の闇が広がりそう。やはり離婚を視野に入れた方がいいのかしら……。お父様もいつでも戻って来ていいとおっしゃってくれたし。
「でも、今日はお母さまとお父様と一緒で嬉しいです」
ユリアーナは本当に嬉しそうに言う。
こんなことを言われたら動けなくなる私は、意志薄弱過ぎて情けない。
「今日は気にせず、楽しむといいよ」
「はい!」
くぅうう! 厄災のバカヤロウ!
馬車を降りて受け付けを済ませると、王城内の中庭に案内された。
天気がいいので今日も屋外でするらしい。
風が爽やかに頬を撫でると、花の香りが鼻孔をくすぐる。
辿って行くと、様々な花が客人を迎えてくれているようだった。
国王陛下の挨拶のあと、続いて王太子殿下がご挨拶された。
「本日は王宮主催のお茶会に集ってくれたことを感謝する。ぜひラルスと仲良くしてやってほしい」
王太子殿下がなぜかこちらをチラリと見られた。
ユリアーナに狙いを定めているのかしら。
構わずにきゅっと睨み返す。不敬なんてお構いなしだ。こっちはユリアーナの人生がかかっているのだから。
ユリアーナは少し緊張しているのか、ドレスを握り締めている。
周りのご令嬢を見てみれば、やはり金髪碧眼のラルス殿下のお色をまとったご令嬢が目立つ。
そんな中、薄紫の可憐な衣装を身に着けたユリアーナの可愛らしさが際立ってしまっているような気がしてハラハラする。
気のせいかしら。周りの令嬢令息から注目されているような気がするわ?
周りに威嚇しようとしたけれど、そういうときに限ってカールハインツが微笑んでくる。
「やめておけ」と圧をかけられているようで、心の中で地団駄を踏んだ。
ちなみに前回のお茶会で、ラルス殿下の婚約者はもちろん、側近候補も決まらなかったようだ。
前回の取り巻きで覚えていた中で、シュバルツ様はユリアーナとエルナ様と一緒にいたし、デニス様は親がアレだったから交流どころではなかったのだろう。
ラルス殿下も同い年の子で気に入った子がいなかったのかもしれない。だから今回は二つ下から三つ年上も対象になっている。
シュバルツ様の兄にあたる子も対象だが、来ているかどうかは分からない。
確か彼は、前回は公爵夫人と共に領地に行かれていた。お姿を見ないところから、おそらく今回も同じだろう。
どちらにせよ、王家としては光と闇の公爵家のどちらかは取り込みたいだろうから、警戒はしておかないと。
「お母さま、今日もラルス殿下がご挨拶にいらっしゃるの?」
「今日はこちらから行くみたいよ」
「では、ご挨拶したらお友達のところへ行ってもいいかしら?」
肝心のユリアーナはラルス殿下に全く興味がないようで拍子抜けする。
早くシュバルツ様やエルナ様のところに行きたくてたまらないようで、思わず苦笑した。
「いいわよ。ただし、ご挨拶はしっかりしてね」
「分かりました!」
ユリアーナは嬉しそうに、にっこりと笑った。
「ラルス殿下、ごきげんよう」
ユリアーナがカーテシーをすると、ラルス殿下は小さく頷いた。
「きみは……父上の側近の子か。いつもすまない」
「お父様のお仕事ですので、理解しております。お気遣いいただきありがとうございます」
「今日は楽しむといい」
「はい。友人たちと歓談したいと思います」
ラルス殿下のご挨拶はこれで終わってしまった。
他の参加者と同じ定型文だわ。気にしすぎだったかしら。
ラルス殿下の前を辞去し、少し離れた場所でユリアーナはホッと息を吐いた。
「お母さま、私、ちゃんとご挨拶できていたかしら」
「ええ、とても堂々として優雅で良かったわよ」
「よかった! ……あの、お母さま」
ユリアーナはそわそわと落ち着かない様子だ。
今すぐにでもエルナ様たちのもとへ行きたいのだろう。思わず苦笑して頭を撫でる。
「ユリアーナのご挨拶は終わったけれど、他の方のご挨拶が終わるまで待っているのよ。エルナ様はまだでしょう?」
ハッとなって、口をきゅっと窄めたユリアーナは、ドレスを弄り始めた。普段落ち着いていると思っても、こういうところはまだ子どもだ。やはり私がきちんと守ってあげないと。
その後、エルナ様たち伯爵家の皆様の挨拶もひと通り終わり、あとは自由歓談となった。
ラルス殿下は前回と同じように取り巻きに囲まれ、けれどきちんと応対しているようだった。
「お母さま、では行って参ります!」
「きちんとご挨拶してね」
「はぁい!」
普段から二人とはお茶会で頻繁に会っているだろうに。ユリアーナは今日という日の意味を理解しているのかしら。
「……楽しそうだな」
そんなユリアーナを見て、カールハインツが呟く。
チラリと見て、私は再びユリアーナが駆けて行った方へ目線を戻した。
「以前はできなかったことをやれて嬉しいのでしょう。笑顔を見せるようになりましたもの」
「……そうだな」
カールハインツは眩しいものを見るかのように目を細めた。
彼には前回の記憶はあるのかしら。
私に対する態度なんかは確かに以前とは変わっている気もしないではない。
だが、信じて裏切られたときが大変だ。だから私は彼を未だに信用できないでいる。
「私はあちらに行きますわ」
「俺もついていこう」
ユリアーナを見送りはしたが、つかず離れずの場所での見守りは必要だ。だから私は一人でユリアーナのあとをこっそりとつけていくはずだった。
「ユリアーナの行った先に、バラ園がある。ちょうど見頃なんだ。きみも気に入るだろう」
思えばこんなふうに誘われたのは初めてかもしれない。
ユリアーナを追いかけるだけ、と言い聞かせ、差し出された手を一拍遅れて取った。




