33.ユリアーナのドレスの色
「泣き虫マリー。きみに僕の加護をあげよう」
優しくて落ち着く声音。私の中の奥底に灯る真っ暗な闇。
その人は泣いている私の頭をゆっくりと撫でている。
「闇はこわい?」
少し不安そうにするその人に、私は頭を振ってみせた。
「いいえ、真っ暗な中で見るお星様はとても輝いて見えるもの」
空を見上げれば、星は常に瞬いているのだという。だが、明るいうちは光に紛れて目立たない。
夜になり闇が拡がれば、一面にきらめく星々が現れる。
月明かりがあれば夜道を照らしてくれるし、寝るときは真っ暗な方が落ち着く。
いつの間にか泣いていたのも忘れて熱弁すると、その人は微かに笑った気がした。
「マリーは優しいね。……ありがとう」
「マリー!」
振り返ると強い光に包まれる。
先程までいた人は、影となって消えてしまった。
誰だったのだろう?
声はどこかで聞いたことがあるのに、暗くて顔がよく見えなかった。
「……あなたが……闇の加護を私に授けたの……?」
自分の声で私は目を覚ます。
目覚める瞬間は覚えていたのに、どんな夢だったのか忘れてしまった。
重要なものだった気もするし、大して意味の無いものだった気もする。
結局思い出せず、ふわぁ、とひとつ息を吐いて、ベッドから起き上がった。
数日前、王宮からユリアーナ宛で招待状が届いた。
ラルス殿下の婚約者、側近候補をそろそろ本格的に決めたいのだろう。今度は二つ下から三つ上の令嬢令息も招待されるようだ。
ユリアーナは当然欠席……と言いたいところだが、私の独断で決めるわけにもいかない。
こればかりはユリアーナの意思を尊重しなければならないだろう。……だが、と、悶々として返事ができずにいた。
「婚約は先日お断りしたわよねぇ……」
イルゼ様にはユリアーナ自らお断りをし、ご理解いただいたはずだ。
大変残念がっておられたが、ユリアーナが望まないのだ。無理に婚約しても反発するだけだろう。
今回も友人を増やすことを目的として参加、でもいいだろうか。
だが、参加してさらに友人が増えてしまうと、派閥など関係なく人と仲良くなれると、ユリアーナを見初められるのではないか。
王妃として相応しすぎると、王族一同諸手を挙げられてしまうのではないか。
けれど、ユリアーナの魅力は全国民に知ってほしい。いや、知らせてはいけない。連れ去られてしまったらどうしよう。
そんなふうに結論が出ないまま、さらに三日が過ぎた。
「お母さま、王宮からの招待状、出してください」
朝食の席で、ユリアーナからきっ、と睨まれながら手を出された。
睨むお顔も可愛らしい……じゃなくて、ユリアーナには何も言っていなかったはずなのに? とサイラスを見るが、困惑した表情を返された。
「サイラスに罪はありません。シュバルツ様とエルナ様に聞いたのです。彼らも参加するそうですわ。当然ですよね。王宮からの招待状を許可なく欠席するなんて、筆頭公爵家のすることではありません」
どこでそんな流暢な言葉を覚えたの……!
アマランス侯爵夫人の教育の賜物かしら?
あとで報奨を与えなければ。
「私ももちろん、参加します。していいのですよね?」
ユリアーナから詰め寄られれば否とは言えない。
ラルス殿下とか、その他とか色々と懸念点はあるもの、結局私は出席の返事を出した。
「今度のドレスはどれがいいでしょうか」
ユリアーナは早速当日の衣装を見繕う。前回は確か、空より深く海より明るい青色のドレスに、所々黄色の差し色という、ラルス殿下を思わせる色合いだった。
「前回は青色に黄色の差し色だったわね」
「はい。……一応、ラルス殿下のお色を意識したのですが、目もくれられなかったのでちょっと恥ずかしかったです。だから、今回は違う色にします」
やはりラルス殿下を意識していたのか。
ラルス殿下はユリアーナを探していたようだったけれど、招待された令嬢のほとんどがその色だったから、逆に目立っていなかったのかもしれない。
「ユリアーナの好きな色にしましょうか。何色がいい?」
ユリアーナは用意されたいろんな色のドレスを着ているから、これ、といったものは分かっていない。
もっと幼い頃から触れていれば……と思ったところで、ユリアーナがちらちらとこちらを窺っているように見えた。
「あの……似合わないとは思うのですが、紫とか、赤とか、いいなって思います」
「紫……に、赤……」
どちらかといえばおとなしめなユリアーナには似合わないだろう。それは意外な色だった。
「そうね。濃い色だとドレスには少し派手かもしれないけれど、薄い色ならばいいのではないかしら」
パステルカラーの紫ならば、ユリアーナの瞳の色と一致するし、銀の髪にも似合うだろう。
ドレス姿を想像すると口元が自然と緩みだす。
「本当ですか? では今度は薄紫色のドレスにします」
「分かったわ。早速仕立て屋に連絡して作らせましょう。サイラス、いいかしら」
「承知いたしました」
控えていたサイラスに言いつけ、仕立て屋を呼んでもらう。
その間、なぜその色にしたのかユリアーナに聞いてみた。
すると小さく目を見開いて、髪を指先でくるくると巻いて遊びだす。
「お母さまの……瞳の色だから……。……私と、お揃いの」
照れたように言うユリアーナを見て、私は膝から崩れ落ちた。
私とお揃いの瞳の色のドレスがいいだなんて、か、……可愛すぎる。
ユリアーナは私をどうしたいのかしら。
ユリアーナを愛することで、私はどのみち萌え死んでしまうのではないかしら。
いいわ、娘のために死ねるなら上等よ。
ああ、でも待って。これからユリアーナはきっともっと可愛くなるわ。淑女として、素敵な女性になる。死んだらそれが見られないじゃない。
いや、また幽霊になればいけるかもしれないけれど、地縛霊になるのは勘弁ね。
「お母さま?」
「だ、大丈夫よ。ユリアーナに似合うドレスを仕立てましょうね」
ユリアーナは頬を染めて小さく頷いた。
仕立て屋を呼び、散々試着してからドレスを選んでいく。
ふんわりとしたシルエットになるようにレースを重ね、けれども重たくならないような工夫をして仕立てていく。
「薄紫でしたら黄色のお色もおすすめですわ」
「では少し入れてください。……金色はお父様の瞳の色なの」
ほーん。カールハインツの色も取り入れるのか。
ユリアーナは優しいな。……ちょっと嫉妬しちゃう。
「私のお衣装でお母さまとお父様のお色があると、一緒にいるみたいで怖くないのよ」
衣装だけでなく実体もそばにいるからね!
王宮主催のお茶会は、今回も保護者同伴だ。
カールハインツも例によって……
「ああ、もちろん行くよ。リュディガー殿下が直接ユリアーナに会いたいそうだから」
気まずそうにそう言った。
これはまさか、ロックオンされているのでは?
じとりと睨むがカールハインツは頭を振る。
「私ではない。妃殿下がラルス殿下のお言葉を伝える際、ユリアーナの名を出したらしい。だから直接謝罪がしたいそうだ」
そういうことなら理屈は通る。だが、ユリアーナの聡明さが伝わると……危ない。
「何度も言いますが」
「分かっている。ユリアーナは王家にはやらない」
大丈夫かしら。
一時は私たちを放って殿下たちの頼みでつきっきりだった。
どうしても、と言われれば、断れないのではないか。
疑いの眼差しで睨むが、なぜか顔を赤らめられたので見るのをやめた。
いつも読んでいただいている皆様へ
お久しぶりです。凛蓮月でございます。
三月中の再開を目標としておりましたが、苺が減りません(白目)
春休みで帰省していた長女ちゃんがバイトで入ってくれていたのですが、終わってしまい懐を潤わせてニコニコで寮に戻りました。
長男くんも春休みが終わり、戦力大幅ダウンしたのに、苺が容赦してくれません。
例年以上に鈴なりで、嬉しい悲鳴どころか身体が限界になりかけ、毎日寝不足で睡魔と戦っております。
苺がなっている間しか収入がありませんので、なり終わるまでがんばります。
それでも少しずつ出力し、一話出来上がりましたので近況報告兼ねて掲載いたしました。
章タイトルは後程付けさせてください。
苺は減ってきていると思うので、定期連載までは今しばらくお時間をいただきます。
そんな中、カクヨム運営様の女性主人公、恋愛のおすすめで選んでいただいたので、落ち着くまでは不定期で連載していきたいと思います。
完結させてから出せよ、はごもっともでございます。
作者としては、作品はナマモノと思っていて、読者様の反応を伺いながら展開を変えたり閃いたりもしているので、ご理解いただけますと幸いです。
不甲斐ない作者ですみませんm(_ _)m
今後とも見捨てないで下さると泣いて喜びます。
よろしくお願いいたします。




